暗号資産(仮想通貨)の規制を資金決済法から金融商品取引法(金商法)へと移管する「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」が15日、参院本会議で可決、成立した。金融庁が同日、公式サイトで成立を公表した。これまで決済手段として扱われてきた暗号資産が、有価証券とは異なる新たな「金融商品」として法的に位置付けられることとなる。
この法案は暗号資産のほか、サステナビリティ情報の開示・保証、スタートアップ企業への資金供給の促進、有価証券に関する不公正取引規制の見直しを含む。
金融庁の説明資料によると、暗号資産規制の見直しの柱は4つだ。無登録業者等への対応の強化、情報の非対称性を解消するための情報公表規制の整備、暗号資産交換業者への規制の強化、そしてインサイダー取引規制の創設を含む不公正取引規制の強化である。
背景として同庁が挙げるのは、投資対象化の進展だ。国内の口座開設数は1,400万を超え、うち年収700万円未満が約7割を占める。国内のアンケート調査では、投資経験者の暗号資産保有率はFX取引や社債などよりも高く、利用者の取引動機のほとんどは長期的な値上がりを期待したものだった。
情報公表規制の新設──発行者に年1回の定期情報、投資上限も
今回の改正で新設されるのが、情報公表規制だ。ホワイトペーパーの記載内容が不明確だったり、記載内容と実際のコードに差があったりする事例が多いとの指摘を踏まえたものである。
発行者がいる暗号資産は「特定暗号資産」と定義される。IEOトークンなどが該当し、その発行者は募集・売出しにあたって、あらかじめ暗号資産の情報を公表しなければならない。公表内容は、発行者の商号や経理の状況、暗号資産の性質・機能や供給量、基盤技術などで、詳細は内閣府令で定められる。
公表は一度きりではない。重要な事象が生じた場合の臨時情報に加え、募集・売出しを行った発行者には年1回の定期情報の公表も義務付けられる。
一方、ビットコイン
BTCのように発行者が存在しない暗号資産については、取り扱う暗号資産取引業者が情報を公表する。発行者が内閣総理大臣の承認を受けた場合、たとえば暗号資産の分権化が進んだケースでは、継続的な情報公表義務が免除され、以後は取引業者が公表を担う。
投資家にとって実務的な影響が大きいのが、投資上限の設定だ。特定暗号資産の募集・売出しについて、監査法人等の財務監査が行われていない場合には、投資家ごとに投資上限が設けられる。詳細は政令・内閣府令事項だが、株式投資型クラウドファンディングと同様の水準が想定されており、50万円を超える場合には収入または純資産の5%まで、上限は200万円となる予定だ。特定投資家には制限がない。
なお、少人数・プロ投資家を相手方とする勧誘や、無償での付与、マイニング報酬としての付与は規制対象外となる。虚偽記載に対しては、有価証券と同様のエンフォースメントが整備される。罰則は10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金またはその併科で、課徴金制度と民事責任の規定も設けられる。
インサイダー取引規制の創設──上場・上場廃止情報も「重要事実」に
現行の金商法でも、暗号資産には偽計や相場操縦行為の禁止規制が整備されている。空白だったのがインサイダー取引の直接規制で、今回それが埋められる。証券監督者国際機構(IOSCO)の勧告や欧州などでの法制化を踏まえた対応だ。
枠組みは上場有価証券等の規制がベースとなる。対象は、国内の暗号資産取引業者で取り扱われる暗号資産だ。
「重要事実」として列挙されるのは3類型ある。発行者の解散などの発行者等に関する事実、暗号資産の取扱開始・中止など取引業者に関する事実、そして大量売買を行う者に関する事実だ。大量売買の水準は、発行済暗号資産の20%以上の売買などを政令で定める予定となっている。これらに加え、バスケット条項で補完される。
規制対象者は、暗号資産発行者の関係者、暗号資産取引業者の関係者、大量売買を行う者の関係者で、これらの者からの情報受領者も含まれる。上場や上場廃止の情報を公表前に知って売買する行為が、明確に禁止されることになる。
禁じられるのは売買だけではない。上場有価証券等と同様に、未公表の重要事実の伝達や取引推奨も禁止される。
罰則は5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金またはその併科だ。あわせて、暗号資産に係る不公正取引が証券取引等監視委員会の犯則調査や課徴金制度の対象に追加される。課徴金の対象となるのは、インサイダー取引規制、相場操縦行為、風説の流布・偽計である。
