セイラー氏、米下院委でデジタル資産の規制明確化を提案

木本 隆義
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昨年12月発表の「デジタル資産フレームワーク」を基に方向性を議論

「Strategy(ストラテジー)」の会長、マイケル・セイラー氏は27日、米下院金融サービス委員会でデジタル資産政策について意見を交わし、昨年12月に発表した「デジタル資産フレームワーク」の内容を説明し、その方向性について議論を行った。

セイラー氏が提示したデジタル資産フレームワークは、米国の金融政策の常識を根底から揺さぶる大胆な提言を含んでいる。その核心のひとつは、米政府がビットコインを戦略的準備資産として保有することで、最大81兆ドルもの資産価値を国家にもたらすという試算だ。従来の国債や金などとは比較にならないスケールであり、政府財政の強化につながる可能性がある。ただし、その前例のなさと桁外れの規模ゆえ、市場の反応は期待と慎重な見方が交錯している。

セイラー氏が示した分類体系では、デジタル資産を明確に6つに区分している。発行主体を持たないビットコインなどは「デジタル・コモディティ」と位置付け、株式や債券の裏付けがあるものは「デジタル証券」、法定通貨に連動するものは「デジタル通貨」とするなど、これまで不明瞭だったデジタル資産のカテゴリーを明確化した。この分類は規制環境が曖昧であった米市場において、新たな指針となり得る。

しかし、最も議論を呼んでいるのは、セイラー氏が掲げる「業界主導のコンプライアンス」である。これは、規制当局が介入する範囲を限定的にし、市場参加者の自己規制に依拠するものだ。同氏は「嘘をつくな、騙すな、盗むな」との基本三原則を掲げているが、倫理的に不安定な暗号資産(仮想通貨)業界にこの責任を委ねることのリスクは小さくない。市場のモラルハザードを防げるかどうかは未知数だ。

セイラー氏のフレームワークの魅力的な点は、トークン発行の迅速化と劇的なコスト削減にある。これまでIPOなどの資金調達に数千万ドルの費用と長期間を要したプロセスを、数十万ドル規模、期間も数日へと短縮することを提案している。これにより、中小企業やスタートアップを含む約4,000万の企業に資本市場へのアクセスが開かれるとされる一方、粗悪な投資案件が大量流入するリスクも否めない。規制緩和が市場の活性化とリスクの増大が表裏一体となる可能性がある。

市場関係者の反応は二極化している。仮想通貨業界はセイラー氏の提案を歓迎し、米国での規制の明確化や緩和を期待している。反面、伝統的金融の支持者や金本位の批評家、特にピーター・シフ氏は、政府がビットコイン準備金を保有することに対し懐疑的な立場を示しており、最終的に売却が避けられず、市場の崩壊を招く可能性があると警鐘を鳴らしている。政府のビットコイン保有が米ドルの信頼性に影響を与えるのではないかという懸念も根強い。

セイラー氏自身は、ビットコイン強気派の代表格であり、ストラテジーが巨額のビットコインを保有する立場にある。彼の提言は自身の利益に繋がるポジショントーク的な側面も否定できないが、米経済がデジタル資産への対応に遅れを取れば、中国やEUに覇権を奪われるという危機感も含まれている。こうした背景から、このフレームワークは単なる投機的な提言にとどまらず、米国の長期的経済戦略に関する重大な問いかけでもある。

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フリーエコノミスト。仮想通貨歴は9年。Liskで大損、BTCで爆益。タイの古都スコータイで、海外進出のための市場調査・戦略立案・翻訳の会社を経営。1973年生。東海中高、慶大商卒、NUCB-MBA修了。主著『マウンティングの経済学』。来タイ12年。
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