世界で1億人以上が利用する暗号資産(仮想通貨)ウォレット「MetaMask(メタマスク)」は6日、新たにレイヤー1ブロックチェーンである「Sei(セイ)」のネイティブサポートを開始したと発表した。
利便性向上とユーザー維持を狙う戦略的統合
これにより、世界中のメタマスクユーザーは、なじみ深い自身のウォレットから、煩雑な手動設定を経ることなく、Seiエコシステム上のアプリケーションや資産へ直接アクセスできるようになった。
今回の統合は、単に対応チェーンが一つ増えたという以上の意味を持つ。これまでSei上のサービスを利用するには、専用ウォレットの導入やネットワーク情報の煩雑な手入力が必要であった。だが、今回の提携によって、ユーザーはメタマスク内でSei基盤のトークンのスワップやブリッジ、さらにはクレジットカードを用いた直接購入まで完結できるようになった。たとえるなら、新興都市であったSeiと、世界中を結ぶ巨大ハブ空港であるメタマスクの間に、直行便が就航したようなものだ。
では、なぜメタマスクはこのタイミングで、他ならぬSeiとの連携に踏み切ったのか。その鍵を握るのが、Seiが標榜する「並列処理(Parallelization)」という技術である。
従来の多くのブロックチェーンは、トランザクションを一つずつ順番に処理する「逐次処理」モデルを採用している。これは、取引の順序を保証し、ネットワークの安全性を保つための確実な方法ではある。しかし、その一方で、交通量の多い一本道のように、取引が殺到すると深刻な渋滞、すなわち処理遅延や手数料高騰を引き起こすという根本的な弱点を抱えていた。
これに対し、Seiの「並列処理」は、いわば高速道路の車線を一気に増やすようなアプローチだ。互いに無関係なトランザクションをシステムが自動で判別し、それらを同時に並行して処理するのである。もちろん、同じ資産を奪い合うような競合する取引が起きた場合は、それらだけを従来通り順番に処理することで、データの整合性は保たれる。この「楽観的並列処理」と呼ばれる仕組みによって、Seiはネットワーク全体の処理能力を劇的に向上させている。
そして、この高速処理能力と、Ethereum(イーサリアム)との互換性(EVM互換性)を両立させている点が、Seiを特異な存在たらしめている。開発者は、世界最大のスマートコントラクトプラットフォームであるイーサリアムで培われた既存のコードや開発ツールを、ほぼそのままSei上で利用できる。これは、開発者コミュニティにとってきわめて魅力的な提案だ。
巨大ウォレットであるメタマスクにとって、今回の統合は、Seiを使いたいというニーズに応えることで、ユーザーを自社エコシステム内にとどめておくための戦略的な一手といえる。一方でSeiにとっては、メタマスクが抱える圧倒的な数のユーザーに直接リーチするまたとない機会であり、エコシステムの飛躍的な拡大が期待される。
今回の提携は、単なる技術的な統合に留まるものではない。処理能力の限界という壁に挑むブロックチェーン技術の進化と、ユーザー体験を最優先するマルチチェーン時代の本格的な到来を告げる、象徴的な出来事だ。両者がこの提携を足がかりに、どのような未来を描いていくのか? 仮想通貨市場は、新展開に期待している。
関連:カナリー・キャピタル、ステーキング対応型Sei現物ETFを米SECに申請
関連:Sei(セイ)財団、米国に新拠点設立へ──暗号資産普及に向け「Sei Development Foundation」に資金提供