英国の国家犯罪対策庁(NCA)に置かれた経済犯罪対策センター(NECC)は、2025-26年度の年次報告書を公表した。その中で、麻薬取引などで生じた現金を暗号資産(仮想通貨)に交換するロシア語圏の資金洗浄ネットワークを標的とした「オペレーション・デスタビライズ」の成果を明らかにしている。同ネットワークは年間で数百億ドル規模を洗浄し、英国内の少なくとも28の都市や町で活動していたという。
「汚れた現金」を「きれいな暗号資産」に
報告書が描く手口は、暗号資産が犯罪のどの位置で使われているかを具体的に示している。このネットワークは手数料を取り、麻薬取引や銃器供給、組織的な移民犯罪から生じた「汚れた現金」を回収し、それを「きれいな暗号資産」へと換えていた。
NECCは、この現金から暗号資産へのスワップが、地域社会レベルの犯罪から制裁回避、そして最高レベルの組織犯罪までをつなぐ世界的な犯罪エコシステムに不可欠な要素だと位置づけた。ロシア国家に関連する組織への資金洗浄サービスの提供も含まれるとしている。
制裁回避の手段は銀行の買収にまで及んでいた。英国内で活動するこれらのネットワークは、制裁の回避とロシアの軍事活動を支える支払いを可能にするため、キルギスの銀行を購入していたという。
129人逮捕、押収は英国内だけで52億円超
取り締まりの成果も数字で示された。作戦の第2フェーズでは、12カ月足らずの間に資金洗浄に関与したとみられる46人を新たに逮捕し、510万ポンド(約10.6億円)超の現金を押収している。
作戦開始からの累計では129人が逮捕され、英国内だけで2,500万ポンド(約52億円)を超える現金と暗号資産が押収された。
ここで得られた情報は国外にも波及した。NECCは各国の法執行機関を支援し、同ネットワークから2,400万ドル(約37億円)と260万ユーロ(約4.7億円)超が押収されたとしている。
NECCは今後の方針として、デスタビライズの手法を拡大し、英国にとって最大の不正資金リスクをもたらす高害性の資金洗浄ネットワークを弱体化させるとした。あわせて、より能動的で情報主導の暗号資産対応能力を開発するとも明記している。
暗号資産は規制セクターの優先課題に
報告書は脅威認識そのものも更新している。技術革新の速さが不正な金融システムの担い手に大きな機会を与えているとし、検知を逃れて大規模に不正な価値を移動させるための革新的な暗号資産商品の利用を、具体例として挙げた。
この認識は制度面にも反映された。NECCは金融行為規制機構(FCA)、内務省、財務省と合意し、規制対象セクターの資源配分を導く「経済犯罪システム優先事項」9項目を2025年7月に公表している。
その9項目のうち3番目に位置づけられたのが暗号資産だ。専門的な助力者、政治的重要人物に次ぐ扱いで、犯罪現金や資金の運び屋、テロ資金供与よりも上位に置かれた。
被害者保護の面でも暗号資産が絡む作戦が動いた。2025年3月の「オペレーション・アトランティック」では、米シークレットサービスやカナダの法執行機関、暗号資産サービス事業者と連携し、「承認フィッシング」と呼ばれる手口の被害者を特定した。
投資詐欺で頻繁に使われる手口で、被害者はより大きな金額を送るよう仕向けられる。この作戦では2万人の被害者を洗い出し、1,200万ドル(約18.5億円)超を凍結した。
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情報源:NECC Annual Report 2025-2026(英国家犯罪対策庁)
※価格は執筆時点でのレート換算(1ポンド=208.0円、1ドル=154.1円、1ユーロ=179.0円)


