タイのクリプト界隈は騒然
クリプト系インフルエンサーのWatcher.Guru氏(フォロワー数183万)が7日、「JUST IN: Thailand opposition leader promises $300 #crypto airdrop per citizen if elected Prime Minister in May.」(タイの野党リーダーは、5月に首相に当選した場合、国民1人当たり300ドルの暗号資産のエアドロップを約束)とツイートすると、在タイのクリプト界隈は色めき立った。だが、このツイートには誇張がある。
首相候補スレッタ・タビシン氏
件の発言は、プアタイ党(タイ貢献党)の首相候補スレッタ・タビシン氏が、5日、バンコク近郊のスタジアムで開催された同党の選挙イベントで行ったスピーチの一部だ。
たしかにスレッタ氏は「国民1人当たり10,000バーツのデジタルマネー配布」に言及している。バーツ建てか、ドル建てかは問題ではない。CryptoとDigital Moneyの違いにも目をつむろう。
だが、スレッタ氏は「if elected Prime Minister in May」(5月に首相に当選した場合)などとは言っていない。それは看過できない。それどころか、氏はデジタルマネー配布を所得格差解消のための経済政策の一案として紹介しただけで、「promise」(約束)などしていないのだ。
本件は、どの時点で話に尾ひれが付いたか不明だが、タイメディアではこうした「見出し詐欺」が行われることは珍しくない。
プアタイ党広報部からは、誇張された報道を否定する動きは、今のところ見られない。「そう受け取って頂いたなら、それで結構」と開き直っているのかもしれない。良識派の在タイ外国人の間では「行き過ぎたポピュリズム」として、デジタルマネー配布を批判する向きが多い。
なお、元のスピーチに「エアドロップ」の表現はない。
タイの政局
タイでは近年、与野党のバラマキ合戦が過熱している。だが、スレッタ氏が所属するプアタイ党は、元ビジネスマンが多く(スレッタ氏の前身はトランプ元大統領と同じく不動産王だ)、大衆の目くらまし的なバラマキ政策は好まない。デジタルマネー配布を所得格差解消のための経済政策の一案として持ち出したのも、おそらくは本音だろう。
スレッタ氏は、デジタルマネーの配布を具体的にはどのような形で想定しているかは明らかにしていない。一説には「CBDC(中央銀行デジタル通貨)の『デジタルバーツ』で配布されるのではないか?」とうわさされているが、現時点では経済政策の一案にすぎず、詳細は考えていなかったのが実情だろう。
ただし、「配布されたデジタルマネーは、IDカード記載の本籍地から半径4km以内でのみ使用できる」という妙に具体的なルールは披露された。デジタルマネー使用を目的とした帰省がうながされ、地域経済が活性化されるのだという。
タイでは、政界・財界の上層部に暗号資産フリークが多く、5月の選挙を控え、本件に類似したリップサービスが飛び出す公算は大きい。タイ政局から目が離せない。