web3分野で先進的な講義を展開している学術機関のひとつが「千葉工業大学」。同大学の変革センターが主導する講義「web3/AI概論」では、単に技術を学ぶだけでなく、学内独自のコミュニティ通貨を発行し、学生と社会人が混ざり合う独自の経済圏を実際に運用している。2025年には学内仮想通貨「cJPY」の取り組みが大きな話題を呼んだ。
今回JinaCoinでは、4年目を迎えた「web3/AI概論」がどのように進化してきたのか、そして仮想通貨やAIが今後の日本でどう発展していくのかを、講義を運営してきた品田美帆氏・下瀬浩一氏・西村奈々氏の3名に伺った。
取材日:2026年5月28日
「web3/AI概論」誕生のきっかけはPodcastだった

── 本日はよろしくお願いいたします。事前に質問表をお送りしましたが、今回は千葉工業大学で長年続けてこられた「web3/AI概論」や、学内仮想通貨「cJPY」の取り組みについて、現場のリアルな声を伺えればと思っています。まずは簡単な自己紹介とあわせて、この講義がどのような経緯で立ち上がり、どう歩んできたのかをお聞かせください。
品田氏 「web3/AI概論」の運営を担当している、千葉工業大学 客員研究員の品田です。もともとのきっかけは、私がプロデューサーを務めるPodcast番組でした。番組内でweb3の話題が大いに盛り上がり、世界中の専門家に話を伺っていく中で、伊藤穰一学長が「これ、うちの大学(千葉工業大学)でそのまま授業にできるんじゃない?」と思いつかれたんです。「灯台下暗しだった、すぐにやろう!」と(笑)。それがすべての始まりですね。
最初はweb3単体の講義としてスタートしましたが、現在は最新テクノロジーを学びつつ、実際に手を動かしてプロダクトを作る講義へと進化しています。
── もともとはweb3が中心だったところから、時代に合わせてカリキュラムを変化させていったのですね。
下瀬氏 運営・戦略と講師を担当している下瀬です。当時、品田さんやJoiさんの周辺が集まるDiscordコミュニティがありまして、僕や西村さんは一視聴者として毎週その勉強会に参加していたんです。そんなある日、「大学で授業をやるから、10分くらいでどんな授業ができるかプレゼンしてみてよ」と声をかけられまして。気軽に手を挙げてプレゼンしたところ、Joiさんから「面白いから全部(全13回)やっちゃいなよ!」と言っていただき、気づけば運営側として、西村さんと二人三脚で毎年シラバス(講義計画)を刷新しながら実行することになっていました(正規の単位を取得いただけるよう、現在は第1四半期に全13回を実施しています)。
西村氏 講義設計・講師・コミュニティマネジメントを担当している西村です。今年で4年目になりますが、実は毎年コンセプトをガラリと変えています。
1年目は、「web3」の概念を学ぶ座学中心のカリキュラム。2年目はChatGPTが登場したこともあり、AIを「壁打ち相手」として使いながらweb3を学ぶ内容にしました。3年目には「バイブコーディング(※)」が台頭し、ノンプログラマーでもweb3アプリ(DApps)やトークンを作れるようになったため、開発をメインテーマに据えて「web3/AI概論」へと刷新しています。そして4年目の今年は、AIとweb3の融合が当たり前の前提になったことを受け、「AIエージェント」をテーマにしました。AIエージェント同士が自動的にトークンをやり取りする未来を見据え、AIをweb3アプリにどう組み込むかを実践していきます。
この4年間、テクノロジーの進化スピードに合わせて、一気に変化させてきました。
※:バイブコーディング=人間が自然言語でアイデアや要件をAIに指示するだけで、ソフトウェアやアプリケーションの開発を進める手法
── 4年間の歩みを拝見していると、常に最先端の技術がアップデートされていて本当にワクワクします。事前のお話では、3年目から「バイブコーディング」を取り入れたことで開発のハードルが劇的に下がったとのことでしたが、受講生がAIを活用して開発したweb3ツールやDApps(分散型アプリ)の具体的な事例を教えていただけますか。
下瀬氏 実際の「web3/AI概論」ポータルページから代表例をご紹介しますね。実はこのランディングページ自体も、品田さんがAIで作成したものなんです。

