ブロックチェーンセキュリティ大手のサーティックは23日、2026年上半期のレンチ攻撃に関する調査結果を公開した。暗号資産(仮想通貨)保有者を暴力や脅迫で襲い、資産の送金や秘密鍵の開示を強要する手口で、確認された事案は52件と前年同期の39件から33.3%増えた。
記録された被害額は前年の11.8倍
被害額の伸びは件数を大きく上回る。同社が記録した損失と身代金要求額の合計は、前年同期の約1,053万ドル(約17億円)から約1億2,418万ドル(約203億円)へ拡大した。11.8倍、率にして1,079%の増加となる。
1件あたりの平均も約27万ドル(約4,400万円)から約239万ドル(約3.9億円)へ跳ね上がった。物理的な強要が大きな見返りを生むと考える攻撃者が増えている、というのが同社の見立てだ。
ただしこの金額は、確定した盗難額ではない。身代金の要求額、被害者が実際に送金した額、当局や事業者が凍結・回収した資産、要求が失敗に終わった案件までを含む総額であり、犯罪者が得た利益を示すものではないと同社は明記している。
四半期別に見ると、増加は年初に集中した。第1四半期が35件(前年同期22件)と急増した一方、第2四半期は17件で前年同期と同数だった。同社は5〜6月の減少について、当局の圧力や警戒強化、報告の遅れが混在している可能性を挙げる。
フランス1国で世界の63.5%
地理的な偏りはさらに際立つ。欧州が52件中39件を占め、比率は75.0%に達した。前年同期は39件中14件、35.9%だった。
なかでもフランスが33件と突出しており、世界全体の63.5%、欧州の84.6%を占める。前年同期は10件だった。米国が4件、スウェーデンと英国が各2件で続く。一方でアジアは13件から6件、南米は7件から1件へ減少し、アフリカはゼロとなった。
フランス内務省は上半期に77件(前年同期45件)の暗号資産関連の物理的事案を記録したと発表している。サーティックの33件という数字は、公開されており独立に検証可能な事案のみを計上した結果だ。
背景として同社が挙げるのは、大規模な情報漏洩だ。フランスでは公的機関ANTSのポータルで最大1,900万人分の身元データが流出したほか、公共職業安定機関でも漏洩が起きている。こうした情報が公開情報やオンチェーンデータと組み合わされ、標的の特定に使われ得るという。
捜査面では、年初から約200人が誘拐・恐喝関連で逮捕され、うち数十人が未成年だったと公的報道を引用。2025年6月に主要な首謀者とされる人物がモロッコで拘束された後も、確認された事案は減っていないとしている。
住居侵入が1件から20件へ
手口の変化はより鮮明だ。住居侵入は前年同期の1件から20件へ増え、上半期全体の約41%を占める最大の類型となった。誘拐は12件から16件に増加し、拷問は4件で横ばい、殺害は各期1件だった。
個別の事案も公表された。3月にはパリ近郊で夫婦が住居侵入を受け、暴行を伴う強要で約90万ユーロ(約1.7億円)相当のビットコインを送金させられた。
4月17日にはマレーシアで韓国人が誘拐され、4日間監禁された。犯行グループは家族に1,000万USDT(約16億円)を要求し、家族は300万USDT(約4.9億円)を支払ったとされる。当局は246万USDT(約4億円)を凍結・回収し、韓国籍の容疑者3人を逮捕した。
英国では、被害者が強要により約2,400万ドル(約39億円)相当を奪われた事案も報告されている。資金は複数のチェーンを経由した後、モネロに変換されたとみられる。
標的の選び方も変わった。かつては派手な消費やSNSでの誇示といった目に見える兆候が手がかりだったが、現在は漏洩データベース、税務・コンプライアンス記録、取引所の顧客データ、ENS名、ウォレットの活動履歴などを組み合わせ、物理的な尾行なしに標的リストを作成できるという。
内部者の関与も報告された。フランスでは税務当局の職員が暗号資産投資家の機密情報を犯罪組織に売却したとされる事案が当局から指摘されている。
下半期について同社は、上半期と同じペースが続けば年間で約100件、被害額は2億2,800万ドル(約372億円)超になると試算した。ただしこれは単純な年換算であり、予測ではないと断っている。
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※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=163.1円、1ユーロ=186.1円)



