ポーランドで暗号資産(仮想通貨)市場の法整備が停滞している。同国の下院は4日、カロル・ナブロツキ大統領が拒否権を行使した暗号資産市場法について、拒否権を覆すための採決を実施したが、必要な票数に届かなかった。
これにより、EUの包括的な暗号資産規制「MiCA」を国内法で実施する枠組みは、成立の見通しが立たない状態が続く。
25票足りず、3度目の拒否権が維持される
採決には442人の議員が参加し、賛成241、反対198、棄権3という結果になった。
ポーランドの憲法では、大統領の拒否権を覆すには出席議員の5分の3の賛成が必要となる。今回の要件は266票で、賛成は25票足りなかった。
賛成に回ったのは市民連合(KO)、ポーランド農民党(PSL)、ポーランド2050、ツェントルム、左派連合の議員で、反対したのは法と正義(PiS)、コンフェデラツィア、ロズヴイ・プルスだった。
拒否権が覆っていれば、大統領には法案へ署名する義務が生じていた。
この法案をめぐる攻防は長期化している。下院は5月15日、賛成241・反対200で法案を可決。上院は修正を加えなかったが、ナブロツキ大統領は6月11日に署名を拒否した。同大統領が暗号資産市場法に拒否権を行使したのは、これで3度目となる。
対立の争点は規制の強さ
大統領は規制そのものには賛成の立場を示している。
ただし、政府から提示された法案には大統領府が用意した提案の大半が反映されていないとし、「私はこの市場の規制に賛成だ。消費者保護にも賛成だが、それは実効的に行う必要がある」と述べた。修正されれば署名するとも表明している。過去の拒否権では、政府案が市場を過剰に規制し、ポーランド企業を国外へ追い出しかねないと主張していた。
野党側も同様の見方を示す。コンフェデラツィアのヴィトルド・トゥマノヴィチ議員は、党として暗号資産市場の規制自体は支持するとしたうえで、この法案は野党を沈めることを目的にしていると批判した。同党のリシャルト・ヴィルク議員は、行政による過剰規制の道を開くとして反対の理由を説明している。
一方の政権側は、法整備の必要性を強調してきた。
ドナルド・トゥスク首相は8月末、暗号資産取引所Zondacryptoをめぐる問題が「本当に恐怖を呼び起こすような形を帯びてきた」と述べ、下院議長に拒否権の再採決を求めた。ロシアが破壊工作の資金供給に暗号資産を利用しているとして、法案の成立が資金の流れを困難にするとも主張している。
採決後には、アンジェイ・ドマンスキ財務相がXで、PiSが大統領の拒否権を擁護し続けたことで市場の規制が不可能になったと批判した。
もっとも、これらは政治的な応酬の側面が強い。ゾンダクリプトをめぐる捜査の内容や、拒否権と特定企業の関係については、当局から確定的な事実が公表されているわけではない。
その間、規制の空白は続いている。MiCAはEU全域で暗号資産事業者の認可や消費者保護の枠組みを定めるが、各国が国内法で実施しなければ運用が始まらない。3度の拒否権により、ポーランドではこの手続きが止まったままだ。
国内の保有者は少なくない。CBOSが今春に実施した調査では、成人の6.6%にあたる約200万人が暗号資産を保有していると回答した。投資額は約400億ズウォティと推計され、中心となるのは18歳から44歳の層である。
政府案は2度の修正を経ており、大統領案とポーランド2050案も提出された経緯がある。それでも合意には至っていない。
