「悲観的証明」でクロスチェーンの壁を壊す
ブロックチェーンの統合レイヤー「AggLayer(アグレイヤー)」 は3日、v0.2メインネットの稼働を開始した。
これまでのクロスチェーンブリッジの、クロスチェーン連携の失敗による流動性の分断やユーザー利便性の低下、詐欺の温床化など、ブロックチェーン界隈の「孤立チェーン問題」にうんざりしている向きは多いはずだ。実際、過去の不祥事は数え切れない。特に、2022年には総額25億ドル超のハッキング被害が発生し、2024年には「Orbit Chain Bridge(オービット・チェーン・ブリッジ)」から約8,150万ドルが流出するなど、クロスチェーンの安全性は依然として大きな課題となっている。
アグレイヤーは、これらの問題を解決し、異なるセキュリティモデルのチェーン間の相互運用を安全に実現することを目指している。そのカギとなるのが、新たに導入された「悲観的証明(ペシミスティック・プルーフ)」だ。
v0.2で導入された悲観的証明は、各チェーンが預けた額以上をブリッジから引き出せないようにするメカニズムだ。これにより、不正な資産引き出しを根本的に防ぎ、被害を局所化できる。
従来のクロスチェーンブリッジでは、一部のチェーンの問題が他のチェーンへ影響を及ぼすリスクがあった。また、ハッキングが発生した際に資産の大規模な流出が発生する可能性が高かった。アグレイヤーでは、各チェーンが独立して内部会計を行い、不正行為が他のチェーンへ波及しない仕組みを構築。誰にでも分かりやすい安全装置であり、Polygon(ポリゴン) CDK以外のプロトコルを採用するチェーンも、アグレイヤーに安全に接続できるようになった。
アグレイヤーは、独自のL1ブロックチェーンではなく、Ethereum(イーサリアム)上に構築された分散型ハブという立ち位置をとる。ブリッジや資産管理はイーサリアムのPoSを基盤とし、ゼロ知識証明(ZK証明)を活用したクロスチェーン取引の正当性検証を行う。すなわち、「ポリゴン系でないチェーンも悲観的証明を実装することで接続可能」となり、『マルチスタックな環境』へ歩を進める体制が整った。
アグレイヤーv0.2には以下の機能が含まれる。
- 統合ブリッジ(Unified LxLy Bridge)
イーサリアム上で各チェーンの資産をラップせずに直接やり取りできる。従来の「ロック&ミント」方式とは異なり、すべての統合チェーンで同一トークンとして扱えるため、流動性の分断が解消される。 - ペシミスティック・プルーフによる残高検証
各チェーンは「預け入れた額と一致する残高管理」を暗号的に証明する。万が一不正な引き出しが発生しても、当該チェーンがロックした分以上を奪えない設計となっており、他チェーンへの被害拡大が防がれる。 - クロスチェーン・コール機能
単なる資産移動にとどまらず、チェーンAの資産でチェーンBのスマートコントラクトを実行し、結果をチェーンCで利用する―といった高度な相互運用を可能にする。この基盤として「Bridge and Call(ブリッジ・アンド・コール)」フレームワークが整備されつつある。 - スタック非依存のモジュラー設計
v0.2からはポリゴンCDK以外のプロトコルにも柔軟に対応できる道筋が開かれた。今後、接続先を拡大することで、ブロックチェーン連合のハブとして機能する展望がある。
メインネットが実際に稼働した点は特筆に値する。テストネット段階で終わらず、本番環境での実用化に踏み切ったため、複数チェーンが「オレらもアグレイヤーに接続させろ」と名乗りを上げているという。仲間が増えるほどネットワーク効果が高まり、さらなる波及が見込まれる。
v0.3は2025年第1四半期のリリースが計画されており、あらゆるEVMチェーンとの接続が視野に入る。EVM互換チェーンとの相互運用を大幅に拡張し、本格的マルチスタック環境を完成させる構想だ。これにより、異なるL2やEVMアプリチェーンの統合が加速する可能性がある。さらに、v0.4では高速なクロスチェーンファイナリティ(5秒以内)を実現予定で、クロスチェーン取引の体験が大幅に向上すると考えられる。
クロスチェーン技術の進展により流動性の集約が進めば、ブロックチェーン経済圏全体の資本効率も向上する。たとえば、欧州の通貨統合がビジネスや投資を加速させたように、チェーン間の取引がスムーズになるほど資本効率は上がる。観光客が増えるがごとく、新規参入や資金が流れ込みやすくなるわけだ。 ただし、一極集中のリスクは無視できない。アグレイヤーが事実上の基盤となれば、何らかのトラブル時に生じる影響が甚大になる懸念もある。悲観的証明やZK証明による安全装置を用意しているとはいえ、さらなる分散化や運営の透明性が求められよう。
DeFiにおいては流動性の断片化が長年の課題だったが、アグレイヤーを介した統合流動性によりマーケットの安定や資本効率の向上が期待される。ゲームチェーン間のアイテムや通貨の互換も進展し、GameFiの敷居を下げる可能性がある。また、RWA(不動産や証券のトークン化)やAI×ブロックチェーンで大容量データを扱う領域でも、相互接続が進むことにより利便性が飛躍的に向上するとみられる。
ブロックチェーンの本質は分散と相互接続にある。好き勝手に乱立したチェーンが破綻するより、互いに安全弁を用いて連携したほうが長期的な発展につながる。アグレイヤーv0.2が「世界統一チェーン」の夢へ近づく第一歩になるかもしれない。