ポーランドのカロル・ナヴロツキ大統領は1日、EUの暗号資産市場規制(MiCA)に準拠するための国内法案に拒否権を行使したと、大統領府が発表した。大統領は「ポーランド国民の自由、財産、国家の安定に対する脅威をもたらす」と述べ、過剰規制が企業の国外流出を招くと批判した。これに対し、ドナルド・トゥスク首相をはじめとする政府は「詐欺師に自由な手を与える」と激しく反発しており、政治対立が深刻化している。
大統領「過剰規制が企業を国外へ」
大統領府は拒否権行使の理由として、法案の規模と不透明性を挙げた。ポーランドの法案は100ページ超に及ぶ一方、チェコ、スロバキア、ハンガリーは十数ページ程度で規制を実装しているという。
ナヴロツキ大統領は「政府がワンクリックで暗号資産企業のウェブサイトを無効化できる」条項や、「スタートアップの発展を妨げ、外国企業や銀行を優遇する」高額な規制手数料に懸念を表明した。大統領府報道官のラファウ・レキエヴィチ氏は「暗号資産市場には規制が必要だが、合理的で適切、かつユーザーにとって安全なものでなければならない」と述べた。
政府「EU唯一の無保護国に」
政府側は大統領の決定を強く非難した。トゥスク首相は2日、X(旧ツイッター)で「拒否権の背後には大金、スキャンダル、極右勢力の支援がある。非常に悪い印象だ」と投稿。前日の1日には「大統領は経済成績を拒否できない」と皮肉を込めていた。
アンジェイ・ドマンスキ財務相は「すでに20%の顧客が市場での不正行為により資金を失っている」と指摘し、「我々は彼らを守りたかったが、大統領は混乱を選び、その行動に全責任を負う」と断じた。
ラドスワフ・シコルスキ外相も「バブルが崩壊し、数千人のポーランド人が貯蓄を失ったとき、少なくとも誰に感謝すべきか分かるだろう」とツイートで皮肉を込めた。
政府報道官のアダム・シャプカ氏は、さらに踏み込んで批判を展開する。「大統領は詐欺とロシアのマネーロンダリングからポーランド人を守るための法案を阻止した。結果はどうか? ポーランド人はEUで唯一保護されず、詐欺師には自由な手が与えられ、プーチンが喜んでいる」
2026年7月期限、企業流出の懸念
ポーランド通信(PAP)によると、法案は6月に政府承認され、11月に議会で最終可決された。中道左派から中道右派までの与党連合が支持したが、右派野党は反対票を投じた。
ユランド・ドロプ財務副大臣は、EU規制により加盟国は2026年7月1日までに暗号資産市場の監督機関を指定する必要があると警告していた。期限までに指定できなければ、暗号資産企業はポーランドでの登録ができず、他のEU諸国へ移転することになる。その結果、ポーランド顧客向けサービスの手数料や税収が国外へ流出し、顧客が問題を抱えた場合も外国のサービスプロバイダーに支援を求めなければならなくなる。
財務省のデータによると、ポーランド人の18%が暗号資産への投資経験を持ち、そのうち約5分の1が詐欺や不正行為の被害に遭っているという。
極右政党・連合のスワヴォミル・メンツェン党首は大統領の決定を歓迎し、「ポーランドの暗号資産市場を破壊する法案を阻止した素晴らしい決定だ」と述べた。メンツェン氏は暗号資産の支持者として知られており、以前にビットコインの戦略的準備金創設を提案していた。




