米国の銀行業界団体である全米コミュニティ銀行協会(ICBA)は3日、米国通貨監督庁(OCC)に対し、コインベースが申請しているCoinbase National Trust Company(CNTC)の連邦信託銀行認可に強く反対する書簡を提出した。
トランプ派が主導するOCCと真っ向から対立か
OCCは、民間銀行や金融機関の監督を行う米国政府機関である。ドナルド・トランプ大統領によって任命された同庁の長官、ジョナサン・グールド氏は、過去に暗号資産(仮想通貨)企業で法務責任者を務めた経歴を持つ。トランプ政権下における暗号資産産業推進派メンバーの一人と言えるだろう。
そんなOCCに対し、既存金融機関の業界団体であるICBAが、コインベースの銀行事業への進出に反対意見を表明したのが、今回の書簡である。
ICBAは、コインベースの申請がOCCの認可基準を満たしておらず、複数の「失格事由」に該当すると主張している。
1. 欠陥のあるリスク管理とガバナンス
書簡は、CNTCがコインベース本社の「明白な欠陥のあるリスク管理および統制機能」に依存する計画であると指摘。その証拠として、ニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)による2023年のAML(マネーロンダリング対策)違反に関する同意命令や、2025年7月のコネチカット州銀行局による無認可送金に関する同意命令、さらに2025年5月に発生した重大なサイバーセキュリティインシデントなど、コインベースが近年繰り返しているコンプライアンスと運用上の失敗を列挙した。
さらに、提案されているCNTCの経営陣がすべてコインベースの幹部との兼任であり、取締役会7名のうち独立性が確保されているのは3名のみである点を問題視。独立した監視機能が欠如していると批判した。
2. 持続不可能な収益モデル
ICBAは、CNTCのビジネスモデルがデジタル資産のカストディ(保管)業務に「著しく集中」しており、財政的に持続不可能であると主張している。
暗号資産の弱気市場においては、カストディ資産の価値が減少し、CNTCの収益が圧迫される。同時に、親会社であるコインベースの収益も同じ市場環境下で減少するため、CNTCが最も財政支援を必要とするまさにその時に、親会社が支援を提供する能力を失っている可能性が高いと指摘した。
3. 未テストの管財フレームワークとシステミック・リスク
ICBAは、CNTCのような大規模な非保険(預金保険対象外)機関が破綻した場合、OCCの管財(破綻処理)フレームワークが「未テスト」であることに深刻な懸念を示した。
コインベースは過去の四半期報告書で、米国のビットコインおよびイーサリアムETF資産の80%以上の主要カストディアンであると報告している。ICBAは、もしCNTCがその役割を担う場合、その破綻は「市場の混乱、償還の波及、デジタル資産市場全体への伝染を引き起こす可能性がある」と警告した。
また、オムニバスウォレット(複数の顧客資産をまとめて保管するウォレット)やMPC(マルチパーティ計算)暗号システムといった暗号資産カストディ特有の技術的複雑性が、破綻処理の際に顧客資産を特定し、秩序だって返還することを困難にすると主張した。
手続きの透明性や審査の在り方も指摘
ICBAは上記の3点に加え、申請の前提となる法的解釈そのものにも問題があると指摘している。
コインベースの申請は、信託銀行がカストディのような「非受託(non-fiduciary)」業務を行うことを認めたOCCの2021年の「解釈書簡1176(IL 1176)」に基づいているとみられる。しかしICBAは、このIL 1176が、行政手続法(APA)に定められた適切なパブリックコメント(意見公募)の手続きを経ずに発行されたため、「法的に有効ではない」と主張した。
さらに、信託銀行の業務を「受託」業務に限定するとした過去の判例や、銀行持株会社法(BHCA)の規定とも矛盾すると指摘している。
ICBAはこれらの理由に基づきOCCに申請の却下を求めるとともに、申請内容の機密部分(事業計画や法的分析)を公開し、十分な公開審査期間を設けるよう要求した。
コインベースが銀行ライセンス取得を目指す動きに対して、OCCがどのような対応を取るのかは、トランプ政権下における暗号資産産業推進の強度を計る試金石となりそうだ。
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