金融活動作業部会(FATF)は16日、暗号資産(仮想通貨)とその交換業者(VASP)に係るFATF基準の実施状況をまとめた第7次報告書を公表した。日本の金融庁も共同議長国として取りまとめに貢献している。報告書は各国の規制整備の進捗を評価する一方、暗号資産を悪用した犯罪が複雑化・収束していると警告した。
組織犯罪による詐欺の「産業化」
報告書が新興リスクの筆頭に挙げたのが、組織犯罪グループ(OCG)による暗号資産詐欺の産業化だ。カンボジアを拠点とする詐欺センターが典型例で、投資詐欺「ピッグ・ブッチャリング(豚の食肉解体)」を通じて世界中の被害者から資金を奪い、複雑な取引経路を経て犯罪ネットワークのウォレットへ移していると説明する。
こうした活動は年間で数十億ドル規模の不正収益を生んでいるという。報告書は具体例として、あるカンボジアの金融コングロマリットが2021年8月から2025年1月にかけて、少なくとも40億ドル(約6,552億円)の不正収益を洗浄したと指摘した。
この企業は、報告書が脚注で参照する米財務省の措置からHuione Group(フイオネ・グループ)と特定できる。米財務省金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)は2025年、同社を「マネーロンダリング上の主要な懸念先」に指定し、米金融システムから遮断した。
40億ドルの内訳には、北朝鮮のサイバー窃盗に由来する少なくとも3,700万ドル(約60億円)が含まれる。その収益は、北朝鮮の大量破壊兵器・弾道ミサイル計画を直接支えていると評価されている。
スペインでは2025年6月、当局がユーロポールなどと連携し、5,000人超の被害者から約4.6億ユーロ(約854億円)を洗浄した暗号資産投資詐欺ネットワークを摘発した。報告書は、詐欺の誘い文句と資金洗浄の経路の双方に暗号資産が使われる手口が広がっていると分析している。
凍結できないステーブルコインという新手口
とりわけ報告書が問題視するのが、法執行機関の介入を回避するために設計された独自ステーブルコインの発行だ。前出のカンボジア企業は、資産凍結の対象外で従来の規制当局の監督も受けないとうたうドル連動型ステーブルコインを発行していた。
この手口の引き金となったのは、2024年7月に第三者のステーブルコイン発行者が、同社に関連するウォレット内の2,900万ドル(約48億円)超を不正の疑いで凍結した一件だった。
多くの正規のステーブルコイン発行者は、当局の要請に応じて取引の停止や資産の凍結・焼却を行う技術的能力を保持している。同社は、この凍結を回避するために「凍結不能」を売りにしたトークンを開発したとされる。
このトークンは複数のパブリックチェーンに加え独自チェーン上でも発行され、資産追跡とチェーン横断の監視をいっそう困難にした。報告書は、VASPが発行者による凍結・焼却機能をコンプライアンス上の安全策として当てにできなくなる恐れがあると警鐘を鳴らしている。
ステーブルコインの悪用は詐欺関連の組織にとどまらない。報告書は、ISILやアルカイダといったテロ組織がビットコイン(BTC)よりステーブルコインを選好し、ウォレットアドレスの頻繁な変更や資金の細分化、複数業者を経由する多段階送金を組み合わせていると指摘した。
AI悪用と収束するリスク
報告書は、人工知能(AI)の悪用が詐欺・ハッキング・資金洗浄の全段階でリスク要因として浮上しているとも述べた。
最近の事例では、攻撃者が偽のプロフィールやディープフェイクの動画面接を使ったAI採用詐欺で被害者の信頼を得たうえで、マルウェアの導入やウォレットへのアクセスを促し、100万ドル(約1.6億円)超の暗号資産を窃取したという。
AIコーディング支援ツールやAIエージェントが、スマートコントラクトの脆弱性分析や攻撃コードの生成に使われる可能性も指摘された。窃取された資産は、ステーブルコインや分散型取引所(DEX)、ブリッジ、複数のVASPを通じて素早く分散され、追跡と凍結を難しくする。
FATFは、拡散金融・テロ資金供与・制裁回避が個別のリスクではなく、共通のデジタル資産インフラを介して相互に結びついた活動として捉えられるべきだとした。官民の情報共有やリアルタイムの阻止メカニズム、成果重視の制裁執行の重要性を強調している。
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※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=163.81円、1ユーロ=185.7円)



