ロビンフッド、仮想通貨取引所ビットスタンプの買収完了──世界展開を加速

木本 隆義
12 Min Read

複数地域のライセンス網と法人サービスで事業領域を拡大

米株アプリの代名詞的存在「Robinhood(ロビンフッド)」は2日、世界最古参の暗号資産(仮想通貨)取引所「Bitstamp(ビットスタンプ)」の買収を正式に発表した。総額は約2億ドル。今回の取引は、アメリカ発のリテールブランドが機関投資家向けビジネスを一気に取り込む買収劇ともいえる。

ロビンフッドは2013年創業のフィンテック企業。手数料ゼロの株式・オプション取引で若年層を取り込み、近年は仮想通貨サービスも拡充中である。一方ビットスタンプは2011年設立、50超のライセンスを武器にEU・英国・米国・アジアへサービスを広げる老舗。厚い流動性と堅牢なAPIで機関投資家の信頼を蓄積してきた。

今回のクロージングは6月2日。つまり発表から一夜明けた現在も「ほやほや」のニュースである。これに先立つ2024年6月、ロビンフッドは買収意向を公表し、約1年かけて規制当局の承認をクリアしてきた。

買収で何が変わるのか? まず、ロビンフッドは一挙に「米国外」という広大な市場へ打って出る足場を得た。ビットスタンプの欧州パスポート・ライセンス網を使えば、新規申請コストを抑えつつ規制リスクを分散できる。逆にビットスタンプ側は、ロビンフッドのリテールUXとブランド力を取り込み、個人投資家層を厚くできる。両社のアセットは、たとえるなら“前線”と“補給線”のように補完し合う関係にある。

次に、機関投資家向けビジネス。「仮想通貨版プライムブローカレッジ」とも呼ばれる暗号アズアサービス(CaaS)、ステーキング、レンディングなど、ビットスタンプの法人向け収益源をロビンフッドが横取りするのではなく、むしろ共同運営で厚みを増す公算が大きい。ロビンフッドは株式市場で培った低コスト清算インフラを移植し、手数料競争に拍車をかける構えだ。

一方、課題も見えてきた。統合によるシステム接続やリスク管理の再設計には時間がかかる。特に複数法域でのAML・KYC要件を単一プラットフォームで満たすのは容易ではない。市場サイクルが反転し、仮想通貨価格が急落すれば、買収プレミアムが一転して重荷となるリスクも残る。とはいえ、老舗の信頼資産と新興の機動力が折り重なる今回の布陣は、冷え込みがちな業界に久々の「いいニュース」を投げ込んだといえる。

ロビンフッドの仮想通貨取引部門「Robinhood Crypto(ロビンフッド・クリプト)」のゼネラルマネージャーであるヨハン・ケルブラ氏は、「この買収は仮想通貨ビジネスを成長させる大きな一歩だ」と述べ、ビットスタンプの信頼性を背景にグローバル展開を進める意義を強調した。また、ビットスタンプCEOのジェイビー・グラフティオ氏も「当社の透明性と信頼性が、ロビンフッドのエコシステムに貢献するだろう」とコメントしている。

株から仮想通貨へ、個人から機関投資家へ。ロビンフッドはビットスタンプという“14年物ビンテージ”をイッキ飲みし、次の景色をねらう。アメとムチを握る規制当局の思惑も絡み合うが、両社が描く「仮想通貨業界の成熟期」は、ここからが本番だろう。

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リージョナルスペシャリスト(SEA)。仮想通貨歴は10年。Liskで大損、BTCで爆益。タイの古都スコータイで、海外進出のための市場調査・戦略立案・翻訳の会社を経営。『月刊くたばれMBA』編集長。1973年生。東海中高、慶大商卒、NUCB-MBA修了。来タイ13年。
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