【独自取材】日本の暗号資産・Web3普及に足りないものは──慶應義塾大学 渕川准教授に聞く

【独自取材】日本の暗号資産・Web3普及に足りないものは──慶應義塾大学 渕川准教授に聞く
Yousuke Takahashi(洋介)
60 Min Read

日本の仮想通貨・Web3業界は、近年注目されているものの、なかなか普及し切れていない現状があります。これは、どのような原因で伸び悩んでいるのでしょうか?

そこで今回は、仮想通貨やWeb3の法的ルール形成を検討・提言している「web3規制研究プロジェクト」「web3ルール研究プロジェクト」担当の慶應義塾大学渕川和彦准教授に、日本の仮想通貨・Web3が拡大するためには何が必要であるのか伺いました。

取材日:2026年6月23日

慶應義塾大学「web3ルール研究プロジェクト」が挑む、デジタル経済のルールメイキング

── 最初に渕川准教授の自己紹介と、ご専門である「デジタル経済における経済法、特にAIアルゴリズムを活用したアルゴリズム・カルテル」についてお聞かせいただけますでしょうか?

渕川氏: 慶應義塾大学法学部で「経済法」を担当しております、渕川和彦と申します。

私の主な研究テーマは、「デジタル経済におけるAIアルゴリズムと競争法(独占禁止法)」です。昨今、AIアルゴリズムを活用した「アルゴリズム・カルテル」が大きな問題となっています。

実際に海外では、不動産の賃貸価格などをAIアルゴリズムによって自動設定し、実質的な価格カルテルを形成していたとして摘発された事件なども発生しています。こうした欧米での最新の規制動向を比較・分析しながら、日本法へどのような示唆が得られるかを日々検討し、研究を進めております。

── 慶應義塾大学で2024年に始まった「web3規制研究プロジェクト」、続いて2025年の「web3ルール研究プロジェクト」ですが、こちらはどのような問題意識や経緯から発足し、渕川准教授はどのような経緯でご参加されたのでしょうか?

渕川氏: もともと私が「ブロックチェーンと競争法」に関する研究を行っていたこともあり、慶應義塾大学で立ち上がった本プロジェクトに共同責任者として参加させていただくことになりました。

ご存じの通り、Web3や暗号資産市場は近年、急激なスピードで拡大を続けています。それに伴い、国内でも金融商品取引法や資金決済法といった法規の整備がまさに急ピッチで進んでいる最中です。

しかし、技術の進化に対して法律がどうあるべきか、まだ正解が見えていない部分も多くあります。そこで、実際にWeb3のビジネス現場の最前線で活躍されている事業者の方々と共同で研究を行い、「どのような法的ルール形成が望ましいか」を多角的に検討・提言するためにこのプロジェクトが発足いたしました。

──  ここ数年間を振り返ってみて、暗号資産を巡る日本の法的環境や、研究として向き合うべき「課題」はどのように変化してきたと感じられますか?

渕川氏: 特に資金決済法の改正等により、暗号資産や電子決済手段(ステーブルコインなど)を取り扱う「暗号資産交換業」や「電子決済手段等取引業」の登録制度が厳格化されました。

また、インターネットから隔離された安全な「コールドウォレット」での保管義務や、信託義務、そしてマネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金供与対策(AML/CFT)への義務付けなど、利用者を保護するための強固な枠組みが作られてきました。

一方で、新たな課題として「アンホステッドウォレット(中央管理者が存在せず、ユーザー自身が秘密鍵を管理するウォレット)」をめぐるルール整備の遅れが挙げられます。ホステッド(中央管理型)ウォレットと比べ、利用者がアンホステッドウォレットを用いて暗号資産の売買や交換する際のルールは、まだ十分とは言えません。

こうした「法整備が途上であるために、国内事業者が新サービスの提供に踏み切れない」という課題が、私たちの研究を通じて浮き彫りになってきました。

「分散化」はビッグテックの寡占を崩せるか?競争法の専門家が紐解く課題と成果

──  2024年からのプロジェクト活動において、特に手応えを感じている成果や、実際の政府の動向・法改正の議論に影響を与えた具体的なエピソードがあれば教えてください。

渕川氏: 2025年に慶應義塾大学から『Web3ウォレットのルール形成について』という研究報告書を公表いたしました。この報告書では、Web3ウォレットの普及における課題や、あるべき法的枠組みについて詳しく提言をまとめています。

この成果をさらに広げるため、2025年3月にJapan Fintech Week 2025のサイドイベントとして、アジア最大級のWeb3カンファレンス「WebX」の実行委員会との共催で開催された「HashPort WebX ラウンドテーブル」に登壇し、研究報告書の成果をプレゼンさせていただきました。

