銀行口座を持たない層への金融サービスを拡充
世界最大のステーブルコインUSDTの発行元である「Tether(テザー)」は3日、チリを拠点とする暗号資産(仮想通貨)取引所かつ金融インフラ企業の「Orionx(オリオンX)」に対して戦略的投資を行ったと発表した。投資額は非公表。
オリオンXは、チリ、ペルー、コロンビア、メキシコの4カ国で事業を展開し、仮想通貨をB2Bおよび小売業向けのシステムに統合することで、コスト効率の高い金融ツールを提供している。今回の資金により、同社は地域内での事業統合、技術力の向上、ステーブルコインを活用した送金や決済、財務管理のインフラ拡充を進める。
中南米(LATAM)地域では、仮想通貨の導入が急速に進んでいる。ブロックチェーン分析会社「Chainalysis(チェイナリシス)」の調査によると、2023年7月から2024年6月にかけて、同地域では約4,150億ドル(約59兆円)相当の仮想通貨が取引されており、このうち多くは、ブラジルやアルゼンチンなどでのステーブルコインを使った送金が占めていた。
アルゼンチンにおける通貨の急激な価値下落、インフレの加速、政府債務の増加といった経済不安が、個人および機関投資家によるステーブルコイン利用の拡大を促している。
一方で、同地域には依然として世界で2番目に高い割合の「銀行口座を持たない成人」が存在している。厳格な身分証明要件や金融機関へのアクセスの難しさ、高額な手数料などが、その要因として挙げられる。こうした状況下、ステーブルコインは、即時かつ低コストで安全に送金が可能な手段として注目されている。
テザーのCEO、パオロ・アルドイーノ氏は、「我々はステーブルコインを通じて、新興国に実用的な価値をもたらすチームや技術への投資を継続している。オリオンXへの出資により、金融サービスへのアクセスが制限されている地域社会に対し、ステーブルコインの力を届けるという我々のビジョンがさらに前進する」と述べた。
中南米のように、伝統的な金融インフラが十分に整備されていない地域においては、ステーブルコインのような新しい技術が実用的な解決策となる可能性がある。今回のテザーの投資は、単なる企業間の提携にとどまらず、金融包摂という社会的課題に取り組む具体的な一歩といえる。安定したデジタル通貨が、より多くの人々に金融アクセスをもたらすための橋渡しとなることが期待される。
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※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=143.69円)