新興ステーブルコインはなぜ淘汰されるのか?
暗号資産(仮想通貨)取引所「BitMEX(ビットメックス)」の共同創業者であるアーサー・ヘイズ氏が、ステーブルコイン市場の現状と将来について自身の見解を示した。17日に公開されたコラムの中で同氏は、「ステーブルコイン市場が現在『Tether(テザー)』によって実質的に支配されており、新興ステーブルコイン発行体にとって流通チャネルの確保が最大の課題になる」と指摘している。
ヘイズ氏はコラム内で、かつての仮想通貨市場は銀行との連携が乏しく、直接法定通貨を取引所へ送金することが困難だったと語っている。そのため、送金業者や偽名義口座などを介する必要があり、詐欺リスクが高かったと指摘。その一方で、中国や香港といった中華圏ではローカル銀行を活用した資金移動が可能であったため、個人投資家による裁量取引が比較的活発であったとヘイズ氏は強調している。
こうした背景の中、2015年に仮想通貨取引所「Bitfinex(ビットフィネックス)」とテザーが連携し、ビットコインチェーン上で米ドルに連動するUSDTを開発。ICOブームやイーサリアム(ETH)の普及を追い風に複数の取引所でUSDT建ての通貨ペアが拡大し、ステーブルコイン市場においてテザーの優位性が確立されたとヘイズ氏は語った。加えて、インターネット接続さえあれば誰でもドルにアクセスできるという点が、米国との金融接続が制限されていた中国圏やその他新興国のユーザーにとって大きな魅力だったとも説明している。
現在、テザーはそのグローバルな流通網を背景に、ステーブルコインとして市場での圧倒的な地位を築いている。同社はユーザーへの利息支払いが不要であること、流通コストの低さなども相まって高い収益性を維持。テザーはまさに少人数で巨額の利益を上げる「オンチェーン銀行」と化していると言えるだろう。
仮想通貨取引所だけでなく、ソーシャルメディア企業や伝統的な銀行などもステーブルコイン市場に参入を図る中で、ヘイズ氏は「流通チャネルの確保こそが成功の鍵」と強調。ただし、新興のステーブルコイン発行体は自前の流通網を持たないため、ユーザーを惹きつけるには預金金利を高めざるを得ない。結果として収益が圧迫され、破産リスクが高まると同氏は指摘している。
テザー vs サークルの構図にも言及
テザーとシェアを争う「Circle(サークル)」もステーブルコイン市場では大手であるものの、同社は米国企業であり、中国市場との接点が薄いため流通において不利な立場にあるとヘイズ氏は分析している。加えて、同社は仮想通貨取引所「Coinbase(コインベース)」と提携し、その流通チャネルの利用と引き換えとして純金利収入の50%を支払っている点を指摘。テザーと比較しても、流通チャネルの確保に多額のコストが必要な点がネックとなっている。
また、ヘイズ氏はコインベースとの収益配分を考えても、サークルの現在の企業価値は過大評価されていると指摘。しかしその一方で、将来的なステーブルコイン市場ブームの可能性を踏まえ、同社株を空売りすることには慎重であるべきだと投資家に対して警鐘を鳴らしている。
ヘイズ氏はコラムの締めくくりで、「新規ステーブルコイン事業者にとっては実質市場の流通チャネルが閉ざされており、将来性が見込めない」と断言。この厳しい見方は、過熱する市場への新規参入が流通チャネルという課題を乗り越えることがいかに困難であるかを明確に示唆している。
ステーブルコインならではの収益モデルは、市場に新規参入者を呼び込む大きな魅力と言える。しかし、その果実を手にするために、既存の巨大な流通チャネルを巡る壮絶な争いが新規参入者を待ち受けていることも事実だ。この高い壁を乗り越えて市場シェアを獲得できる新規参入者が果たして現れるのか、今後の市場動向に注目したい。
関連:アーサー・ヘイズ「政府は止まらない」継続的な支出を背景にビットコイン購入を促す
関連:米関税の違法判決にアーサー・ヘイズが強気発言「第2ラウンド、全部買え」