たとえば、去年の受講生が作ったプロダクトで特徴的なのが「Yama Grow」というアプリです。これは登山の保全活動をDAO(自律分散型組織)型で管理する仕組みで、登山道の崩落箇所などに写真を投稿してマップを更新すると、インセンティブとして独自トークンが支払われます。トークンエコノミーをうまく組み合わせたこのプロダクトは、実際に自治体の補助金を獲得し、講義終了後もビジネスとしてマネタイズを進めています。

── 山のリアルタイムな情報はなかなか集まりにくいですから、ユーザーの「集合知」に対してトークンでインセンティブを設計するというのは、非常に価値のあるweb3の活用法ですね。
下瀬氏 もう一つ面白いのが、「ハヨダス」というP2Pの不用品・ゴミ回収マッチングアプリです。通常、粗大ゴミの処分にはお金がかかりますが、「それを必要とする人」に対して暗号資産をインセンティブとして支払い、個人間でやり取りを成立させる仕組みになっています。このプロジェクトを作った受講生は、講義終了後に「東京都のオープンデータハッカソン(都知事杯)」に出場して賞を獲得し、現在もプロジェクトを進化させています。

── 講義の中で終わらず、社会実装やハッカソンでの受賞にまでつながっているとは驚きです。
下瀬氏 以前であれば、ブロックチェーンに接続するDAppsを一つ作るだけでも、膨大なエンジニアリングの知識が必要でした。しかし今は、AIに「ウォレットを連携して、このRPCノードに繋いで」と自然言語で指示するだけでコードが生成されます。「自分は何を解決したいのか」という熱意とアイデアさえあれば、ノンエンジニアでも数日から数週間で世界に通用するweb3アプリに挑戦できる時代になった——確かなシナジーを感じています。
2025年に話題を呼んだ学内仮想通貨「cJPY」とは
── ここからは、仮想通貨コミュニティや投資家の間でも注目された「cJPY」について深掘りさせてください。このトークンを講義に導入された経緯と、そこから見えてきた課題についてお聞かせください。
西村氏 「cJPY」をはじめとするトークンの導入は、実は1年目の「web3概論」発足時からの取り組みです。4年前、NFTやDAOといった言葉が急浮上する中で、イーサリアムならではのweb3文化や「自律分散」の概念を、受講生に言葉だけでなく肌で体感してほしかったんです。web3の最大の魅力は、学生も社会人もフラットに関係性を築けるコミュニティにあります。そして、そのコミュニティを活性化させるには「インセンティブ(報酬)設計」が欠かせません。
そこで、運営側が中央集権的に「はい、合格だからエアドロップ(無料配布)します」と配るのではなく、受講生同士が教え合ったり、誰かの質問に答えたりする「貢献タスク」をこなすと、トークンが送られる仕組みを作りました。この学び合いのインセンティブとして発行したのが「cJPY」です。現在は、トークンを一新して「JOIN」というトークンとして展開しています。
── ゲーム感覚で、自発的にコミュニティへ貢献したくなる仕掛けですね。
西村氏 ありがとうございます。さらに面白いのは、このトークンの獲得量をそのまま成績評価に直結させた点です。「2万トークン貯めたら評価は『S』、ここまでなら『A』」と、厳密かつオープンなルールを設定しました。これにより、受講生たちはDAO的なエンゲージメント(当事者意識)を持って、自発的に成績を取りにいくようになりました。
ただ、3年間運用する中で、大きな課題も見えてきました。トークンが成績に直結しているがゆえに、「使うと自分の成績が下がってしまう」という心理が働き、トークンを「貯め込む」だけで「流通(消費)させる」ことが、仕組み上どうしても難しかったのです。
── せっかくの通貨なのに、使うのがもったいなくなって、経済が停滞してしまうわけですね。
西村氏 その通りです。そこで新しい取り組みとして、役割の異なる2つのトークンを流通させる社会実験を始めました。従来の成績直結型トークンを「JOIN(ジョイン)」にリネームし、それとは別に、成績には一切関係なくコミュニティ内で自由に使える流通型トークン「ICHIGO(イチゴ、一期一会が由来)」を導入したんです。
