仮想通貨の特別扱いは、80年にわたる法的枠組みを無視する
米証券取引委員会(SEC)は27日、大手暗号資産(仮想通貨)取引所の「Coinbase(コインベース)」に対する法執行措置を撤回するため、裁判所に申し立てを行った。これに対し、SECのキャロライン・A・クレンショー委員は声明を発表し、今回の決定を強く批判した。
SECは、仮想通貨に関する規制の枠組みを策定するために新設された「仮想通貨タスクフォース」の将来的な勧告を理由に、訴訟の撤回を決定したと説明している。しかし、クレンショー委員は、これまでの判例を無視する形での撤回は「前例のないことであり、80年にわたる確立された法律を無視するものだ」と指摘した。
SECはこれまで、共和党政権・民主党政権を問わず、仮想通貨に関する証券法を適用し、法執行措置を講じてきた。特に今回撤回されたコインベースに対する訴訟では、裁判所がSECの主張を支持し、「仮想通貨を巡る取引は、過去80年間にわたり証券と認定されてきた枠組みに十分に当てはまる」と判断していた。
クレンショー委員は、「業界は法的明確性を求めていると言われるが、今回の決定はむしろ明確性を失わせるものだ」と警鐘を鳴らす。さらに、「新たな規制が制定されるか、議会が法律を変更するまで、現行の法的枠組みがある以上、それを全ての市場参加者に公平に適用し、執行すべきだ」と主張した。
クレンショー委員は、今回の決定が「仮想通貨に対する規制の放棄」にあたると指摘し、「詐欺行為をどのように取り締まるのか、仮想通貨に対して他の資産とは異なる特別な扱いをするのかといった重要な疑問を生じさせる」と懸念を示した。また、「法律が不明確な環境は悪意ある行為者にとっての温床になりうる」と述べ、証券法の執行を怠ることの危険性を強調した。
仮想通貨市場には、詐欺や市場操作、マネーロンダリング、国家安全保障上の懸念、価格の急変、個人投資家の損失といったリスクが存在する。クレンショー委員は、これらのリスクを考慮したうえで、SECは適切な執行措置を継続すべきだと主張した。
さらに、今回の撤回決定がSECの法執行部門の信頼性を損ねる可能性があるとも指摘した。「この決定により、SECが政治的な影響や資金力のある関係者に左右されているとの批判を招くことになる。これは政府に対する不信感を増幅させる」と警告した。
クレンショー委員は最後に、「SECの役割は、投資家や発行者、資本市場にとって最善の利益を追求することだ。今回の決定は、その使命に反するものだ」と強く批判した。
SECの突然の方針転換は、仮想通貨市場の規制の在り方に大きな影響を与える可能性がある。規制の不透明さは投資家の信頼を損ね、市場の混乱を招きかねない。今後、SECがどのように規制を進めるのか、その動向が注視される。