会場には衆議院議員の塩崎彰久氏や、大手暗号資産取引所バイナンス(Binance)の幹部など、日米のWeb3を牽引するリーダーたちが一堂に会していました。その場で日本の取り組みや日米の規制比較という視点から発信できたことは、非常に有意義な機会であったと感じています。

また、この議論には金融庁の担当者の方々も強い関心を持って参加されていました。現在、金融審議会などでウォレットやステーブルコインに関するルール作りが具体的に動いている真っ最中ですが、私たちの報告書を一つの重要な参考資料として、行政の審議に役立てていただけているのではないかと期待しております。

──  専門家の視点から見て、現在の日本におけるWeb3エコシステムの発展や普及を阻んでいる「最大の法的な壁」は何だとお考えですか?

渕川氏: 一つは、先ほど申し上げた資金決済法などにおける「交換」や「売買」更には「媒介」の定義の曖昧さです。そしてもう一つは、やはり暗号資産に対する「税制(課税の仕組み)」の課題です。

これらは、国内の事業者にとってはイノベーションのスピードを削ぐ要因となり得る、非常に慎重な議論が求められる部分です。ルールが曖昧なままだと、国内事業者は法的リスクを恐れて足踏み状態になってしまいます。結果として、世界で3,000万人以上のユーザーを持つメタマスク(MetaMask)のような海外の大手ウォレットサービスに国内ユーザーが流れてしまう、という現実があります。

安全性を担保するために慎重に法整備を進めることはもちろん大切ですが、「海外事業者と国内事業者に同じ取引環境(レベル・プレイング・フィールド)を早急に整えることが、今の日本には必要なのではないでしょうか。

──  「利用者の保護(詐欺やマネロン対策)」と「技術イノベーションの促進(自由な開発や投資)」という相反する2つの要素のバランスを、日本の法律は今後どのように取っていくべきだと思われますか?

渕川氏: 利用者の保護とイノベーションの促進は、どちらか一方を犠牲にして良いものではありません。法的な整備が遅れればビジネスチャンスが失われ、投資も冷え込んでしまいます。

そこで重要になるのが、法律による一律の禁止や制限ではなく、「セキュリティ技術などのテクノロジーを活用した解決」です。日本は高度なセキュリティ技術を有しています。まずは「技術によるイノベーション」を自ら促進し、その技術的裏付けをもってマネロンや詐欺からユーザーを守る、という攻めの姿勢が必要だと思っています。

また、Web3ウォレットと一口に言っても、ホステッド(中央管理)かアンホステッド(自己管理)か、さらにはサブスクリプション型かトランザクション手数料型かなど、ビジネスモデルは多岐にわたります。最近では国内の大手プラットフォーマーの参入も増えており、それぞれのモデルや、利用するユーザーの知識レベルに合わせた、柔軟なルール設計が求められます。

──  渕川准教授のご専門である「経済法・競争法」を踏まえてお聞きしたいのですが、Web3が掲げる「分散化」は、巨大IT企業によるプラットフォームの寡占を崩す起爆剤になり得るのでしょうか?それとも、新たなゲートキーパーを生む懸念など、ルールのデザインに対する課題があればお聞かせください。

渕川氏: 技術的に見れば、Web3による「分散化」はデータの集中を排し、取引の透明性を高めるため、ビッグテックの寡占を打破する可能性を秘めています。

しかし現実には、すでにWeb3の世界でもメタマスクのような特定の有力なサービスプロバイダーが台頭し、新たなゲートキーパーが生まれつつある側面も否定できません。

だからこそ、ここでも迅速な法整備が必要です。国内事業者が同じ土俵に立ち、新しいウォレットや分散型サービスを競い合って開発できる「競争環境」を作らなければ、海外のゲートキーパーに市場を独占されてしまいます。

将来的には、市場が完全に成熟した段階で、アクティブユーザー数や国内売上高などの一定基準を超えた巨大Web3事業者に対しては、経済法・競争法のアプローチから一定の規制を課す、という方向性も十分にあり得ると考えています。

ただ、Web3市場はまだ黎明期、あるいは過渡期にあります(日本のWeb3市場は2027年度に約2.4兆円規模、世界では約67兆円規模に達すると予測されています)。まずは規制を強化するよりも、市場全体のパイを健全に拡大し、多様なプレイヤーが競争できる環境を整えることが、現段階のルールデザインにおける最優先課題です。

