ワシントン州スポケーン市、仮想通貨ATMを禁止──詐欺多発受け全会一致

木本 隆義
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画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

仮想通貨ATM悪用の詐欺、全米で56億ドル超

米ワシントン州東部に位置するスポケーン市・市議会は17日、月曜日の定例議会において、条例C36704、通称「より安全なスポケーンのための仮想通貨キオスク禁止条例(Virtual Currency Kiosk Prohibition for a Safer Spokane)」を審議し、全会一致で可決した。この条例は、スポケーン市刑法典の第10編に、新たに「仮想通貨(Virtual Currency)」と題された第10.90章を追加するもの。これにより、市域内での暗号資産(仮想通貨)キオスクの設置および運営が事実上、禁止されることとなった。

この条例案を、ベッツィ・ウィルカーソン市議会議長と共に主導したポール・ディロン市議会議員は、その意義を次のように語る。「この条例は、仮想通貨キオスクが絡む詐欺から、立場の弱いスポケーン市民を守るものだ。我われが州内で最初にこの法案を推し進めたことを誇りに思う。」彼の言葉からは、今回の決定が単なる規制強化ではなく、市民の財産と安全を守るための積極的な一歩であることがうかがえる。

その背景には、詐欺師が被害者を騙すためのツールとして、これらのキオスク端末が悪用されるケースが継続的に増えているという深刻な現実がある。ディロン議員は続けて、「これらのキオスクは、何も知らない被害者を詐欺にかける上で、詐欺師たちに好まれる道具となってしまった。この問題への認識を高める上でリーダーシップを発揮し、注意喚起に努めてくれたシュウェリング刑事には感謝したい」と述べ、法執行機関との連携の重要性を強調した。

事実、スポケーン市では仮想通貨キオスクに関連した詐欺被害が増加の一途をたどっており、けっして少なくない市民が、数千ドル単位の被害に遭い続けていた。この問題はスポケーン市に限った話ではない。FBI(連邦捜査局)が2023年に発表した報告書によれば、米国全土における仮想通貨キオスクを悪用した詐欺による損失額は、実に約56億ドルもの数字に達している。そして、ワシントン州だけでも、その被害額は1億4,175万6,936ドルに上る。

スポケーン市警察のティム・シュウェリング刑事は、現場の厳しい実情を次のように証言する。「残念なことに、私たちのコミュニティの多くの人々が、この増え続ける問題の犠牲者となっている。中には、生涯をかけて貯めた資産を失った人もいる。」彼の言葉は、被害が単なる金銭的な損失にとどまらず、人々の人生そのものを破壊しかねない深刻なものであることを物語っている。「これはスポケーン市民を守るための、きわめて重要な第一歩だ」と、シュウェリング刑事は条例の成立を評価した。

これまでスポケーン市警察は、仮想通貨およびキオスク端末に関連する犯罪の追跡と捜査を続けてきた。今後は、今回の条例が仮想通貨キオスク関連の犯罪報告件数に定量的な影響を与えることができたかどうかについて、定期的に報告が行われることが期待されている。

仮想通貨がもたらす技術革新の光の裏で、その匿名性や国際性を悪用した犯罪は後を絶たない。今回のスポケーン市の決断は、ハイテクを利用した詐欺に対する地方自治体による、断固たる意志表示である。この先駆的な取り組みが、同様の問題に直面する他の都市にとって、有効なモデルケースとなり得るのか? その真価が問われるのは、これからである。

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リージョナルスペシャリスト(SEA)。仮想通貨歴は10年。Liskで大損、BTCで爆益。タイの古都スコータイで、海外進出のための市場調査・戦略立案・翻訳の会社を経営。『月刊くたばれMBA』編集長。1973年生。東海中高、慶大商卒、NUCB-MBA修了。来タイ13年。
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