「現行制度は不十分」──詐欺拡大に司法当局が危機感
ニューヨーク州のレティシア・ジェームズ司法長官は10日、米連邦議会の幹部に対して、暗号資産(仮想通貨)およびデジタル資産に対する連邦レベルでの規制強化を求める書簡を送付した。書簡では、現状の不十分な連邦規制が詐欺や犯罪行為、さらには金融の不安定性を招いていると警鐘を鳴らしている。
書簡が送付されたのは、米司法省(DOJ)が仮想通貨詐欺に対する連邦の刑事取締りチームを解体すると発表した直後のタイミングであり、ジェームズ司法長官は「今こそ強力な規制の枠組みが必要である」と訴えている。
ジェームズ司法長官は、「仮想通貨詐欺は、現在すべての金融詐欺のうち10%、金融詐欺による損失のうち実に50%を占めており、国の金融市場と国家安全保障に重大なリスクをもたらしている」と述べ、規制の緊急性を強調した。同氏によれば、仮想通貨関連の詐欺による損失額は、2024年に全米で推定120億ドル(約1.7兆円)に上ったという。
ジェームズ司法長官は、以下のような規制を含む立法措置の必要性を訴えている。
- ステーブルコイン発行体に米国に拠点を置き、規制の対象となること義務を課すこと
- ステーブルコインの裏付け資産として米ドルまたは米国債の保有を義務付けること
- プラットフォームがマネーロンダリング対策を実施している事業体としか取引できないようにすること
- 仮想通貨の発行者および仲介業者に登録義務を課し、透明性と説明責任を確保すること
- 利益相反の防止、価格の透明性の向上、不正・詐欺行為の監視と防止を義務付けること
- 仮想通貨を退職金口座での運用から除外すること
書簡ではさらに、「全国の投資家を保護し、市場の健全性と国家経済を守るためには、包括的かつ厳格な規制の導入が不可欠である」と述べられている。
ジェームズ司法長官は、これまでにも仮想通貨関連の企業に対して複数の法的措置を講じており、ニューヨーク州における投資家保護を積極的に進めてきた。2024年には、詐欺行為を行ったとして仮想通貨レンディング企業「Genesis(ジェネシス)」から20億ドル(約2,878億円)の和解金を確保した。また同年には仮想通貨取引所「KuCoin(クーコイン)」から証券および商品ブローカーディーラーとしての登録を怠ったとして2,200万ドル(約31億円)以上の罰金を徴収した。
全米有数の経済規模を持つニューヨーク州からの要請は、仮想通貨規制をめぐる全国的な議論に影響を与える可能性が高い。金融の中心地から発せられる提言は、連邦レベルでの制度整備を後押しする契機となるだろう。
関連:仮想通貨取引所Gemini、ニューヨーク州司法長官と5,000万ドルで和解
関連:米司法省、仮想通貨捜査部門「NCET」解体──起訴対象は悪用した個人に限定
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=143.84円)