分離課税とETF解禁の未来予想図は?日本が国際競争力を取り戻すためのシナリオ

──   多くの仮想通貨投資家が最も関心を寄せているのが「分離課税への移行」や「暗号資産ETF(上場投資信託)の解禁」です。これらが日本国内で実現する可能性や、法的なハードルをどのように分析されていますか?個人的な見解をお聞かせいただければ幸いです。

渕川氏: まず「分離課税への移行」についてですが、自民党や日本維新の会などの政党が、税制改正要望の中で暗号資産取引の課税見直しにより、株式などの他の金融商品と同等の税制に整え、多様な投資をしやすい環境を作るという方向性が示されてきました。そして、今国会で金融商品取引法が改正される見込みで、暗号資産に分離課税を適用する方針での検討が加速しています。

次に、「暗号資産ETFの解禁」についてですが、アメリカでは2024年にビットコインETFの取引が開始され、欧州やイギリスでも導入が進むなど、グローバルではすでに大きな成功を収めています。

日本政府は海外の状況を慎重に見極めてきましたが、暗号資産を金融商品として位置づける金融商品取引法の改正が今国会で行われる見込みで、暗号資産ETF解禁に向けた検討も進められています。今回の一連の改正により日本が遅れを取り戻し、国際的なマネーフローが日本に戻ってくるよう願っています。

日本において法整備を難しくしている要因の一つに、内閣法制局による法案審査が極めて厳しいという国内独自のハードルがあります。しかし、資金決済法や金融商品取引法の一部改正をこれまで一歩ずつ積み重ねてきたというプロセスがありますので、このステップを今後のETF解禁に向けたポジティブな方向性へ繋げていってほしいと願っています。

──  「web3規制研究プロジェクト」や「web3ルール研究プロジェクト」として、2026年現在注力されている最新の研究テーマや、今後予定されている実証実験・提言などの計画があれば教えてください。

渕川氏: 現在は、Web3ウォレット、特に「アンホステッドウォレット」に関連する規制動向について、さらに踏み込んで検討を行っています。

アンホステッドウォレットは、中央管理者がいないため「秘密鍵を紛失したら資産を二度と取り出せない」といったユーザーの自己責任リスクが非常に高い領域です。さらに、これが「交換」や「売買」、「媒介」の法的定義にどう該当するのか、マネーロンダリングの抜け穴になるリスクをどう回避すべきか、といったルールがまだ明確になっていません。

もしマネロンなどのリスクを回避する必要があるならば、例えば「一回あたりに動かせる資金の上限」や「取り扱えるトークンの上限」を設定するなど、技術的・運用的な調整でクリアできる方法はないか。そうした非常に具体的かつ実践的なルール整備のあり方を検討しています。中長期的には、DeFi(分散型金融)や、AIとWeb3の融合といったテーマについても、さらに研究を深めていく予定です。

──  今後5〜10年を見据えた時、日本のWeb3・暗号資産市場は、アメリカやEUなどのグローバルと比較して法的な国際競争力を持てるようになると予想されますか?

渕川氏: 正直なところ、現時点の法的整備の進捗としては、日本はグローバルに比べて一歩遅れをとっている状況だと言わざるを得ません。

しかし、他国の状況を見ると、例えばEUのMiCA規制などは非常に複雑化しすぎており、事業者にとって扱いが難しくなっているという側面もあります。

日本が今後、国際競争力を獲得するための鍵は、「海外各国の法整備の成功・失敗事例をしっかりと見極めた上で、最も洗練された『世界最高水準の合理的な法制』を整備すること」にあります。

Web3市場の拡大スピードは極めて速いため、法整備が遅れれば遅れるほど、国内の事業者たちはチャンスを失ってしまいます。1日でも早く、国内事業者が安心して世界と競い合えるクリアな法的インフラを整え、国全体としてビジネスを強力に支援していく体制を作ることができれば、日本の国際競争力は十分に高められると信じています。

普及の起爆剤は「RWA(現実資産のトークン化)」──初心者が安全に投資するためのリテラシー

──  将来的にルールが正しく整備された未来において、暗号資産やWeb3が日本で一般層に広く普及するための「起爆剤」となるのは、どのような領域になるとお考えですか?

