日経アジアの調査報道で、フェンタニルの原料を違法輸出した疑いのある中国の組織が、日本の拠点を使って大規模な暗号資産(仮想通貨)詐欺に関与していたとみられることが分かった。日本のインターネットドメインを使い、多数の一般の購入者から資金をだまし取った疑いがあるという。
偽トークン「zksync.jp」で詐欺の疑い、被害は数億円規模
組織の中心は、中国・武漢の化学メーカー「湖北アマーベル・バイオテック(Hubei Amarvel Biotech)」だ。同社系列で名古屋を拠点とする企業「Firsky」が、「日本のボス」と呼ばれる人物が物流と資金管理を指揮する活動拠点として機能していたとされる。Firskyは2024年7月に清算された。
日経アジアによると、アマーベルを中心とする組織は、既存の高速決済サービスを模した偽トークン「zksync.jp」を配布していた。世界中の利用者に資金を送金させてだまし取った疑いがあり、日本を含む被害総額は数億円規模と推定されるという。
このトークンは、通常は日本国内の住所がなければ登録できない「.jp」ドメインを使い、アマーベルがFirskyを通じて日本で活動していた時期と重なる2023年に発行された。
米ブロックチェーン分析企業チェイナリシスは、こうした手口を典型的な資金洗浄の方法とみる。日本のドメインは国際的な信頼性が高く、悪用の対象になりやすいという。
制裁対象と120件超の取引、麻薬王に500万ドルの報奨金
アマーベルの幹部2人は、フェンタニルの前駆体(原料)を米国に違法輸入したとして昨年、米国で有罪となった。米当局が中国企業の幹部をフェンタニル前駆体の取引で訴追した、初のケースとされる。
日経アジアは、裁判記録を基にアマーベルの暗号資産口座を特定し、独自の分析プログラムで資金の流れを調べた。その結果、ブロックチェーンの取引履歴から犯罪組織とのつながりが浮かび上がったという。Firskyが名古屋に移転した2022年9月以降では、早くも同年10月から不審な取引が始まっていた。
とりわけ目立つのが、米財務省外国資産管理局(OFAC)の制裁対象との取引だ。アマーベルは、中国の化学グループ「武漢遠成集団(Wuhan Yuancheng Group)」を中心とする制裁対象と120件を超える取引を行い、複数の口座を使って資金の出所を隠していたとされる。
同集団のトップは米当局から麻薬王とされ、捕獲につながる情報には500万ドル(約8億円)の報奨金がかけられている。
検証に協力した米分析企業TRMラボは、日本は中国本土に近く、開かれた金融システムを持ち、貿易や国境を越えた資本移動が活発なため、不正な収益を正当なものに見せかけるルートとして狙われやすいと指摘する。
DEAは5月、フェンタニルなどの密輸取り締まりを強化するため、海上保安庁と覚書を結んだ。国連薬物犯罪事務所(UNODC)も対策に乗り出している。一方、密輸ルートの監視が強まる半面、暗号資産を介した薬物関連の資金の流れへの対応は、日本を含む各国で遅れている。
今回の事案は、暗号資産が合成麻薬の供給網や資金洗浄に入り込んでいる実態を示す一例といえる。ただし、暗号資産詐欺や資金洗浄への関与は調査段階であり、確定したものではない。



