Market View
インフレ再加速、焦点はFOMCへ
先週は、8月の米消費者物価指数(CPI)がインフレ圧力の根強さを意識させる内容だったことに加え、中東情勢を背景とする原油高もインフレ懸念を強めた。これを受けて利上げ観測が強まり、米長期金利も上昇した。金利が上がると債券の魅力が高まり、ビットコインなどリスク資産には資金が向かいにくくなる。
こうした環境を受け、ビットコインは先週末に7万6,000ドル台まで下落した。米国株式ファンドからも9月9日までの1週間で322億7,000万ドルが流出しており、暗号資産固有の売りというより、原油高によるインフレ長期化と金利上昇への警戒から、リスク資産全体でポジションを落とす動きが強まった。
米国の現物ビットコインETFは、前週までの資金流入から一転し、先週は約4億6,273万ドル(約704億円)の純流出となった。一方、現物イーサリアムETFには約1億9,711万ドル(約299億円)が流入し、両者の資金フローには明暗が分かれた。
今週最大の焦点は、9月16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)だ。市場は利上げをかなり織り込んでいるため、実際の政策変更以上に、FRBが今後の追加利上げをどこまで示唆するかが重要になる。今後の利上げに慎重な姿勢が示されればビットコインなどには安心材料となるが、原油高を理由に金融引き締めの長期化が意識されれば、暗号資産には引き続き厳しい環境が続きそうだ。
Funding Watch
先週は、オンチェーン信用やAIエージェント向けインフラなど、暗号資産ネイティブな領域でも複数の資金調達が確認された。その一方で、ステーブルコインを既存の銀行・決済網につなぐ大型案件も続いており、資金は「オンチェーン経済そのもの」と「既存金融との接続」の両方に向かっている。
1.Ethos Network — オンチェーン上で「誰を信用できるか」を可視化するプロトコル
Ethos Networkは、独自トークン「WHUF」の公開セールで840万ドル(約12億円)を集めた。1,560人が参加し、トークン総供給量の20%が販売対象となった。公開オークションは9月1〜4日に実施され、TGE(トークン生成イベント)とトークン配布は9日に行われた。
Ethosが構築しているのは、暗号資産業界向けの信用・評判ネットワークだ。ユーザー同士のレビューに加え、資産を担保として他人の信用を保証する「Vouch」などを使い、オンチェーン上に信用スコアを作る。ウォレットを作り替えれば過去の評判を切り離せるというWeb3特有の問題に対し、「誰が信用できるのか」を経済的な裏付け付きで可視化しようとしている点が特徴だ。
2.Agentum — AIエージェント同士の取引と決済をオンチェーンで処理する基盤
Agentumは700万ドル(約10億円)を調達した。MEXC Venturesを中心に、Arca、Wave Digital Assets、BlockTower Capital、BingX Labs、UZ Capitalなどが参加している。
BNB Chain上で開発されており、AIエージェントが仕事を提示し、入札、実行、代金決済までを人間を介さず行える仕組みを目指している。そのためにオンチェーンID、エスクロー、ステーキング、評判システム、TEE(Trusted Execution Environment)やゼロ知識証明を組み合わせる。AIエージェントが実際に経済活動を行うようになれば、「誰が取引相手を信用し、どう支払うか」という基盤が必要になるため、暗号資産とAIの接点として注目したい案件だ。
3.RealGo — ミーム資産をゲームや現実世界の体験につなげるWeb3アプリ
RealGoは戦略ラウンドで600万ドル(約9億円)を調達し、累計調達額は950万ドル(約14億円)となった。UZ Capital、GW Global、Infiniteall AIが参加している。調達資金はプロダクト開発、グローバルチームの拡大、AI関連機能の開発に使う方針だ。
RealGoは、AI、AR(拡張現実)、位置情報、モバイルゲーム、オンチェーン資産を組み合わせ、ミームを単なる売買対象ではなくゲームや現実世界で利用できるコンテンツにしようとしている。DeFiやインフラ案件と比べると投機的な色は強いものの、暗号資産の消費者向けアプリにまとまった資金が入った案件として位置付けられる。
4.Tazapay — ステーブルコインと各国の銀行・決済網をつなぐ越境決済基盤
暗号資産ネイティブ案件とは性格が異なるものの、先週の大型案件として外せないのがTazapayである。USDCを発行するCircleは9月8日、シンガポールのTazapayを買収すると発表した。取引は規制当局の承認などを経て、2027年の完了を予定している。
Tazapayは60社以上の銀行・フィンテックと接続し、100以上の市場への支払いに対応している。年間換算の決済額は250億ドル(約3.8兆円)を超え、その約60%ですでにステーブルコインを活用している。Circleにとっては、USDCの発行にとどまらず、銀行口座と現地通貨を使った入出金や決済まで自社のサービス領域を広げる取引となる。ステーブルコイン市場の競争軸が発行残高だけでなく、「実際にどこまで送金・決済に使えるか」へ移っていることを示す案件といえる。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=152円)