受講生が使う「web3 AIポータルアプリ」もあり、これもAIを活用して一人で開発しました。ウォレットでログインすると、自分の「JOIN」と「ICHIGO」の残高、そして現在の順位から割り出された成績予測が、リアルタイムで可視化されます。「JOIN」は頑張れば頑張るほど積み上がり、最終的には、お金では買えない価値(体験)の証明として、秘密結社のような特別な「称号NFT」がミント(発行)されます。一方の「ICHIGO」は、コミュニティ内のコミュニケーションを円滑にする潤滑油、つまり「貨幣経済」を持ち込むためのものです。
下瀬氏 この「ICHIGO」の使い道が非常に面白いんです。価格の価値も受講生同士で自由に決めてよく、スキルマーケット(ココナラやクラウドワークスのような仕組み)をアプリ内に構築しました。「Discordのオンラインイベントの企画に伴走してくれたら1000ICHIGO払う」「レポート用のイラストを描いてくれたら対価を払う」といった形で、受講生間でリアルな経済活動が行われています。
さらに、通貨のインフレを防ぐため、トークンを「バーン(焼却・消滅)」させる経済構造も組み込んでいます。たとえば、アプリ内で「ペンギンに餌をあげるためにICHIGOを消費する」「神社に祈る」「宝くじを引く」といった仕掛けでICHIGOを回収し、集まった総量に応じて、最終的に運営陣がリアルな社会貢献団体へ寄付を行う——そんな、ゼロサムゲームではなく全体が豊かになる仕組み(トークノミクス)へと昇華させました。
── 素晴らしいエコシステムですね。これまでエンジニアを大量に雇わなければ実装できなかったような高度な経済実験を、AIの進化によって少人数で瞬時に形にできる。これこそが「AI×web3」の真の破壊力だと実感します。
投機ではない「もう一つの価値」──法規制とセキュリティへの向き合い方
── ここで、当サイトの読者である投資家が最も気になる「法規制」や「セキュリティ」のハードルについて伺います。日本で独自の暗号資産を運用しようとすると、ステーブルコインの法規制や税制の壁にぶつかることが多いですが、千葉工大ではここをどうクリアされたのでしょうか。
西村氏 法律上の規制をクリアするため、私たちのトークンは完全に「アローリスト(許可制)方式」を採用しています。外部の取引所で自由に売買できるものではなく、あらかじめ登録された受講生や関係者だけが送受信できる、極めてクローズドな環境で運用しているんです。当初は安全なテストネットで運用すべきという意見もありましたが、やはり「本物のメインネットのトークンに触れる感動」を提供したかった。そのため、法的な位置づけには細心の注意を払って設計しています。プログラム的な不正操作や成績の改ざんが起きても、オンチェーンのデータを監視してすぐに検知できるセキュリティ体制も構築しています。
下瀬氏 加えて、これはJoiさんの思想でもあるのですが、「お金で買えない価値を提供する」というweb3本来の世界観へのこだわりでもあります。仮想通貨というと、どうしても「いくら儲かるか」「投機に使えるか」という金銭的価値ばかりが注目されがちですが、私たちはその真逆です。いくらお金を積んでも買えない「コミュニティへの貢献度」や「貴重な体験、人とのつながり」に価値をつけようとしています。規制を避けるというより、金融とはまた違う新しい価値観を開拓した結果、現在のクローズドな形に落ち着いた、という背景があります。
── 投機的なアプローチとは異なる、web3の「もう一つの本質(信頼の可視化)」を突いた社会実装なのですね。ちなみに、日本のweb3環境はグローバルに比べて規制が厳しく、遅れをとっているという見方もありますが、逆に「日本だからこそ強みを発揮できる領域」についてはどうお考えですか。
西村氏 確かに海外、たとえばブエノスアイレスのDeFi関連カンファレンスなどへ行くと、税制や規制が緩い分、何十億円規模のDeFi(分散型金融)やステーキングプロトコルが次々と立ち上がっています。ただその反面、海外では「web3=スキャム(詐欺)」という偏見や拒絶反応が、日本以上に強いとも肌で感じました。日本は良くも悪くも、厳しい規制によって大掛かりな詐欺が起きにくい環境です。だからこそ受講生たちも「web3=怪しいもの」という先入観を持たず、オープンマインドに「これ便利じゃん!」とフラットに受け入れ、コミュニティに活用できる強みがあると思います。