業規制の強化──レンディングも対象、基準未達コインは取扱い禁止へ
国内の取引所などが登録する法的な業種名は、「暗号資産交換業者」から「暗号資産取引業者」へと変更される。適用されるのは、第一種金融商品取引業に相当する規制だ。現行法の安全管理措置、原則としてコールドウォレット等で秘密鍵を管理する規制についても、金商法に同様の規制が設けられる。既存の第一種金融商品取引業者が暗号資産取引業を行う場合は、変更登録が必要となる。
トレーダーへの影響が大きいのが、取扱い銘柄の基準だ。公益または投資者の保護を確保するために必要な基準に適合しない暗号資産は、取扱いが禁止される。基準の詳細は内閣府令事項で、流動性やコンプライアンス、移転記録管理などに関する内容を定める予定とされる。基準を満たさない銘柄が国内取引所から姿を消す可能性がある。
暗号資産の借入れを業として行うこと、いわゆるレンディングも暗号資産取引業の対象に追加される。取引所が利用者から暗号資産を借り受けて運用するサービスが、金商法の規制下に入る。
情報発信の場面では、ステルスマーケティング規制が新たに設けられる。対価を受けて取引判断に関する意見表示をする場合、対価を受ける旨の表示が義務付けられるものだ。案件として銘柄を推奨する際の表示が、法的義務となる。
ハッキング等による顧客資産の流出に備え、補償原資となる「責任準備金」の積み立ても義務化される。積立率は内閣府令で、管理する暗号資産の残高に応じ、セキュリティ水準も勘案しながら定められる予定だ。財務の健全性を確保するため、自己資本規制比率の算出等も義務付けられる。
このほか、暗号資産を投資対象とする投資運用行為や投資助言行為が、それぞれ投資運用業、投資助言業の規制対象となる。暗号資産の管理に必要な重要なシステムの提供業者にも、事前届出やシステムの安全性確保義務といった規制が導入される。暗号資産取引に係る仲介業は、金融商品仲介業の対象に追加される。
無登録業者への対応も厳格化される。罰則は現行の拘禁刑3年以下から10年以下に、罰金は300万円以下から1,000万円以下へと引き上げられる。証券監視委の犯則調査の対象に追加されるほか、裁判所による緊急差止命令の対象となり、同委員会の申立て権限も整備される。無登録業者による売付けのうち、暗号資産取引業者が取り扱っていない暗号資産については、売買契約を原則として無効とする民事効規定の対象にもなる。
内閣府令事項としては、詐欺的な投資勧誘の支払手段として暗号資産が利用されることを防ぐ措置も検討されている。新規口座開設の直後には、自己管理型のアンホステッド・ウォレットへ移転できない熟慮期間を設ける、といった案が示されている。
税制移行の前提が整う、ETF解禁にも道筋
市場の関心が高かった税制面も動く。3月末に成立した改正所得税法には、所得税・住民税を合わせて最高55%が課される総合課税から、申告分離課税(税率20%程度)への移行と、損失の3年間繰越控除が盛り込まれている。この税制変更は金商法改正の成立・施行を前提としており、今回の成立でその条件の一つが満たされた形だ。
対象は国内の暗号資産取引業者が取り扱う銘柄すべてとする方針で、適用範囲の詳細は施行に向けた制度設計で固まる見込みだ。施行が2027年度の場合、課税の変更は2028年1月1日からとなる。
国内での暗号資産ETF(上場投資信託)については、今回の説明資料に明示的な記載はない。ただし、暗号資産を投資対象とする投資運用行為が投資運用業の対象となることで、制度的な道筋が整うことになる。具体的な設計はこれからだ。
施行期日は改正事項ごとに異なる。暗号資産に係る規制の見直しは、公布の日から1年以内に政令で定める日から施行される。一方、有価証券に関する不公正取引規制等の見直しのうち、無登録業への罰則引上げなどは、公布の日から20日を経過した日に施行される。サステナビリティ情報の開示・保証とスタートアップ企業への資金供給の促進は2027年4月1日、証券監視委の犯則調査手続のデジタル化は2027年10月1日の施行だ。
今後の焦点は、政令・内閣府令・監督指針レベルの詳細設計に移る。責任準備金の積立率、取扱い基準の具体的な内容、投資上限の水準、インサイダーの大量売買の閾値など、実務を左右する論点の多くが政令・内閣府令に委ねられている。施行までの約1年間で、制度の具体像が固まっていくことになる。
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