ビットワイズ、新ETF「IGME」発表──GameStop株の値動きを収益化する戦略型ETF

木本 隆義
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画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

再燃するGameStop株人気を投資商品に転換

暗号資産(仮想通貨)投資会社「Bitwise(ビットワイズ)」は10日、ビデオゲーム小売チェーン「GameStop(ゲームストップ)」の株価パフォーマンスに連動する新たなETF(上場投資信託)「Bitwise GME Option Income ETF(ティッカー:IGME)」を発表した。ゲームストップはビットコインを保有しており、同ETFはゲームストップの業績だけでなく、ビットコイン市場の動向にも影響を受ける可能性がある。

ビットワイズは、仮想通貨市場におけるインデックスファンドやETFの提供で知られる、いわば仮想通貨投資の専門家集団である。その彼らが、なぜ今、株式市場、それもきわめて投機的な色彩を帯びた銘柄に焦点をあわせたのだろうか。

事の経緯を理解するため、2021年にさかのぼろう。ゲームストップはこの年、株式市場の歴史に残る一大ムーブメントの震源地となった。当時、一部のヘッジファンドが同社の株価下落を見込んで大量の空売りを仕掛けていた。これに対し、SNS上で団結した個人投資家たちが一斉に買い向かい、株価は異常な高騰を見せた。結果として、プロの機関投資家が巨額の損失を被るという「世紀の番狂わせ」を演じたのである。この一件で、ゲームストップは単なる企業名を超え、個人投資家の反骨精神を象徴する「ミーム株」の王者として君臨することとなった。

そして、2025年。市場から忘れ去られかけていたこの熱狂が、最近になって再び燃え上がった。きっかけは、2021年の騒動を主導したとされる伝説の個人投資家、キース・ギル、通称ロアリング・キティがオンライン上に突如として帰還したことだ。彼の動向一つでゲームストップ株は再び乱高下を始め、市場の注目を一身に集めている。

発表されたETFは、ゲームストップ株の高いボラティリティと熱心なファン層に商機を見出したものだ。加えて、ゲームストップがビットコインを保有しているという事実も、仮想通貨投資会社であるビットワイズにとってはまことに好都合だ。

このETFは、GME株を現物として直接保有するのではなく、その値動きにエクスポージャーを持ちながら、コールオプションを売却することで毎月のプレミアム(オプション料)を得る仕組みとなっている。クラシックな「カバードコール」に似た構造だが、あくまで現物株を持たずに構成されている点で、より柔軟なデリバティブ戦略と言える。

この設計により、ゲームストップ株の高いボラティリティを利用してインカム収入を狙うことが可能になる。ただし、当然ながらリスクもある。株価が急騰した場合、利益はあらかじめ設定された上限(オプションの権利行使価格)までに制限される。一方で、株価が下落した場合の損失はそのまま被ることになり、オプション料だけでは補いきれない可能性もある。

ETF投資家側から見ても、このETFがゲームストップ株を直接保有するものではなく、あくまでその値動きを利用したデリバティブ商品であることに留意されたい。ETFからはゲームストップの配当を受け取れず、同社株主としての議決権も得られない。

だが、本ETFの保有者は、ゲームストップ株の高いボラティリティを活用しつつ、一定の範囲内で月次のプレミアム(オプション料)収入を狙うことができる。価格上昇の恩恵は一部制限されるが、その分、下落時の影響をプレミアムで部分的にカバーできる設計になっている。ミーム株特有の値動きを活かしたユニークな商品設計といえるだろう。

ようは、この「IGME」の正体は、ゲームストップ株の熱狂に直接飛び込むリスクは避けたいが、そのお祭り騒ぎから何かしらの果実を得たい、と考える、ETF投資家感涙の金融商品なのだ。ビットワイズは、個人の情熱や市場心理といった、これまで数値化しにくかった要素を制度化された金融の枠組みに取り込み、新たな価値を吹き込もうしている。

この異色ETFが市場にどのような影響を与えるのか、そして投資家たちに受け入れられるのかは未知数である。ただ一つ確かなのは、金融市場が常に新しい物語と収益機会を求めているという事実である。「熱狂を手堅いサブスク収益」に変えるという今回の試みは、伝統的金融とデジタル時代の大波同士が交差する、現代ならではの実験と言えるだろう。

「さあゲームの始まりです」

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リージョナルスペシャリスト(SEA)。仮想通貨歴は10年。Liskで大損、BTCで爆益。タイの古都スコータイで、海外進出のための市場調査・戦略立案・翻訳の会社を経営。『月刊くたばれMBA』編集長。1973年生。東海中高、慶大商卒、NUCB-MBA修了。来タイ13年。
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