現代のビジネス環境は絶えず変化し、その波に乗るためには先見性と深い洞察が求められます。今回は、経済、金融や投資分野などをご研究されている名古屋市立大学 大学院経済学研究科准教授 坂和秀晃 氏に、現在の市場動向や企業評価のアドバイスなどについて、専門的な見地からお話を伺いました。
特に、市場動向の変化、企業競争力の評価、新興市場やテクノロジーの進化、社会的責任と環境への配慮、そしてデータ分析と人工知能の影響、これらのキーワードにスポットライトを当て、皆さんと一緒に未来のビジネス環境における新たな視点や成功の手がかりを探ってみたいと思います。
取材にご協力頂いた方
坂和 秀晃氏
坂和 秀晃(さかわ ひであき)
東京大学経済学部卒業後、大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程を修了。
2009年名古屋市立大学大学院経済学研究科・講師、2011~2012年テンプル大学Fox School of Business 客員研究員、2017~2018年コロンビア大学日本経済経営研究所にフルブライト客員研究員を経験して、現在は、名古屋市立大学大学院経済学研究科准教授。Asian Finance AssociationのBoard of Directors並びに日米教育交流振興財団の評議員などを務める。
目次
市場動向の変化とその影響について
ー 現在の市場動向についてどのような変化を感じていますか?また、それが企業にどのような影響を与えているとお考えですか?
坂和准教授 :現在の市場動向全体としては、混乱・変化期にあると考えています。直近の動きとして、2020年-2023年迄のコロナ渦による実体経済への悪影響に伴う混乱の影響は非常に大きかったと思います。
ロックダウンなどの前代未聞の処置が世界各国で成されたことで、グローバルなレベルでの「ヒト」・「モノ」の移動ができなくなりました。国連世界観光機関(UNWTO)の2021年の調査によれば、ツアーリズム業界では、世界全体での観光業界の需要は、74%減少したことが明らかにされており、「ヒト」・「モノ」の移動を必須とする業界を中心に大きな被害をもたらしました。コロナ渦の回復軌道に乗る中で、2022年には、ロシアのウクライナ侵攻が起き、エネルギー価格の高騰などを始めとする様々な影響を与えています。このような様々な世界全体の混乱の影響はまだまだ大きいと思います。
上述の混乱に加えて、社会の「持続可能性」のために、2030年迄のSDGs目標が定められ、企業にもその為の様々な投資が求められています。自動車業界では、「脱炭素化社会」を目指し、自動車業界のEV開発が加速しています。あるいは、不動産業界でも、省エネ性能を高めたグリーン住宅の開発なども加速しています。このように、社会の変化に合わせて、企業も変化が求められる時代かと思います。
その意味では、長期的には、混乱を徐々に脱して、企業のビジネスも大きく変化する局面であると思います。
企業競争力の評価における重要な要因と成功へのアドバイス
ー ある企業の競争力を評価する際の最も重要な要因にはどういったことが挙げられますか?また、それらの視点に基づいて、投資家やビジネスリーダーが将来の成功を手中に収めるために役立つアドバイスはありますか?
坂和准教授 :企業の競争力を考える際には、「競争的な環境の中で、どのように当該企業が他社との競争を優位にするか?」という点を評価することが必要になります。競争的な環境にいる企業は、顧客に対して、価格・品質・デザインなどの面で、競合他社よりも有利な条件での商品・サービスを提供することで、売上を高めて、マーケットシェアを高めることが可能になります。その意味では、現在の企業の競争力を考えるためには、企業のマーケットシェアが同業他社より高ければ競争力が高いといえると思います。
但し、技術革新の激しい現代社会においては、マーケットシェアを維持することは困難です将来の技術革新に備えた研究開発投資などに十分な予算をかけていない企業は、技術革新の流れに取り残され、将来的にはマーケットシェアを落とす可能性もあります。その意味で、投資家やビジネスリーダーは、企業の競争力を考える際に、現在のマーケットシェアと将来に向けた研究開発投資などの両面に注目することが重要と考えます。
進化する新興市場とテクノロジーが企業に与える影響
ー 人工知能(AI)の進化やフィンテックの台頭など、新興市場やテクノロジーの進化が著しい昨今、これらが従来企業にどのような影響を与えているとお考えですか?