下瀬氏 金融の規模ではグローバルに勝てないかもしれませんが、日本には強力な「ジャパン・コンテンツ(アニメ、ゲーム、アイドル、トレーディングカードなど)」があります。これらを単なる投機的なNFTとして売るのではなく、ブロックチェーンを使った「正しいコンテンツの証明」や「ファンコミュニティのエンゲージメント構築」の武器として活用していく。また、作りや取引が明らかな暗号資産トークンは、AIエージェントによる取引に相性が良いと考えています。本のコンテンツ産業が世界に出ていくためのキーテクノロジーとして、web3はAIの台頭とともに相性良く貢献・社会実装していけるのではと期待しています。
── 最後に、今後日本でweb3やAIがより普及していくために必要なこと、そしてJinaCoinの読者に向けて一言メッセージをお願いします。
品田氏 web3もAIも日進月歩で、1日単位でアップデートされる世界です。これを個人で追いかけ続けるのは不可能。だからこそ、自分の興味のある分野で仲間を見つけ、お互いに最新情報をシェアし合える「コミュニティ型の学び」が重要になります。一つの場所に固執せず、複数のコミュニティに所属しながら仲間を増やしていくことが、これからの時代の生き方ではないでしょうか。私たちの「web3/AI概論」は、千葉工大の学生だけでなく、オンラインを通じて社会人の方も同じクラスに混ざり、Discordでワイワイ受講しています。毎年春に開講していますので、ぜひ読者の皆さんも飛び込んできてください。
下瀬氏 この講義の面白いところは、現役の学生(Z世代)から社会人、公務員、芸術家まで、多様な人々が集まる点です。大人がお金を払ってもなかなか聞けないZ世代の本音を、夜中の12時を過ぎても一緒に語り合えるような場があります。社会人のリスキリングの場としても、これ以上ない環境です。また、企業向けの出張授業やDX担当者向けの講演なども行っていますので、私たちのノウハウを活かしたい企業様がいれば、ぜひお気軽にお声がけください。テクノロジーを使って、未来を悲観するのではなく、みんながイキイキした幸せな世界を作っていきたいですね。
西村氏 最新のweb3やAIに実際に触れてみると、プログラミングの知識がないノンエンジニアの方でも、自分にできることが劇的に増えて、本当に楽しくなります。日本を代表する大企業や伝統的な組織にいると、どうしても最新技術から遠ざかり、思考が固まってしまいがちです。まずはスタートアップの方と話してみる、学生と触れ合ってみる、そして私たちの講義のような場に一歩飛び込んでみる。外との関わりを増やし、仲間を作ることで、web3やAIがもたらす「楽しさ」をぜひ実感してください。
── お金で買えない価値の創出、そしてAIによる開発の民主化。千葉工業大学の取り組みには、日本のweb3が目指すべき一つの未来の形が詰まっていると感じました。本日は刺激的で楽しいお話を、本当にありがとうございました。
おわりに
千葉工業大学が提供する「web3/AI概論」は、技術が日々進歩する分野において毎年カリキュラムをアップデートし、常に最先端を学べる講義だった。そこで生み出された仮想通貨は、投資だけにとどまらない新しい可能性を示す、非常に興味深い取り組みである。この記事を読んで「web3/AI概論」に興味を持った方は、学生に限らず社会人も受講可能なので、来年の受講を検討してみてはいかがだろうか。
<品田氏プロフィール>
千葉工業大学 変革センター 客員研究員
大学卒業後、全米公共放送に入社。Joi Ito’s Podcastの制作に携わる中でWeb3やAIに触れ、2022年より千葉工業大学客員研究員として「web3/AI概論」の開発・運営を担当している。
<下瀬氏プロフィール>
千葉工業大学 変革センター 客員研究員
西村氏とバディを組み、変革センターに参画。「web3/AI概論」の戦略・オペレーション、講師を担当。普段は、一般企業で新規事業開発を担当。
<西村氏プロフィール>
千葉工業大学 変革センター 客員研究員
ハンドルネーム「minta」としてspark氏とバディを組み、変革センターに参画。今年で3年目を迎える「Web3/AI概論」では、講義設計・講師・コミュニティマネジメントを担っている。


