インドの執行局(ED)は10月29日、暗号資産(仮想通貨)を使った国境をまたぐ無許可の送金の疑いで、同局のベンガルール地域事務所が27日に外国為替管理法(FEMA)に基づいて4カ所を捜索したと発表した。対象は、暗号資産サービスMudrexの運営会社と、DeFi(分散型金融)のInstadappの関係先。EDは違反の疑いの額を、前者で460億ルピー超(763億円超)、後者で約4,000万ドル(約63億円)としている。いずれも調査の途中の指摘で、違反が確定したわけではない。
インド当局、Mudrex運営会社を外国為替管理法違反の疑いで捜索
EDによると、捜索は2つの事業者の分を合わせて、FEMA第37条に基づき、南部ベンガルールの3カ所と中部マディヤ・プラデーシュ州の1カ所で行った。暗号資産、特にステーブルコインを使った国境をまたぐ無許可の取引の疑いだという。
EDは、暗号資産のトークンが無許可の送金や金融取引に広く悪用されていることが、捜索で分かったと説明した。
調査は、ベンガルールのRPFAS Technologies Private Limitedが大規模にFEMAに違反しているとの苦情を受けて始めた。同社は暗号資産サービスのMudrexとSaber.moneyを運営する。
苦情は、これらのサービスが暗号資産を使った無許可の国境をまたぐ取引に使われているとの内容だった。
EDは、同社がインド準備銀行(RBI)の認可を受けずに、暗号資産を使った即時の国際送金をうたっていたと指摘した。EDによると、送金には特にテザー(USDT)
USDTやUSDC
USDCなどのステーブルコインが使われていた。
EDが捜索と聴取から明らかになったとする送金の流れは4段階だ。
- 送金したい人がサービスに登録する
- 会社の銀行口座にお金を入れる
- そのお金でUSDTなどのステーブルコインを買う
- ステーブルコインをインドの暗号資産取引所で売り、代金を受取人に送る
捜索では、大口の相対取引(OTC)や、カナダ、リトアニア、米国などに設立したペーパー会社の利用、海外の暗号資産取引所を使った無許可の送金が見つかったという。
EDによると、同社はバイナンスやBybit(バイビット)など海外の取引所で暗号資産を売買し、多額の暗号資産をそこに置いていた。海外での経費も暗号資産で払っていたという。EDは、無許可の送金と、海外の取引所に置いた無許可の残高を合わせて、違反の疑いの額を460億ルピー超としている。
EDの発表は、バイナンスやバイビット自体の違反には触れていない。日本の金融庁は、無登録で暗号資産交換業を行う者として、2018年3月と2021年6月にバイナンスに、2021年5月から2024年11月までに3回バイビットの運営会社に警告書を出している(金融庁が警告した無登録業者の一覧)。
警告の対象は海外のバイナンスで、国内の登録業者Binance Japan株式会社(バイナンスジャパン)ではない。
インドのニュースサイトThePrintによると、Mudrexは同サイトのメールでの問い合わせに対し、調査に全面的に協力し、事業は関係する法令に沿っていると考えていると答えた。
同社はインドの金融情報機関(FIU-IND)に報告義務のある事業者として登録しており、サービスは通常どおりで利用者の資金は安全だとも説明した。
DeFiのInstadapp、運営はインドからとED
Instadappは2018年に始まったイーサリアム
ETH上のDeFiで、暗号資産の貸し借りや交換ができる。今は主にFluid
FLUIDの名前で運営している。
EDは公開データをもとに、預かる暗号資産は10億ドル超(約1,578億円超)、これまでの手数料は計約1億4,900万ドル(約235億円)と説明した。創業者やチーム、初期の投資家に配られた独自のトークンがあり、取引所で売ることができるという。
EDによると、運営は米デラウェア州の会社とされているが実体はなく、創業者と開発チームはインドで働いている。捜索はベンガルールの2カ所とマディヤ・プラデーシュ州の1カ所で行い、創業者の1人がインドから運営している証拠を得たという。
EDの説明では、DeFiの収益と投資家から集めた資金はステーブルコインで英領バージン諸島の会社のウォレットに入った。シンガポールの業者で売って得た法定通貨は、シンガポールのグループ会社の口座を経て、実態のないソフトウェア開発費などの名目でインドへ送られたという。
EDは、FEMA違反の疑いの額を、予備調査の段階で約4,000万ドルとした。JinaCoinの換算では、Mudrexの運営会社の分と合わせて800億円を超える。調査は続いている。
ThePrintによると、Instadappはインド時間10月30日夕方の時点で同サイトの問い合わせに答えていなかった。
インド当局の6月の捜索と、暗号資産の規制・税制
EDは6月19日の発表で、ベンガルール地域事務所が17日にFEMA第37条に基づき、暗号資産を使った国境をまたぐ無許可の送金の疑いで、主に5社を対象に6カ所を捜索したと公表していた。
違反の疑いの額は250億ルピー超(415億円超)で、残高計約6,000万ルピー(約1億円)の銀行口座に差し止めの命令を出した。10月の発表は、6月の捜索に触れていない。
| 項目 | 6月の捜索 | 10月の捜索 |
|---|---|---|
| 捜索日 | 6月17日 | 10月27日 |
| 場所 | ベンガルールの6カ所 | ベンガルールの3カ所、マディヤ・プラデーシュ州の1カ所 |
| 対象(サービス名) | Transak、Carret、Xpat、Onramp.money、Onmetaの運営会社 | Mudrex・Saber.moneyの運営会社、Instadapp(Fluid) |
| 違反の疑いの額 | 250億ルピー超(415億円超) | 460億ルピー超(763億円超)と約4,000万ドル(約63億円) |
| 口座の差し止め | 約6,000万ルピー(約1億円) | 発表に記載なし |
インド政府は2023年3月、暗号資産のサービス業者を資金洗浄防止法(PMLA)の対象に加え、海外の業者も含めてFIU-INDへの登録を求めた。
インド政府報道局の当時の発表によると、FIU-INDは2023年12月、バイナンスなど海外の9社に通知を出し、2025年1月にはバイビットに9,270万ルピー(約1.5億円)の制裁金を科した。
今年9月には、資金洗浄防止法の義務を守っていないとして15社に通知を出している。今回のEDの発表は、これらのFIU-INDの措置に触れていない。
インドの暗号資産の税制では、2022年の財政法で、暗号資産(仮想デジタル資産)の譲渡で得た所得に30%の税率をかける規定を設けた。取得費のほかは経費を差し引けず、損失をほかの所得と相殺したり、翌年以降に繰り越したりもできない。
所得税局が掲載する1961年所得税法の第194S条は、居住者に暗号資産の対価を払う際、原則として1%を源泉徴収すると定めている。今回のEDの発表は、税制には触れていない。
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※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=157.81円、1ルピー=1.66円)
