イタリアの中央銀行バンカ・ディタリア(イタリア銀行)は7日、EUおよび国内の制限措置(制裁)を確実に遵守するための手続きに関する通達を公表した。決済サービス提供者(PSP)と暗号資産サービスプロバイダー(CASP)を含むすべての金融仲介業者に対し、制裁対象者を検知する体制がEBA(欧州銀行監督局)のガイドラインに沿っているか点検するよう求める内容だ。地政学的緊張の高まりを背景に、EUの制限措置が拡大していることが背景にある。
暗号資産の移転も規制対象に
今回の通達が暗号資産業界にとって重要なのは、CASPが明確に規制の対象に含まれている点だ。
EUの規則2023/1113、いわゆる「TFR recast(資金移動規則の改正版)」は、PSPとCASPに対し、資金または暗号資産の移転を行う際に制限措置を確実に実施するための方針・手続き・内部統制を採用するよう明示的に求めている。
この委任を受けてEBAが策定したガイドライン2024/15は2025年12月30日に発効し、イタリア銀行は2025年5月19日付の通知第52号でこれを実施した。
ガイドラインは、PSPとCASPが制裁対象者との関係の有無をどう確認すべきかを定めている。照合に使うリストの特定と更新、比較するデータ、自動照合システムの設定と定期的な再評価、生成された証跡の管理などが対象だ。
「少額だから確認しない」は認められない
通達が最も強く念を押しているのが、チェック対象を金額で絞ってはならないという点である。
イタリア銀行は、移転をチェック対象とするかどうかについて「最低金額の閾値」を適用することは認められないと明記した。少額の送金だから確認を省く、という運用は許されない。
システムの設計は、誤検知(フォールスポジティブ)の発生を抑える要請と、制裁対象者を確実に特定する要請の双方を両立させる形で行う必要があるとしている。
チェックは具体的に、顧客に対しては取引関係の開始時や新たな制裁の導入時などに、個々の資金・暗号資産の移転に対しては取引実行前に、送金人と受益者の双方の名義について実施しなければならない。
通達はさらに、業者が使うシステムに閾値が組み込まれていないか確認するよう促している。ここで念を押されているのが、第三者が開発・提供するソリューションも点検の対象に含まれるという点だ。外部ベンダーのシステムに最低金額の閾値が設定され、チェック対象が絞り込まれていないかを、業者自身が確かめる必要がある。
違反には刑事罰、即時送金には例外も
制裁遵守義務の違反は、従来の行政制裁に加えて、最近では刑事罰の対象にもなった。EU指令2024/1226を国内法化した2025年12月30日の立法命令211号により、制限措置の違反・回避や、報告義務違反などについて刑事罰の類型が導入されている。
一方で、実務に配慮した例外も設けられている。即時送金については、EUの規則がPSPに対して取引の両当事者を個別にチェックすることを明示的に禁じ、代わりに自社の顧客を少なくとも1日1回(および新たな制裁の導入時に)確認するよう義務づけている。
イタリア国内の送金についても、リスクが低いPSPには即時送金と同じ方式でチェックする選択肢が認められている。
EUのTFR recastは、暗号資産の移転に送金人・受益者の情報確認を課す「トラベルルール」の枠組みとして知られる。今回の通達は、その執行を各国当局が実務レベルで詰めている動きを示すものといえる。


