国内の金融機関同士がリアルタイムで「要注意顧客」情報を共有
ロシアの経済メディア「RBC」は25日、ロシア中央銀行が犯罪行為に利用される疑わしい口座やカードを取り締まるため、新たな監視プラットフォームを開発中であると報じた。
このプラットフォームは、高リスクアカウントや「ドロップ」と呼ばれる不正口座を特定し、その情報を金融機関間で共有する。ロシア連邦金融監視サービス(Rosfinmonitoring)や主要な銀行、専門家と協力して構築が進められており、銀行口座開設時から疑わしい取引を阻止することが目標だ。
2023年には、個人名義の口座を利用した違法な現金引き出し額が約449億ルーブルに達しており、金融市場の透明性向上と一般利用者保護の両立が課題となっていた。当局は、新プラットフォームにより市場の違法行為を抑制し、国際的な暗号資産(仮想通貨)規制の潮流にも対応する方針だ。
ロシア中央銀行の新たな監視プラットフォーム
ロシア中央銀行の新プラットフォームは、AIによるデータ分析とリアルタイムモニタリングを組み合わせ、違法な取引を効率的に発見しようとするものだ。具体的には、リスクの高いアカウントを精査し、疑わしい取引を検出次第、早期にチェックや制限を行う仕組みを導入する。
- Rosfinmonitoring(ロシア連邦金融監視サービス)と連携
- 銀行間で疑わしい取引情報を共有
- 正当な取引が不当に阻害されないよう、紛争解決メカニズムを整備
ロシア国内での違法な現金引き出しが年間数百億ルーブル規模に達している現状を踏まえれば、こうした取締りの強化は必然といえる。
ドロップ口座への取り締まり強化
いわゆる「ドロップ(drops)」とは、犯罪組織や不正ビジネスに対し、第三者が自分名義の口座や銀行カードを貸与する行為を指す。
ドラッグやオンラインカジノ、海賊版サイト、さらには仮想通貨交換業者への送金にも利用されるため、ロシア中央銀行は新プラットフォームを活用して、これらの口座を事前にリストアップし、口座開設段階でブロックする方針を示している。国内の金融機関同士がリアルタイムで「要注意顧客」情報を共有し、違法行為を未然に防ぐ狙いである。
金融システムへの影響
1. 資金洗浄の難易度が上昇
AIを活用したリアルタイム監視は、マネーロンダリングの主要な手段として利用されてきた仮想通貨取引の動きを早期に把握する。これにより、既存の資金洗浄ルートを使った取引は一層困難になる。
2. 一般利用者へのリスク
無関係のユーザーが誤って「要注意顧客」と判定される懸念も否めない。銀行間の情報共有が進むほど、誤判定が複数の金融機関に波及する可能性があるため、紛争解決プロセスの実効性が今後の課題となろう。
3. 経済全体の透明性が高まる
違法取引を減らすことで金融システム全体の健全性が向上し、通貨への信頼性強化にもつながる。ロシア当局としては、この取り組みによって国内外からの信頼を確保し、経済的な安定性を高める大きなメリットが期待される。
4. 国際的な仮想通貨規制の潮流
欧米やアジアなど各国当局がKYC(本人確認)やAML(アンチマネーロンダリング)の枠組みを強化する流れが続くなか、ロシアも同様の姿勢を示すことで規制強化の動きに同調しているといる。仮想通貨利用の“自由”が拡大する一方で、違法取引への包囲網も着実に狭まっている。
留意すべきポイント
ロシアの監視プラットフォームは、仮想通貨取引の透明性向上に寄与する一方、一般投資家にとっては誤判定などの新たなリスクも生み出しかねない。仮想通貨の利用をめぐる規制強化は世界的な潮流であり、今後も多方面で包囲網が狭まっていくと考えられる。
「取引の透明性」と「イノベーション」のバランスをどのように保つかは、各国当局および利用者の双方にとって、なお慎重な検討が必要となるであろう。
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