チェイナリシス、日本語版「暗号資産犯罪レポート」公開──詐欺被害が拡大

木本 隆義
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不正取引額、最終的に510億ドルに達する見込み

ブロックチェーン分析企業「Chainalysis(チェイナリシス)」の日本法人は18日、「2025年 暗号資産犯罪動向調査レポート 日本語版」を公開した。

現在判明している2024年の暗号資産(仮想通貨)の不正取引額は409億ドルだが、分析が進むにつれ、最終的に510億ドルに達する可能性があるという。これは歴史的にみても大きな数字だ。一方、全体取引に占める不正率は0.14%程度。「意外に少ない」と思われたかもしれない。だが、それは仮想通貨の流通量自体が大幅に拡大しているためだ。詐欺もハッキングも膨れ上がっているものの、仮想通貨産業の伸びのほうがさらに上回っているわけである。

ハッキング被害は22億ドルに上り、そのうち北朝鮮のハッカー集団が47件の攻撃で13億4,000万ドルを奪取したという。これほどの規模になると、もはや単なる「サイバー犯罪」の枠を超えており、国際社会も放置できない状況にある。戦争資金や軍事開発に流用される可能性を考えると、仮想通貨ハッキングは単なるマニア向けの話題では済まされない。

いわゆる特殊詐欺も深刻だ。ロマンスや投資をもちかけた詐欺によるオンチェーン上の被害額は99億ドルに達している。法定通貨から仮想通貨への換金分などを含めると、さらに多額になることは間違いない。詐欺師たちを支える違法サービス「Huione Guarantee(フイワンギャランティ)」は、資金洗浄や偽造技術の取引をワンストップで提供している。このフイワンギャランティというのは、カンボジアの複合企業「Huione Group(フイワングループ)」が運営するオンラインマーケットプレイスで、少なくとも110億ドルの資金が流れているとされる。取引される商品もアングラ版ヤフオクといったラインナップで、特殊詐欺用の労働者監視ツールのほか、人身取引された労働者を拘束するための道具まで手に入る。こうした“犯罪エコシステム”の存在はもはや国際社会にとって看過できない脅威となっている。

ランサムウェアでは、2023年に12億5,000万ドルが身代金として支払われたが、2024年には8億1,355万ドルに減少した。被害者が支払いを拒否するケースが増えたことが背景にあるようだが、企業や個人が対策を強化し、踏みとどまり始めた兆しともいえる。

さて今後だが、チェイナリシスの見解どおり、官民が一体となって防犯体制を整えることが肝要と考える。取引所はKYCやAMLの徹底に努め、法執行機関や規制当局との連携を強化して、犯罪者にとって活動しにくい環境をつくる必要がある。それにより仮想通貨市場全体の信頼が高まるのだ。こうしたリスクを放置すると、ブロックチェーンやWeb3といった未来技術の可能性に水を差すことになりかねない。みんなで監視の目を光らせつつ、健全な市場を育てる努力を続けようではないか。

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フリーエコノミスト。仮想通貨歴は9年。Liskで大損、BTCで爆益。タイの古都スコータイで、海外進出のための市場調査・戦略立案・翻訳の会社を経営。1973年生。東海中高、慶大商卒、NUCB-MBA修了。主著『マウンティングの経済学』。来タイ12年。
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