ニューヨーク・タイムズは8日、ビットコイン創設者サトシ・ナカモトの正体に関する長編調査記事を公開した。同紙の調査報道記者ジョン・キャリルー氏が1年以上かけて調査を行った結果、イギリス人暗号学者アダム・バック氏がサトシである可能性が極めて高いと結論付けた。
ビットコインマイニング基盤技術の生みの親、中核概念を1990年代にほぼすべて先取り
1970年ロンドン生まれのバック氏は、エクセター大学で分散システムとC++を専門に博士号を取得。1995年から暗号技術を用いて個人のプライバシーを守ることを目指す「サイファーパンクス」のメンバーとして活動してきた。
また、1997年にはビットコインのマイニングの基盤技術となった「Hashcash」を発明しており、サトシはビットコイン
BTCのホワイトペーパーでこれを引用している。
キャリルー氏が注目したのは、バック氏が1997年から1999年にかけてサイファーパンクスのメーリングリストに投稿した内容だ。そこでは分散型電子現金システム、プライバシー保護、ビザンチン将軍問題への対処法、タイムスタンプ機能など後にビットコインの核となるほぼすべての概念が先取りされていたという。
バック氏はHashcashとウェイ・ダイ氏が提案した「B-money」を組み合わせる案も示しており、これはサトシがビットコインで実現した設計そのものだった。
文章分析で34,000人から特定、サトシとの活動時期が逆相関である点も指摘
記事ではサトシとバック氏の文章スタイルに多数の類似点があることが示されている。イギリス式とアメリカ式のスペル混用、「it’s」と「its」の混同、ハイフン使用の独特な誤りパターンなどだ。
調査チームが34,000人以上の候補者から体系的にフィルタリングを行った結果、これらすべての特徴を持つ人物はバック氏ただ1人だったという。
さらに興味深いのは、両者の活動時期が逆相関している点だ。電子現金について積極的に発言していたバック氏は、サトシが活動していた2008年から2011年の間、メーリングリストから姿を消していた。
サトシが2011年4月に消えた直後、バック氏はビットコインコミュニティに復帰。2014年にはブロックストリームを設立し、同社は32億ドル(執筆時換算:約5,070億円)の評価額を達成したという。
直接対面で問い詰めるも否定、一方でサトシであるかを匂わす言い間違いも
キャリルー氏は2026年1月、エルサルバドルで開催されたカンファレンスでバック氏と直接対面。バック氏は6回以上にわたりサトシであることを否定したが、文章分析の結果などについては明確な説明がなかったという。
一方、記事ではバック氏がサトシ自身であるかのような「言い間違い」をしたことが指摘されている。キャリルー氏がサトシの「私はコードの方が言葉より得意だ」という発言について質問した際、バック氏は「私はたくさん話したよ、サイファーパンクスのメーリングリストで」と回答。あたかも自分がその発言元であるかのような反応だったとキャリルー氏は分析している。
証拠はあくまで状況証拠であるため、決定的な証明にはサトシ自身によるコインの移動が必要だとキャリルー氏は結論付けた。だが、17年間謎に包まれてきたサトシの正体について、同氏は「正しい人物を見つけたと確信している」と自信をのぞかせている。
記事公開後にバック氏がXで声明、類似点は「同じ関心を持つ人々の偶然」
記事公開と同日、バック氏は公式Xを通じて「私はサトシではない」と改めて疑惑を否定した。同氏は文章の類似点が多く見つかった点について、「メーリングリストで積極的に発言していたため、他の人より頻繁にコメントが見つかるのは当然。確証バイアスを統計的に補正すべきだ」と反論している。
その他の共通点については、「偶然と似た経験や関心を持つ人々に共通するフレーズの組み合わせだ」と主張。加えて、バック氏は「サトシが誰かは私も知らない。ビットコインが新しい資産クラスとして見られるためには、匿名のままであることが良いと思う」と述べ、サトシの正体をめぐる議論に一定の距離を置く姿勢を見せた。
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