米SEC、ヘリウム(HNT)開発企業ノヴァラボを提訴|未登録証券提供の疑い

木本 隆義
14 Min Read

「風船割れ」のヘリウムプロジェクト

米国証券取引委員会(SEC)は17日、「Helium Network(ヘリウムネットワーク)」の開発元である「Nova Labs(ノヴァラボ)」を、未登録の暗号資産(仮想通貨)証券を提供したとして提訴した。

SECが問題視しているのは、ノヴァラボによる未登録証券の販売行為だ。同社は「Hotspot(ホットスポット)」と呼ばれる装置を投資家に販売し、これを使って仮想通貨をマイニングさせるしくみを構築していた。また、マーケティングの一環として「Nestlé(ネスレ)」「Salesforce(セールスフォース)」「Lime(ライム)」などの大企業との提携を示唆し、投資家を引き寄せた疑いも浮上している。実際には、これらの企業はヘリウムネットワークを利用していなかったことが明らかになっており、ネスレとライムはノヴァラボに対して“CEASE&DESIST(停止と中止)”の警告状を突き付けた。

本件は「大企業との提携をほのめかしつつ投資資金を得ようとすれば、当然SECは怒る」という素朴な構図だ。虚偽または誤解を招く顧客・パートナーシップの表明は、米証券法の観点からみれば詐欺行為と見なされやすい。特に仮想通貨業界では「未登録証券に該当するかどうか」が常につきまとい、不備を突かれれば深刻なダメージを受ける。

ヘリウム・ネットワークは、「IoT機器やスマートフォンなどを世界中のユーザーが設置するホットスポットでつなぎ、分散型ネットワークを作る」ことを目指すプロジェクトである。ホットスポットを設置した参加者はトークンをマイニングして報酬を得る仕組みで、従来はHelium Network Token(ヘリウム・ネットワーク・トークン:HNT)が中心的な役割を担ってきた。その後、「IOT」や「MOBILE」といった追加トークンが導入され、個人データを提供することでトークンを得られる「Discovery Mapping Program(ディスカバリーマッピングプログラム)」も始まるなど、プロジェクトは進化を重ねている。

当初の構想では、「小型基地局(ホットスポット)を多数配置すれば、安価かつ分散型のIoTやモバイル通信網が形成され、企業にもメリットがあり、設置者はトークンで利益を得る」という青写真が描かれていた。だが、今回の提訴をきっかけに明るみに出たのは、肝心の大企業が実際にはネットワークを使っていなかったという点である。これがSECの訴状で“ヘリウム爆弾”として取り上げられた。

SECにとっては、  

  • 投資家が「これは証券ではないか?」と疑うトークンを放置できない 
  • 誤認を与えるマーケティングは根こそぎ取り締まる  
  • 虚偽のパートナーシップで資金を集める行為は悪質

という、界隈では「またかよ‥」な論点が繰り返されている。「イノベーションを否定するつもりはないが、やり方を誤れば容赦しない」という姿勢で、ヘリウムも標的にされた格好だ。

今回の訴訟タイミングには複数の要因が重なっていると考えられる。2025年現在、米国内では仮想通貨規制の方向性が未だ明確に定まらず、SECはRipple(リップル)事件やCoinbase(コインベース)訴訟などでの争点を他のプロジェクトにも拡大適用する意図を持っている可能性がある。その一環として、未登録証券の疑いがある仮想通貨プロジェクトもまとめて取り締まりたいという意図があると推察される。また、ヘリウムは「実需がありそうな」プロジェクトとして注目を集めていたため、象徴的なターゲットとなった可能性も否定できない。さらに、SECのゲンスラー委員長の退任が迫る中で、「最後の大仕事」という意図もあるのではないだろうか。

今後も仮想通貨関連には規制強化の波が押し寄せるだろう。ヘリウムに限らず、草の根的に盛り上がったプロジェクトが「規制当局のメス」によって断罪される事例は珍しくない。一方で、イノベーションそのものを完全に阻むつもりではないだろう。政治的状況が変化すればSECのスタンスに修正が入り、新たな落としどころが形成されるかもしれない。

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フリーエコノミスト。仮想通貨歴は9年。Liskで大損、BTCで爆益。タイの古都スコータイで、海外進出のための市場調査・戦略立案・翻訳の会社を経営。1973年生。東海中高、慶大商卒、NUCB-MBA修了。主著『マウンティングの経済学』。来タイ12年。
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