青汁王子、上場企業のクリプト事業室長に就任──エス・サイエンスが東証で挑む「ポスト資本主義」

木本 隆義
12 Min Read
三崎優太氏、インスタグラムより引用

エス・サイエンスが仮想通貨事業に本格参入──青汁王子の影響力に期待

リフォーム事業を主力とする「株式会社エス・サイエンス」は24日、「クリプトアセット事業開発担当室」を新設し、青汁王子こと三崎優太氏を同室の室長に任命すると発表した。

まず、株式会社エス・サイエンスについて触れたい。1946年創業の企業で、もともとはニッケル加工業を中心に展開していたが、現在では不動産や教育、リフォームなどへと多角化を進めており、直近ではリフォームセグメントが売上の中心を占めている。そんな企業が今年3月、クリプトアセット投資事業への参入を正式に決定し、ビットコインを財務戦略の一環として保有する方針を示した。

そこに登場したのが青汁王子こと三崎優太だ。脱税からの更生を経て、インフルエンサーへと転身し、現在ではX(旧Twitter)で毎日ポエムを投稿している人物である。その彼が、「クリプトアセット事業開発担当室長」に就任したという。これはきわめて香ばしい。新時代の“インフルエンサー資本主義”が、東証の片隅で泡立ち始めた格好である。

この人事の名目は、「暗号資産(仮想通貨)を活用した社会的意義のある事業創出」とされている。表面的にはもっともらしいが、冷静に読み解けば、「上場企業の看板を利用し、トークン経済圏を築いて、知名度を活かした評価益を得ようとする構想」に他ならない。

IR資料(2025年3月17日付)を確認すると、会社側の説明もあいまいである。「Web3分野に注力」や、「DeFiやNFTの活用」などのバズワードが散見され、まるで”バズワード・ビンゴ”の様相である。たとえば「新しい価値交換システムの構築」という文言は、翻訳すれば「まだ何も決まっていません」と解釈すべきである。中身はほとんど白紙に等しい。

がしかし、この動きには注目すべき点もある。青汁王子のフォロワー数(100万人超)は、同社の財務規模(純資産ベースで約30億円)を軽く上回るインパクトを持っている。これはつまり、「逆MBO」ではなく、“インフルエンサーによる経営乗っ取り型バズファイナンス”に該当する。彼が手に入れたのは仮想通貨取引所でもブロックチェーン企業でもなく、「上場企業という器」なのである。これはきわめて重要な構図であり、既存のルートを飛び越えて、金融レイヤーに“裏口”から参入する手法といえる。

本件は、営利企業が「注目されること」に重きを置く新秩序が透けて見える。言い換えれば、ファンダメンタルよりファンの力を頼りとする、資本市場のTwitch化が進行している状況である。当然、そこには大きなリスクが存在する。単に話題になっただけでは企業価値は上がらない。中長期的視点で見れば、「社会的意義」という言葉に具体的な中身を与えなければ、株価は結局元の水準に戻る運命にある。規制当局の視線も意識せざるを得ないだろう。何より市場は、ときに冷酷である。「ポエムで帳簿は埋まらない」のである。

東証という制度の中にも、ついに「SNS資本主義」(アテンション・エコノミー)が食い込んできた。上場企業という器を使い、個人ブランドが事業を“ハック”していく新しいスタイルの誕生である。この動きを目の当たりにすれば、既存のVCや証券会社が頭を抱えるのも当然である。“資金調達”と“信頼”という概念が、いま根底から書き換えられようとしている。

最後に一言でまとめるならば——
これは青汁でもビットコインでもなく、東証で始まる「ポスト資本主義」のプロローグである。

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フリーエコノミスト。仮想通貨歴は9年。Liskで大損、BTCで爆益。タイの古都スコータイで、海外進出のための市場調査・戦略立案・翻訳の会社を経営。1973年生。東海中高、慶大商卒、NUCB-MBA修了。主著『マウンティングの経済学』。来タイ12年。
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