アメリカ財政への懸念と金融の構造変化が浮き彫りに
世界最大の資産運用会社「BlackRock(ブラックロック)」のCEO、ラリー・フィンク氏は31日、同日付で公表された年次書簡の中で、「ドルの基軸通貨としての地位は永遠のものではなく、デジタル通貨がその座を奪う可能性がある」との見解を示した。
フィンク氏の発言は、きわめて重要な意味を持つ。なにしろアメリカが長らく世界の経済の中心に君臨してきたのは、「われわれのドルこそが王様だ」とばかりに威張ってきたからだ。しかし、近頃は国債が増えすぎて、あちらこちらから「債務は大丈夫か」という声が上がっている。そのうえデジタル通貨やビットコインなど、いわゆる暗号資産(仮想通貨)の勢力が「ドルよりこちらのほうが安全だ」と囁き始めているのだ。そこでフィンク氏は「もし米国がこのまま借金を垂れ流し続けるなら、ドルの基軸通貨としての地位が危うい」と警告した。つまりドルが神聖不可侵という神話も、そろそろ揺らぎ始めているのではないかというわけである。
注目すべきは、フィンク氏自身が仮想通貨に対して否定的どころか、かなり前向きだという事実だ。書簡では分散型金融(DeFi)やトークン化などのキーワードが頻繁に登場し、「このイノベーションに乗り遅れるわけにはいかない」という腹づもりがあるように見える。実際、ブラックロックはビットコインETFやトークン化ファンドを拡充しており、世界最大の資産運用会社が熱心に仮想通貨に資金を投じていることは明白である。単なる一時の浮かれ話ではなく、状況はすでに大きく動き出している。
ただし、フィンク氏は「ビットコインがドルを完全に打ち負かす」と断言しているわけではない。むしろ「アメリカが財政をきちんと立て直さなければ危うい」という警告であり、「このまま安易に債務を拡大し続ければ、デジタル通貨にその座を奪われてしまう」という脅し文句でもある。現実的なメッセージとして無視すべきではない。
今回の年次書簡に対して、仮想通貨界隈は「ビットコインに最高の追い風が吹いた」と喜ぶかもしれないし、「いや、米国主導のCBDC(中央銀行デジタル通貨)やドル連動ステーブルコインが普及すれば、ドルの国際的地位はむしろ強化される」と冷静に受け止める人々もいる。こうした意見の相違こそが経済の醍醐味であり、今後の展開は米国の財政政策や規制次第ということになる。いままさに“綱引き”がはじまった。
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