インド証券取引委員会(SEBI)は10日、社債をトークン化する実証プロジェクト「Demat 2.0」の稼働開始を発表した。ムンバイで開かれたGlobal Fintech Festで、インド準備銀行(RBI)のサンジャイ・マルホトラ総裁とSEBIのトゥヒン・カンタ・パンディ委員長が共同で明らかにしたもので、債券を分散型台帳(ブロックチェーン)上のデジタルトークンとして発行し、資金の受け渡しを中央銀行デジタル通貨(CBDC)で行う仕組みだ。
債券と資金が同時に動く
Demat 2.0の中核にあるのは、市場インフラ機関が分散型台帳技術(DLT)を用いて同時に保持する共有電子記録だ。台帳を所有するのは証券保管機関で、既存の制度の延長線上に置かれている。
この台帳がRBIのホールセールCBDC「デジタルルピー」と、Unified Market Interfaceを通じて接続されている点が肝になる。これにより債券と資金が瞬時に動く「アトミック決済」が実現し、決済リスクそのものが消える。
資産の管理も自動化された。利払いや償還はスマートコントラクトで執行され、期日に債券保有者のCBDCウォレットへ直接入金される。
従来はこうはいかなかった。発行体やその登録機関が保管機関から保有者リストを取得し、各人への支払額を計算したうえで、銀行経由で個別に送金する必要がある。共有台帳では、認可された機関がすべて同時に保有者の情報を参照できる。
SEBIが挙げた効果は具体的だ。発行体は入札から2〜3日かかっていた資金の受け取りが同日になり、手作業の自動化で発行・管理コストの低下が見込まれる。投資家側も、流通市場での資金受け取りが2〜3日から即時に変わり、その資金をすぐ別の用途へ振り向けられる。
「世界初」の中身
債券のトークン化自体は各国で先行例がある。SEBIも、スイスのProject Helvetia III、香港のProject Evergreen、米国債、ブラックロックやJPモルガン、アジアインフラ投資銀行の債券などを挙げている。
ではインドの何が違うのか。SEBIによれば、これらの事例では個別の発行体がそれぞれ別のプラットフォームでトークン化を行ってきた。
対してインドは、社債をブロックチェーン上でネイティブに発行し、所有記録を法定の証券保管機関が保持し、資金の受け渡しを中央銀行デジタル通貨で決済する、という一連の流れを既存の規制市場インフラの内側で実現した。SEBIはこれを成し遂げた最初の国だと明言している。
3社が165億円を調達、L&Tは民間初
実際の発行も進んでいる。これまでに3社が計102億5,000万ルピー(約165億円)を調達した。最初の発行体は国営の非銀行金融会社REC Limitedで、9月7日に18の投資家から50億ルピー(約81億円)を集めている。
次いで9月9日、L&T(ラーセン・アンド・トゥブロ)が4投資家から同じく50億ルピーを調達。同日には民間NBFCのIIFLも1投資家から2億5,000万ルピー(約4億円)を発行した。
L&Tは証券取引所への開示で、自社がインドの民間企業として初のトークン化債券発行者になったと説明した。償還期間は3年で、資金決済はCBDCウォレットを通じて行われたとしている。同社は売上高320億ドル規模の多国籍企業で、建設・エンジニアリングやハイテク製造を手がける。
投資家の参加手続きは簡素に設計されている。トークン化債券は既存のデマット口座で保有でき、別口座の開設も新たなKYCも要らない。保管機関でDemat 2.0を有効にし、参加銀行でCBDCウォレットを持てば足りる。
制度面の扱いも変わらない。SEBIは、変わるのは所有記録と債券管理に使う技術だけであり、法律上は同じ商品で、発行体の返済義務も投資家の権利も従来通りだと強調した。信用格付けや社債受託者、上場・開示の要件もすべて継続して適用される。
実証は段階的に進む。第1フェーズの発行が続いており、後のフェーズでは既存のRFQプラットフォームを通じた売買や、個人投資家のアクセスへと広げる。ここで得た経験が、より広い展開の判断材料になるとしている。
日本のST債とは設計が異なる
日本でもブロックチェーンを使った社債の発行は積み重ねられてきた。直近では8月、トヨタファイナンスがセキュリティトークン社債10億円を自己募集で発行している。年限1年、利率は税引前1.720%で、基盤にはBOOSTRYのブロックチェーンを用いた。
ただし設計は異なる。日本の事例は発行体や証券会社が民間のプラットフォーム上で手がけるもので、資金の受け渡しも決済アプリや電子マネーを介する。
インドの枠組みは、所有記録を法定の証券保管機関が持ち、資金決済を中央銀行デジタル通貨で行う点が違う。SEBIが先行事例との差として挙げたのも、まさにこの構造だった。
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