クラーケン、独自のステーブルコイン開発を検討|正式発行には課題も

木本 隆義
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ステーブルコインは群雄割拠時代に突入

暗号通貨(仮想通貨)取引所「Kraken(クラーケン)」が独自のステーブルコインの開発を検討していることが21日、「Bloomberg(ブルームバーグ)」の報道で明らかになった。

「◯◯がステーブルコインの導入を検討している」という報せを耳にするたび、率直にいって「またか」と感じる。「Binance(バイナンス)」のBUSDは規制の影響で発行停止となり、「Crypto.com(クリプトドットコム)」も独自ステーブルコインに乗り出すなど、取引所はそろって自前のコインを欲しがっている。背景には、手数料収益の限界と、準備金運用による利息収入を新たな利益源とする狙いがある。

クラーケンが独自のステーブルコイン開発を急ぐ背景には、EUの新規制「MiCA」が挙げられる。2025年3月末から「未承認ステーブルコインは取引停止」という流れが強まるため、テザー(USDT)などが上場廃止になるリスクがある。そこで「米ドル連動トークンを自前で作ればいいじゃん」という発想に至ったようだ。さらに、クラーケンのアイルランド法人は2023年9月にアイルランド中央銀行からEMIライセンス(電子マネー機関)を取得済みで、法的に整った基盤を備えていることも追い風となっている。欧州のユーザーを取りこぼさず、MiCA対応のアドバンテージを活かす狙いがうかがえる。

ステーブルコインは発行者にとって、いくつか明確な利点がある。自社内で取引が完結すれば資金は取引所内を巡るため、エコシステムの強化になる。裏付け資産を運用できれば利息収入が得られ、「Tether(テザー)」や「Circle(サークル)」のように莫大な利益を上げることも可能だ。MiCAに適合していれば利用者側の安心感が高まるというメリットもある。仮想通貨の世界は規制リスクがつきまとうため、規制対応済みのステーブルコインを備える取引所は差別化を図りやすい。

取引所発行のコインには「もし取引所が破綻したらどうなるのか?」という懸念もあるが、一方でユーザーは法定通貨を出し入れする手間を省けたり、コスト削減効果を享受したりする。流動性は取引所の生命線であり、ステーブルコイン導入は利便性にプラスに働くとみられる。

MiCA基準に従うステーブルコインなら、裏付け資産の監査を受けることで「透明性」を確保できる。かつてテザーの裏付け資産に疑念が生じた際、取引所が巻き込まれて混乱した例を考えれば、規制されたステーブルコインの存在はリスク軽減につながる。欧州ユーザーはUSDTなど主要ステーブルコインの扱いが制限される局面で、クラーケンコイン(仮称)がローンチされれば「取引停止」への対策となり、取引の継続が可能になる利点がある。

今後だが、クラーケン独自の米ドル連動コインがスケジュールどおりに準備できるかは不透明だ。間に合わない場合はUSDCなど他の規制準拠通貨に自動変換されるのではないかという見方もある。また、発行後に十分な流通量と信用力を維持できなければ、値動きが安定していても大口の注文が成立しにくい懸念も指摘される。さらに、バイナンスのBUSDが最終的に発行停止に追い込まれたように、規制上の圧力によって同様の問題が発生するリスクだってある。

ステーブルコインの市場は、MiCAを起点として欧州では「テザー退場、新勢力登場」の大局に移りつつある。クラーケンもその流れに乗り、独自コインの発行で存在感を高めようとしている。ユーザーにとっては選択肢が増える一方、各社入り乱れるステーブルコイン競争の渦中に身を置かなければならない。投資家は欧州を中心とした規制の動きに敏感になるべきであり、クラーケンが本当に勝ち残るかどうかは注意深い監視が必要だ。ほかにもEU対応型の通貨が次々に登場するかもしれず、その動向は市場の新たな機会となるだろう。

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フリーエコノミスト。仮想通貨歴は9年。Liskで大損、BTCで爆益。タイの古都スコータイで、海外進出のための市場調査・戦略立案・翻訳の会社を経営。1973年生。東海中高、慶大商卒、NUCB-MBA修了。主著『マウンティングの経済学』。来タイ12年。
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