イーサリアム
ETHの共同創設者ヴィタリック・ブテリン氏は10日、量子耐性署名やプライバシー保護の処理を大幅に安価にする新たな提案「EIP-8288」を自身のXで紹介した。同氏が以前から提唱してきた「証明のシンギュラリティ」と呼ぶ構想を実装するもので、6月に公開したFrame Transactions(EIP-8141)に続く次の一手と位置づけている。ブテリン氏は、Hegotá(ヘゴタ)の次のフォークにあたる「I-star(アイスター)」での搭載を望むとした。
署名データをオンチェーンに載せない
EIP-8288の正式名称は「Frame Type for PQ Sig and STARK Aggregation(PQ署名とSTARK集約のためのフレームタイプ)」。EIP-8141を拡張し、暗号署名とSTARK証明をまとめて処理する新しい仕組みを追加する提案だ。
著者はブテリン氏とトーマス・コラトガー氏で、現在はドラフト段階にある。
解こうとしている課題は明快だ。量子コンピュータに耐性を持つ署名やゼロ知識証明は、データ量が大きく検証コストが高い。EIP本文によれば、ハッシュベースの署名は約2〜3キロバイトで検証に15万〜20万ガスを要し、STARK証明にいたっては数百万ガスに達する。
このままでは、プライバシープロトコルは実用に耐えないコストになってしまう。
EIP-8288はこれを「STARKによる集約」で解決する。ブロックがユーザーの署名やSTARKを個別に含むのではなく、それらの正しさを証明する1つの再帰的STARKだけを含む形にする。署名や証明の重いデータ自体をオンチェーンに載せずに済むため、検証コストが大きく下がる仕組みだ。
プライバシー処理のコストを数万ガス台へ
この仕組みがもたらす効果を、ブテリン氏はXで具体的に挙げている。
ひとつは、量子耐性署名(SPHINCS+)を極めて安く使えるようになること。コスト削減の多くは、約3キロバイトの署名データをオンチェーンに載せなくてよい点から生まれると同氏は説明する。
もうひとつがプライバシーだ。同氏によれば、プライベート取引の最低コストは、現状うまく設計しても約30万ガス、量子耐性を求めると約1,000万ガスかかる。EIP-8288はこれを数万ガス台まで下げられるという。
さらに、FalconやML-DSAといった新しい署名・証明方式を、EVMの変更なしに使えるようになる点も挙げた。利用者はクライアント側で好みの方式をSTARKに包むだけで、オンチェーンのコストは数万ガス台に収まる。
ブテリン氏は「イーサリアムが『自分の好きな暗号アルゴリズムをサポートしてほしい』という政治的な議論を、二度としなくて済むようになるだろう」と述べた。
メンプールで証明を集約する
仕組みの中核は、署名やSTARKの検証といった処理を、イーサリアムの実行の中心経路から外に出し、メンプール(未承認取引の待機場所)で分散・並列に処理する点にある。
取引は「依存関係」を宣言する軽量なデータを持ち、これがメンプールのノードによって再帰的に1つのSTARKへ集約される。EIP本文では集約の間隔を1,000ミリ秒(1秒)と定める。
各ノードが送り出すのは間隔ごとに1つのSTARK(ビルダー側で約256キロバイト)に抑えられ、帯域の負荷が取引数によらず一定に保たれる設計だ。
なおブテリン氏はXで、この仕組みには再帰的STARKが主張を記述するための共通言語(命令セット)の合意が必要で、有力候補はRISC-Vだと言及した。ただしこの点はあくまで同氏のXでの見解であり、EIP-8288の本文にはRISC-Vへの言及はない。


