金融庁、暗号資産の国内保有を義務化へ──資金決済法改正案

木本 隆義
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利用者保護と事業者負担、どこまで両立できるか

日本の金融庁は7日、暗号資産(仮想通貨)の交換業者に対し、「国内保有命令」を出せるよう資金決済法の改正を行う案を示した。

金融庁が示した資金決済法改正案は、仮想通貨やステーブルコイン、資金移動業の規制を幅広く見直すものである。背景には、FTX破綻を受けた利用者保護の必要性や、資金移動業の拡大を踏まえたデジタル金融の急速な進展がある。主な柱は、仮想通貨仲介業制度の創設、ステーブルコイン裏付資産運用の緩和、仮想通貨の現物のみを扱う交換業者およびステーブルコイン取扱業者への国内保有命令、クロスボーダー収納代行の規制導入、破綻時の返金手続の迅速化といった点である。

仮想通貨の仲介業は、資金を預からずに売り手と買い手をマッチングする事業者を対象とし、財務要件が緩和される一方、広告規制や説明義務の順守は求められる。ただし、マネーロンダリング対策(AML/CFT)は適用されない。ステーブルコイン発行については、裏付資産を一部、安全な国債や定期預金に振り向けることが認められ、国際水準に近づく形となる。仮想通貨の現物のみを扱う交換業者やステーブルコイン取扱業者には、資産が海外に流出する恐れがある場合、金融庁が国内保有を命令できる制度が導入される見込みで、FTXジャパンの例からも利用者保護効果が期待される。

また、クロスボーダー収納代行については、現行制度では資金移動業登録が不要だったが、国際送金を伴う収納代行のリスクを踏まえ、金融安定理事会(FSB)の勧告に沿って規制を強化する。特に、オンラインカジノや詐欺に悪用される無登録業者の取締りを強化する方針。一方、エスクローサービス(海外代金引換など)や経済的一体性のあるグループ会社間取引は、規制対象外となる見込み。ECプラットフォームについては、売買契約が成立している場合は対象外とする方向だ。資金移動業者が破綻した場合の返金手続では、銀行や信託会社が直接ユーザーへ払戻しを行うしくみが新設され、特に資金移動業の利用者の資金保護が迅速化することが注目される。

事業者には登録や内部管理のコスト増が予想されるが、信頼性向上による利用拡大や新たな収益機会も見込まれる。消費者にとっては破綻時の資産流出リスクが軽減し、比較検討しやすい仲介サービスの拡充など利便性が高まる一方、違法業者の排除と正規登録の確認が課題となる。日本独自の仲介業ライセンス制度や迅速な返金スキームといった特色を持つ改正案は、現在、通常国会で審議中であり、成立すれば施行までに半年から1年程度の周知期間が見込まれる。利用者保護とイノベーションの両立がどこまで実現するか、今後の運用や監督の在り方に注目が集まっている。

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フリーエコノミスト。仮想通貨歴は9年。Liskで大損、BTCで爆益。タイの古都スコータイで、海外進出のための市場調査・戦略立案・翻訳の会社を経営。1973年生。東海中高、慶大商卒、NUCB-MBA修了。主著『マウンティングの経済学』。来タイ12年。
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