暗号資産の学術研究機関IC3(Initiative for CryptoCurrencies and Contracts)は8日、ブロックチェーンとAIの相互関係を体系化した調査論文「Crypto x AI, AI x Crypto: A Survey」を公表した。
コーネル、カーネギーメロン、プリンストン、イェール、ETHチューリッヒなどの研究者24名が名を連ね、編集はジュリア・ファンティ氏とアリ・ジュールズ氏が務めた。
155ページに及ぶ論文の結論は明快だ。AIと暗号資産(仮想通貨)の統合はまだごく初期段階にあり、両者を結びつける数々の喧伝には、誇張された部分が少なくない。論文は「誤解と半分の真実」と題した章で、業界に広がる5つの通説を取り上げ、どこまでが正しく、どこからが証拠不足かを切り分けている。
ウォレットを持っても、AIは「自律」しない
暗号資産業界の関心に最も近いのが、AIエージェントとウォレットを巡る通説だ。「AIエージェントに暗号資産ウォレットを与えれば、自ら稼ぎ、使い、生き延びられるようになり、自律的になる」という主張である。
論文はこれを明確に退ける。そもそも「自律性」の意味がAIと暗号資産で異なるとし、自ら学習・判断する「知能の自律性」と、改ざんや停止に抵抗する「実行の自律性」を区別する。
ウォレットを持っても、AIは賢くなるわけでも、人間によるシャットダウンに強くなるわけでもない。得られるのは、人間の承認を挟まずに取引できる「自動化」にすぎない、と論文は指摘する。
さらに、こうした自動化はブロックチェーンを必須としない。中央集権的な金融インフラでも、AIエージェントはプログラム経由で取引できる。ただし、ブロックチェーン決済には中立性や検閲耐性という利点があり、その点は評価できるとした。自動化と自律性の混同こそが、この通説の落とし穴だという。
検知、公平性、透明性、コスト──残る4つの通説
論文は残る4つの通説も同様に検証する。まず「ブロックチェーンはAI生成コンテンツと人間の作ったコンテンツを区別できる」という主張だ。
ブロックチェーンはタイムスタンプや記録の保全には適すが、外部の判定器が下した結論を「改ざんなく記録」できるだけで、その判定が正しいことまでは保証しない。生成AI検知の包括的な解決策には程遠いとした。
「ブロックチェーンや分散化がAIのバイアス・公平性問題を解決する」という通説も退けられる。アルゴリズム的バイアスは訓練の過程に内在するため、分散化は問題の根源に触れない。透明性やガバナンス参加の拡大には寄与しうるが、それはブロックチェーンを本質的に必要とするものではない、と論文は説く。
「データ来歴や推論をブロックチェーンに記録すれば信頼できるAIになる」という主張についても、記録と挙動の保証の間には大きな隔たりがあると指摘。ブロックチェーンは取引を透明にするが、モデルの推論の中身まで透明にするわけではないとした。
最後に「分散化はAIのコストを本質的に下げる」という通説では、GPUを貸し借りするDePIN(分散型物理インフラ)を例に挙げる。ネットワーク経由の通信コストでかえって割高になる場合があるとし、体系的なベンチマークの不足を課題とした。
論文はいずれの通説も「完全な虚偽ではない」と断りつつ、誇張された期待と実際にできることの線引きを促している。ブロックチェーンが記録の完全性や中立性といった限定的な価値を持つことは認めつつ、AIの根本的な課題を解く万能薬ではない、というのが一貫した立場だ。



