ハッキングは国策
ニューヨークのブロックチェーン追跡会社Chainalysisは9日、韓国の国家情報院と合同で行った「北朝鮮の暗号資産ハッカー集団に対する囮捜査」のレポートを公表した。
Chainalysisによると、2022年に世界で盗まれた暗号資産は、過去最高の38億USドル(以下、ドル)。その半分近い17億ドルが、北朝鮮のハッカー集団による仕業という。この数字は、ビットコイン一代男・エルサルバドルのブケレ大統領がこれまでに買ったビットコインが、累計でも1.13億ドルにすぎないことを考えれば、驚異的な金額だ。
北朝鮮のGDPは150億ドル(2022)。GDPの10%以上に当たる金額を、暗号資産ハッキングで稼ぎ出したことになる。
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金ファミリー
北朝鮮のGDPには、無論、暗号資産ハッキングで得られた金額は計上されていない。犯罪行為をぬけぬけとGDPに計上する国はないし、そもそも市場を経由しない経済活動は、一部の例外を除いてGDPには計上されない。
北朝鮮という国は、実質的には「金一族によるファミリービジネス」で、通常の民主国家の常識はまったく通用しない。だが、ひとたび「金王朝の存続」こそが国家の目的と見抜ければ、金正恩の戦略はきわめて合理的な生存戦略であることがわかる。
たとえ各種の犯罪行為で国際的な孤立を深め、国民が飢えることになっても、金一族の懐に入る金は増え、支配基盤はむしろ盤石となるからだ。
ユニークなビジネスモデル
年間17億ドルもの暗号資産が、元手のかからない「盗難」で手に入るなら、マネをする国が他にも現れてもよさそうなものだ。だが、そうはならないのは、北朝鮮のクリプトハッカー集団が超優秀で、他の国にはマネができないからだ。
Chainalysisによると、北朝鮮のクリプトハッカー集団の規模は数百人程度。数学分野における天才児たちに、幼少期からハッカーとしての英才教育を施す。その育成過程は、社会主義国におけるオリンピック選手の育成に酷似しており、クリプトハッカー達にはさまざまな特権も与えられるという。
驚くべきことに、核開発や大陸間弾道ミサイルに関する技術も、クリプトハッカー集団が世界的軍事企業から厳重なセキュリティをかいくぐって盗み出したものだという。ハッキングで得た資金と技術でテポドンを飛ばし、内外の押さえとする。武器輸出も行う。見事なシナジーというほかない。
なお、高性能な核兵器を持つ北朝鮮と韓国が統一されることは、日本にとって国防上の最悪のシナリオだが、「金王朝の存続」が北朝鮮の国家の目的なのだから、それは当分なさそうだ。