坂和准教授 :人口知能(AI)の進化やフィンテックの台頭などは、社会の変化を大きく促しています。従来型の社会が進化するとともに、社会全体に膨大な情報(データ)が蓄積されるようになっています。データ量が増大すればするほど、AIを活用したデータ分析がより正確に、高い精度で行える環境となっています。AIは、与えられたデータを元に学習を行い、データの規則性などを学習する機械学習といわれる手法を用いて、より精度の高い予測を行うことが可能になりつつあります。従って、従来企業は、顧客データ・売上データの分析に関して、AIを活用することで、広告・マーケティング戦略などに活用するように変わりつつあります。
フィンテックに関しては、従来型の銀行の規模が大きい日本では、導入が、遅れているとされてきましたが、徐々に普及をはじめています。Apple Payやペイペイなどを用いたキャッシュレス決済などは、多くの人がスマートフォンを用いて日常生活で利用するようになりつつあります。銀行のATMで送金する代わりに、ペイペイを用いて個人間で送金したり、海外送金にPayPalを使用する場面なども増えつつあります。一方で、このようなフィンテックのサービスの普及に伴い、従来の銀行の支店・ATMが減少しつつあります。したがって、今後はフィンテックの普及が更に進むことが予想されます。
企業の社会的責任と環境への配慮がビジネスに与える影響
ー 企業の社会的責任(CSR)や環境への配慮がビジネスに与える影響について、ご見解をお聞かせください。また、これらの要素が企業評価や投資判断にどの程度影響を与えるとお考えですか?
坂和准教授 :社会の「持続可能性」の問題が大きくクローズアップされる現代社会では、そのような問題に取り組むためのSDGsの取り組みが重視されるようになっています。当然、「持続可能性」の問題に取り組むためには、企業を含む社会全体の取り組みが必要になります。
そのような社会的背景の下では、企業の社会的責任(CSR)に基づく活動が重視され、環境への配慮を行ったビジネスモデルが求められるようになっています。特に、海外の投資家(モノ言う株主)からは、CSR活動などの企業別の情報開示を求める声が大きくなっています。すなわち、従来の財務情報のみにより投資判断を行うのではなく、環境投資などを含む非財務情報を使った投資が増えることが予想されます。
これからの社会では、環境投資などのCSR活動に積極的な企業の株式に対する投資が増え、結果としてそれらの企業の発行する株式の評価が高まることが予想されます。
データ分析と人工知能の活用がビジネスや教育にもたらしている影響
ー 急速にデジタル変革が進む中、企業や教育機関はどのようにデータ分析や人工知能を活用していますか?また、これらの先進技術の導入が教育や研究に与えている影響についてご見解をお聞かせください。
坂和准教授 :教育機関におけるデータ分析の活用の機会は、確実に増えてきていると思います。経済学系・あるいは経営学系の学問領域では、私が学生・大学院生だった時代には、まだまだ「紙と鉛筆」で理論モデルを構築する研究・教育が主流だったように思います。2000年代初頭は、金融関連のデータに関しては、Bloomberg端末を使用するような証券会社の一部のトレーダー・アナリストなどが使用するイメージでしたが、2010年以降では、Bloomberg端末と同様のデータ取得が可能な日経新聞社グループのQuick社が提供するAstra Managerなども大学での教育・研究に多く使用されるように変わりつつあります。したがって、日本の大学における研究・教育においては、上場企業全部のデータを使用した分析などが非常に増えてきている印象です。
人口知能を使用した研究という意味では、たとえば過去(1990-2010年等)の株式市場のデータ(情報)だけを用いて、より直近の株式市場の情報(2011-2020年)などを予想して、人工知能による予測精度を検証するといった研究なども増えてきています。かつてのデータ分析と同様におそらく、経済学・経営学系の教育現場にも人工知能が活用されるような変化が近い将来に起こるかもしれないとは感じています。
ー 本日は貴重なご見解ありがとうございました。