FXの収益性を左右するマルチンゲール法とそのリスク
中央大学経済学部の吉見太洋准教授は9日、日本金融学会で、外国為替証拠金取引(以下、FX)における投資の収益性が投資家の属性によってどのように影響を受けるかを分析した研究結果を発表した。
この研究には、SBI FXトレードが提供した128,705口座のデータが使用された。
今回分析の対象となった「投資家の属性」には、性別、年齢、個人資産額、FX経験年数などのデータが含まれている。
「FXは女性の方が上手い」
「FXは女性の方が上手い」・・・多くのFXトレーダーが感じているこの見解が、今回の研究を通じてアカデミックな世界(日本金融学会)で実証された。
「なぜ女性の方がFXが上手いのだろうか?」
・・・ひとつに、「損切りの速さ」が指摘される。
「ではなぜ、女性の方が損切りが速いのだろうか?」
・・・進化人類学的には、「子を生み育てる性」の女性には、必要資本を温存しようとする『母性本能』があるからだ。このことが、リスク回避や損切りの判断に影響を与える可能性があるという。
筆者としては、この進化人類学的なロジックには少なからぬ魅力と説得力を感じる。だが、昨今のジェンダーフリー・ムーブメントの隆盛で、このようなジェンダーロールを前提とした進化人類学の言説は、すっかり旗色が悪くなってしまった。
さて、今回サンプルとなった投資家データは、SBI FXトレードが提供する128,705口座の生データ。これをもとに女性トレーダーの持つトレード手法や行動特性を「定量的に」明らかにすることができれば、わが国全体のFXトレード勝率向上、すなわち国益に大きく貢献するだろう。これもまた、経済学のビジネス活用。
吉見准教授による続報が切望される。
マルチンゲール法と収益性指標の課題
トレードの収益性を話題にするとき、投資家が絶対に無視してならないのが『マルチンゲール耐性』だ。
ときに、勝率99%のトレード手法をご存じだろうか?
そう、マルチンゲール法だ。
最初に0.01単位ベットして、負けたら0.02単位ベット、また負けたら0.04単位ベット、またまた負けたら0.08単位ベットというふうに倍賭け・倍々賭け・倍々々賭けしていき、勝ったところですぐやめれば、「見かけの勝率」は簡単に99%を超える。
吉見准教授が採用する二つの収益性指標には、残念ながら、マルチンゲール法による「まやかしの勝率上昇」を排除する仕組みが含まれていない。
- 取引成功率: 取引があったすべての日のうち、プラスの収益が実現した日の割合(%)
- 累積損益率: 観測日までの累積損益額を、初期証拠金残高と観測日までの累積入金金額で割った割合(%)
実際、「マルチンゲールガチ」なトレードを実践している者は少なくないし、私自身、「マルチンゲール気味」なトレードをついついしてしまう。それで富士の樹海を考えるほどの大損をしたこともあるわけだが。
仮に勝率が99%だとしても、10年に一度30%の確率で「全財産を失う」おそれがあるとしたら、あなたはそのトレード手法を採用するだろうか? それが、ミスター・コツコツドカンこと、マルチンゲール法だ。
極端な話、女性トレーダーに「マルチンゲールガチ勢」がきわめて多く、それが「FXは女性の方が上手い」という見かけの成果を生み出しているとすれば、まったくのミスリーディングになってしまう。
アカデミックな分析の場においても、『破産確率』と『マルチンゲール耐性』が考慮されることを強く期待している。
情報ソース:中央大学プレスリリース