CZ氏、ブテリン氏の分散型バイオ構想に1,000万ドル相当のBNBを寄付

木本 隆義
10 Min Read
画像はFreepikのライセンス許諾により使用

個人資産から分散型バイオテック支援に寄付

「Binance(バイナンス)」創業者のチャンポン・ジャオ、通称CZ氏は1日、イーサリアムの創設者ヴィタリック・ブテリン氏によるオープンソースのバイオテクノロジー開発支援に対し、個人資産から1,000万ドル(約14億円)に相当するバイナンスコイン(BNB)を寄付した事実を公表した。

この寄付自体は数ヶ月前にすでに行われていたものである。総資産629億ドルともいわれるこのテクノロジー界の億万長者は、今回の行動を「バイオテクノロジーの進歩を後押しするための、ささやかな貢献にすぎない」と謙遜する。だが、その背景には、ブテリン氏の描く壮大な構想に対する共感がうかがえる。事実、CZ氏のファミリーオフィスである「YZi Labs(ワイジーラボ)」も、以前から同種のバイオテック構想への投資を積極的に行っている。

では、ブテリン氏が目指す「分散型バイオテック」とは、一体いかなるものなのだろうか? 彼が提唱する「分散型科学(DeSci)」の中でも、バイオテクノロジー分野は特に、中央集権的な構造による弊害が大きいとされている。現代科学、とりわけ医療やバイオテクノロジーの領域は、巨大企業の掌中にあるというのが彼の問題意識だ。営利を至上命題とする巨大企業が開発する治療法は、ときとして、それを本当に必要とする人々の利益とは相反する結果をもたらす。ブテリン氏に言わせれば、この歪んだ構造は「分散化」というメスで正すことができる。

たとえば、ゼロ知識証明という暗号技術を用いれば、個人のプライバシーを鉄壁に守りながら、公衆衛生を疫病の脅威から守ることが可能になる。あるいは、世界中の独立した研究者たちが協力し、オープンソースのワクチン開発プロトコルや携帯型の大気汚染テスターといったツールを迅速に開発できれば、未来に起こりうるパンデミックから多くの人命を救えるかもしれない、というわけだ。

さらに興味深いのは、その資金調達の方法である。暗号資産(仮想通貨)は、そのコミュニティを重視する文化のおかげで、公共財へ資金を供給するための他に類を見ないしくみを持っている。CZ氏による巨額の寄付は、単なる一個人の慈善活動という枠には収まらない。それは、仮想通貨の世界で富を築いた者たちが、その富と技術思想を駆使して、科学研究のあり方そのものを根底から覆そうとする、壮大な社会実験といえるだろう。この「分散型科学」という新たな潮流が、製薬業界の白い巨塔を揺るがし、我われの未来をどう変えていくのか。その動向に注目したい。

関連:Binance創業者CZ氏「今こそプライバシー重視のダークプール型DEXを」
関連:CZ氏、釈放後「ギグル・アカデミー」の進展を語る|バイナンスへの関与は控える意向か
関連:バイナンスCZがフリーミアム教育事業|13歳文盲の少年少女が対象

※金額は執筆時点でのレート換算(1ドル=143.55円)

仮想通貨の最新情報を逃さない!GoogleニュースでJinaCoinをフォロー!

Share This Article
Follow:
リージョナルスペシャリスト(SEA)。仮想通貨歴は10年。Liskで大損、BTCで爆益。タイの古都スコータイで、海外進出のための市場調査・戦略立案・翻訳の会社を経営。『月刊くたばれ経済学』『月刊くたばれMBA』編集長。1973年生。東海中高、慶大商卒、NUCB-MBA修了。来タイ13年。
コメントはまだありません

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA