バイナンスラボ、ワイジーラボにリブランド|多角化とコアコンピタンス

木本 隆義
14 Min Read

Web3・AI・バイオの「毛利三本の矢」

暗号資産(仮想通貨)取引所「Binance(バイナンス)」の投資部門「Binance Labs(バイナンス・ラボ)」は23日、バイナンス本体からの独立性を強調するため、「YZi Labs(ワイジーラボ)」にリブランドした。

バイナンスラボは元々、世界最大の仮想通貨取引所であるバイナンスの投資・インキュベーション部門として発足したVC(ベンチャーキャピタル)企業。2018年の設立以来、ブロックチェーンや仮想通貨領域のスタートアップへの出資と支援に特化してきた。有望なプロジェクトに対して資金提供だけでなく、アクセラレーターやインキュベーションプログラムと呼ばれる育成支援プログラムを通じて、事業立ち上げに必要なノウハウや人的ネットワークを提供してきた。

今回「バイナンスラボ」が「ワイジーラボ」に名称を変更した背景には、大人の事情が垣間見える。

とりわけ注目されるのは、バイナンス創業者チャンポン・ジャオ(通称CZ)氏のCEO退任後、仮想通貨やブロックチェーンを超えた新領域への投資拡大の動きが強まっている点だ。仮想通貨一本槍では成長の限界や規制上の課題が見え始める中、AIやバイオテクノロジーを含む幅広い分野に投資を振り向けることで、機会を大きく拡張しようという意図がうかがえる。

ブロックチェーンや仮想通貨だけでなく、AIやバイオテクノロジーにまで投資対象を拡張する傾向は、近年のスタートアップ投資のトレンドと合致している。AI分野では、チャットボットから自動運転、生成型AIアートまで幅広い応用が急伸しており、バイオ分野では新薬開発やゲノム編集の進展により、絶大な社会的インパクトが期待される。

さらに、Web3の技術基盤がAIやバイオ分野と交わることで、データ共有やトークン化などの新たなソリューションが生まれる可能性もある。こうした「三分野が交錯」する領域でのイノベーションを捉えようというのが、ワイジーラボの狙いであると推察される。

かつてバイナンスラボの初代責任者を務め、「Polygon(ポリゴン)」や「Injective Protocol(インジェクティブプロトコル)」などの有力プロジェクトを支援した実績を持つエラ・チェン(Ella Zhang)氏の復帰は、今回のリブランドにおける最大の目玉である。

CZ氏自身はバイナンスCEOを退任しつつも投資活動に積極的に関与し、スタートアップの創業者にメンタリングやネットワークを提供する姿勢を隠さない。表向きには「バイナンスブランドからの独立」を打ち出していても、実質的にはこれまでバイナンスが培ってきた人脈やノウハウを活用する体制を維持しているとみられる。

ワイジーラボが再構築を目指すインキュベーションプログラムには、12週間のレジデンシー制を含む集中的な支援策が盛り込まれる見通しである。スタートアップ同士が互いに学び合い、ネットワークを形成しながら成長を目指す環境を提供することは、VCにとって重要な差別化要素となる。資金提供だけでなく、実務的なノウハウや人脈形成のサポートを行うことで、有望企業を選別しつつ育成していく手法はVCの常套戦略であり、ポートフォリオ全体のリターン向上にも寄与する。

仮想通貨市場は依然としてボラティリティが高く、ピークアウト後の長期停滞リスクも否定できない。一方、AIやバイオ分野は業界全体の成長余地が大きく、分野が異なるためヘッジが利きやすい。「バイナンスラボ」から「ワイジーラボ」へのリブランドは、Web3・AI・バイオという「毛利三本の矢」の象徴といえる。そして、有望スタートアップの育成に力を注ぐ「インキュベーション能力」こそをバイナンスグループのコアコンピタンスに据えるビジネスモデルはなるほど筋が通っている。

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フリーエコノミスト。仮想通貨歴は9年。Liskで大損、BTCで爆益。タイの古都スコータイで、海外進出のための市場調査・戦略立案・翻訳の会社を経営。1973年生。東海中高、慶大商卒、NUCB-MBA修了。主著『マウンティングの経済学』。来タイ12年。
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