渕川氏: 私たちのプロジェクトでも、ステーブルコインやNFTを中心とした議論を行っていますので、やはりまずはこの2つの社会実装(日常的な決済への利用など)が土台になるでしょう。

それに加えて、今まさに市場が急拡大している「RWA(現実資産のトークン化)」の領域には、非常に大きな可能性を感じています。

日本でも不動産などのアセットが「セキュリティトークン(デジタル証券)」という形でトークン化され始めていますが、このRWAは分散型金融(DeFi)との親和性が高いのが特徴です。現実世界の価値ある資産がオンチェーンで滑らかに取引されるようになれば、これが日本のWeb3普及における起爆剤になるのではないかと、個人的に注目しています。

──  当サイト(JinaCoin)には、これから仮想通貨投資を始めようと考えている初心者の方も多く訪れます。日本の厳しい法規制は、裏を返せば「初心者にとって安全な環境」とも言える側面があると思いますが、法律の専門家である渕川准教授から見て、初心者が安心して市場に参加するために、まず身につけるべき最低限のリテラシーや意識すべき防衛策があれば教えていただけますでしょうか?

渕川氏: 日本の資金決済法をはじめとする利用者保護の仕組みは、世界的に見ても非常に手厚く、初心者にとっても比較的安全に取引を始められる環境が整っています。まずはこの「国内の規制された安全な取引環境」を上手に活用していただくのが大前提です。

ただ、Web3は非常に新しい技術であり、利用するサービス(ホステッドかアンホステッドかなど)によって安全性や負うべき自己責任の度合いが全く異なります。そのため、「基本的な技術の仕組みと、それに伴うリスクの違い」を最低限理解した上で参加することが最大の防衛策になります。

また最近は、人間の心理的な隙を突いて意図しない消費や投資行動へと誘導する「ダークパターン」と呼ばれる手法なども問題視されています。

こうしたリスクを避けるためには、出所不明なSNSの情報に飛びつくのではなく、政府が発信する公的な情報、慶應義塾大学のような研究機関が公表している客観的な報告書、そしてJinaCoinさんのように信頼性の高い専門メディアから、正確な情報を自分の目で集めて理解することが何より重要です。

私たちの研究プロジェクトが発信する情報も、一般の投資家や消費者の皆様が正しいリテラシーを身につけるための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。

──  最後に、最前線でルールメイキングを研究されている共同責任者の立場から、日本のWeb3市場の未来に関心を持って情報収集を行っているJinaCoinの読者に向けて、メッセージをお願いいたします。

渕川氏: 日本のWeb3市場は、今まさに大きな過渡期にあります。金融庁や財務省、そして私たち研究機関も含め、新しい時代に対応したルール作りに本気で取り組んでいる真っ最中です。この新しいテクノロジーがもたらすイノベーションと、そこへ流れ込むマネーフローの可能性は計り知れません。

読者(投資家)の皆様には、このエキサイティングな市場の未来を楽しみながらも、ぜひ「技術的な仕組み」や「法制度」、「リスク」を正しく把握した上で、投資や情報収集を続けていただきたいと考えております。

信頼できる一次情報を発信し続けるJinaCoinさんのようなメディアの存在は、これからのルール形成社会においても極めて重要です。私たちの研究成果や発信が、皆様の理解を深める一助となることを願いつつ、今後も日本のWeb3市場の健全な発展に向けて貢献してまいります。

──  日本のルールメイキングの最前線にある、非常に深く、そして投資家にとっても希望の持てる素晴らしいお話をありがとうございました。今後もプロジェクトの研究成果を、私自身も一人の読者として追いかけさせていただきます!

<おわりに>

渕川氏の話から、まだまだ法整備は必要であるものの、日本の仮想通貨やWeb3市場は十分に可能性を秘めていると感じることができました。我々JinaCoinでは、仮想通貨やWeb3市場に関わる皆さんのための情報発信が重要であると肝に銘じて、今後も発信を続けていきたいと改めて認識したインタビューでした。

<渕川和彦氏 プロフィール>

山口大学経済学部専任講師、准教授、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン客員研究員、大阪公立大学大学院法学研究科准教授などを経て、2024年から慶應義塾大学法学部准教授を務めている。専門分野は経済法・国際経済法。「web3ルール研究プロジェクト」や国内外の学会で活躍中。

仮想通貨の最新情報を逃さない!GoogleニュースでJinaCoinをフォロー!

JinaCoinメルマガ開始
Share This Article
NFTゲーム(ブロックチェーンゲーム)を中心に執筆するWebライター兼ディレクター。2023年から執筆案件でもあったNFTゲームに興味を持ちプレイを始める。これまでに執筆したNFTゲームの記事は30以上、プレイしたNFTゲームは10以上。STEPN GOの連載記事も執筆中。現在プレイ中のゲームはキャプテン翼Rivals、魁三国志大戦、STEPN GOなど。資産運用は株、金、仮想通貨など。
コメントはまだありません

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA