なぜ今Deribit?買収に至った背景とその意味
米暗号資産(仮想通貨)取引所「Coinbase(コインベース)」8日、仮想通貨のオプション取引に特化したデリバティブ取引所Deribit(デリビット)を約29億ドル(約4,190億円)で買収する契約を締結したと発表した。この買収は、現金7億ドルとコインベースのクラスA普通株1,100万株を対価とする総額29億ドルの条件で行われる予定で、規制当局の承認などを経て2025年末までの完了を目指している。
デリビットは2016年に設立され、現在はドバイに本社を構える仮想通貨デリバティブ取引所で、特にビットコイン(BTC)およびイーサリアム(ETH)のオプションおよび先物取引において世界最大級のシェアを誇っている。2024年の年間取引量は1兆ドル(約144兆円)を超え、約300億ドル(約4.3兆円)の未決済建玉(オープンインタレスト)を有する。顧客の多くは米国外の機関投資家および上級トレーダーであり、プロフェッショナル向けのプラットフォームとして高い評価を得ている。
コインベースは、これまでに現物取引、規制された先物取引、無期限先物などを展開してきたが、今回の買収により、オプション取引分野にも本格的に参入することになる。これにより、現物、先物、無期限先物、オプションを一体的に提供する総合的な仮想通貨デリバティブプラットフォームを確立する狙いだ。ユーザーは単一のプラットフォーム上で多様な商品にアクセス可能となり、より高度で資本効率の高い取引が実現するとされている。
コインベースのグレッグ・トゥサー副社長は、「デリビットの買収により、当社は世界で最も包括的な仮想通貨デリバティブ・プラットフォームを構築することができる」とコメントしており、機関投資家へのサービス強化を重要な戦略と位置づけている。一方、デリビットのCEOであるルーク・ストライヤーズ氏も、「コインベースとの統合により、グローバル市場におけるデリバティブ取引の未来を切り拓く」と述べ、買収の意義を強調した。
また、コインベースはデリビットの安定した利益構造が今後の収益多様化や収益性の向上に寄与すると見込んでおり、特にオプション取引の収益は現物取引と比較して景気変動に左右されにくい点を評価している。
仮想通貨業界が成熟する中、デリバティブ市場の整備と拡大は避けて通れない潮流である。コインベースによるデリビットの買収は、規模の拡大だけでなく、機関投資家に対するサービスの強化という観点でも意義深い動きといえる。グローバルな規制環境の変化にも柔軟に対応しつつ、信頼性と利便性を両立する統合型プラットフォームの構築が、今後の市場成長において鍵を握るだろう。
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※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=144.55円)