明確な規制枠組みの整備を最優先課題に
米国上院は9日、ポール・アトキンス氏を米国証券取引委員会(SEC)の新議長として承認した。投票結果は52対44で、ほぼ共和党の支持により可決された。
前任のゲイリー・ゲンスラー氏は、ESG情報開示や暗号資産(仮想通貨)への厳格な規制を推し進めてきたが、トランプ政権下の潮流と共に、SECの方向性にも大きな転換が訪れようとしている。
アトキンス氏は2002年から2008年にかけてSEC委員を務めた経験を持ち、その後は金融業界に特化したコンサルティング会社を設立。銀行、投資ファンド、さらには仮想通貨取引所やDeFiプラットフォームとも関係を築いてきた。市場原理を重視し、最小限の規制を信条とする姿勢は、ゲンスラー氏とは対極にある。
上院での承認審議では、アトキンス氏の過去のコンサルティング業務が議論を呼んだ。特に民主党のエリザベス・ウォーレン議員は、同氏の過去の業務が利害関係の衝突にあたるのではないかと追及。本人は議長就任後、会社を辞任し、持ち株も売却するとしているが、不信感は拭いきれていない。
さらに2008年の金融危機前にアトキンス氏が投資銀行のレバレッジ規制緩和に賛成した過去も蒸し返されている。「また同じ過ちを繰り返すつもりか?」という声に対し、本人は「危機には複合的な要因があった」と反論している。
今後、SECはゲンスラー時代に導入された各種規制の見直しに着手するとみられる。特に気候変動関連の情報開示規則については、「政治的な色合いが強い」との批判から、撤回や修正が予想される。また、違法行為の取り締まり方針も変化し、グレーゾーンの摘発よりも、インサイダー取引や株価操作など伝統的な不正に焦点を当てる可能性が高い。
アトキンス氏は企業への高額な罰金にも慎重な姿勢を見せており、資本市場の活性化を優先する方針だ。IPOに関する規制の緩和や、株主提案ルールの見直しなども進める意向を示しており、その背後には「少数派の意見が企業の足を引っ張るべきではない」との考えがある。
仮想通貨分野へのアプローチも注目される。アトキンス氏は、明確な規制枠組みの整備を最優先課題に掲げており、業界からは歓迎の声が上がる一方、投資家保護の観点から慎重な意見も根強い。対話を重視する姿勢は、これまでの取り締まり主義とは異なり、建設的な方向へ進む兆しともいえる。
アトキンス氏就任前から議長代行を務めていたマーク・ウエダ氏も規制緩和路線を推進しており、両者の連携によりSECの政策は今後さらに大きく転換する可能性がある。ただし、職員の早期退職が相次ぎ、法務や執行部門の体制が弱体化する懸念もある。規制を緩めつつも、監視能力を維持できるか正念場だ。
SECの新体制が、自由な市場の推進と投資家保護のバランスをいかに取っていくのか。特に仮想通貨という新領域でのルール整備に注目が集まっている。アトキンス氏の就任は、今後の金融行政にとってきわめて重要な節目となるだろう。