DeFi 鉄の掟 = リスクとリターンの自己管理
イーサリアム担保ローンプロトコル「Liquity(リクイティ)」は23日、ユーザー主導型の金利設定を可能にした「V2」モデルをイーサリアムメインネット上で稼働開始した。
本稿では、「V2」プロトコルが提供する革新的な機能と、そこから見えてくるDeFi市場の新潮流を概観する。
シンDeFiの入り口は金利だ。一般的に金利は、「需要と供給」や「リスクとリターン」といったファクターの均衡によって決定される。だが、リクイティV2では、借り手自身が「この利率で貸していただきたい!」と宣言し、その提示した金利が市場原理に基づき調整されるユーザー主導型のしくみを採用している。
- 市場原理に基づく決定
借り手が提示した金利が、ステーブルコインの提供者にとって合理的と判断されれば契約が成立する。このプロトコルは中央銀行のような介入を排し、市場の自律的な需給によってレートを決定する設計である。 - 清算と償還の役割
借り手の担保価値が急落したり、市場で許容されない利率が提示された場合は、償還(redemption)のしくみによってバランスが維持される。複数のメカニズムが組み込まれたことで、リスク管理と自由度の両立を図っている。
リクイティV2では、ETHやステーキングトークン(wstETH、rETH)を担保とする新たなステーブルコイン「BOLD」が導入された。「BOLD」は「Backed Only by Liquid Derivatives(流動性デリバティブでのみ裏付けられた)」の略称で、その設計は技術的にも挑戦的なものだ。
- ETHまわりの資産を担保
Lido(リド)やRocket Pool(ロケットプール)のステーキングトークンを担保にすることで、ステーキング報酬を享受しながら追加の資本効率を追求することが可能。 - 改竄/停止不能
BOLDはプロトコル上での改竄や停止ができない設計がなされている。裏を返せば大規模なアップグレードが困難という側面もあり、イノベーションとリスク管理の境界線をどう引くかが焦点となる。
リクイティV2は、DeFiならではの分散型収益モデルを採用し、プロトコルの全収益をユーザーに直接還元するしくみを打ち出している。これは運営が収益を大きく取得する従来のモデルに一石を投じる例だ。
- V1からさらに進化
リクイティV1ではすでに収益分配が行われていたが、V2ではその比率を100%にまで高めている。これにより、借り手と流動性提供者の双方が収益機会を最大限に享受できる。 - 15以上のフォーク
今後15以上の派生プロトコルが展開される見込みであり、それぞれがBOLDの流動性提供者に報酬プログラムを提供する予定だ。早期参入者は、これらのプログラムを活用する機会が得られるだろう。
リクイティが注目を集める一因は、ガバナンストークンを用いたパラメータ調整が最小限に抑えられている点にある。V2ではステーキング機能が追加されたが、中央集権的にパラメータを変更するしくみは断固排除されている。
- アップデートの慎重さ
運営サイドが安易にルールを変更できない分、利用者は予期せぬパラメータ変更のリスクを抑えられる。ただし、大規模な不具合が発覚した場合の対応が難しい可能性も指摘される。 - 綿密な監査とシミュレーション
このような構造上の制約を補うため、プロトコルは複数の監査法人やセキュリティ企業と協力し、バグや脆弱性の除去に注力してきた。
リクイティV2がもたらすユーザー主導型の借入と新ステーブルコイン「BOLD」は、DeFiの可能性を大きく押し広げるだろう。ユーザーが金利を自由に設定できるしくみは革新的だが、同時に市場での駆け引きにおける責任も伴う。DeFiの核心とは、こうしたリスクとリターンのバランス調整を自ら課する「鉄の掟」にある。