パナマ市議会、仮想通貨での公的支払いを可決──BTC・ETHなど4通貨に対応

木本 隆義
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法整備の遅れ受け、自治体が独自導入

パナマ市議会は16日、公的支払いにおける暗号資産(仮想通貨)の受け入れを全会一致で可決した。この議決により、パナマ市はパナマ共和国内で初めて仮想通貨による支払いを受け入れる公的機関となる。

本件は単なる地方自治体の施策にとどまらず、国家レベルで停滞する仮想通貨規制環境の中で、自治体主導による金融イノベーションの一端を示した画期的事例として注目に値する。

本制度のキモは、仮想通貨で支払われた税金や手数料などを、パートナー企業である「Towerbank(タワーバンク)」が即座に米ドルに換金し、市に納めるという構造にある。これにより、市は仮想通貨のボラティリティや管理上のリスクを負うことなく、米ドル建ての安定した資金を受け取ることが可能となる。一方、銀行は換金手数料や新たな顧客接点といったビジネス機会を得る形となり、実質的には金融仲介機能を担うこととなる。

対象となる仮想通貨は、ビットコイン(BTC)イーサリアム(ETH)、USDコイン(USDC)、テザー(USDT)の4種類。流動性と認知度の高い銘柄が選定されている。これには、マネーロンダリングのリスクへの配慮がうかがえる。

本モデルの特徴は、市が仮想通貨を「採用」したのではなく、「受け入れ可能」とした点にある。すなわち、仮想通貨を行政資産として保持・活用するわけではなく、既存のドル経済圏に仮想通貨を橋渡しする「エントリーポイント」を設けただけにすぎない。エルサルバドルのようにビットコインを法定通貨とする強硬手段ではなく、既存の枠組みの中でできることから始めるという姿勢は、他の都市や国にとって参考になるだろう。

本件の背景には、国レベルでの規制整備の停滞がある。パナマ共和国では、仮想通貨関連の包括法案である「法案697号」が提出されていたが、大統領が拒否権を行使し、成立には至らなかった。理由は、AML(マネーロンダリング対策)やFATF(金融活動作業部会)との整合性など、国際的な金融規律との摩擦にあったとされる。このような状況の中で、地方自治体であるパナマ市が独自に仮想通貨導入に踏み切ったことは、実務的な柔軟性と政治的決断力の高さが際立つ。

ただし、制度の実効性は、市民の利用率と実装の安定性次第だ。米コロラド州のように仮想通貨による税支払い制度が導入されたにもかかわらず、利用者がきわめて少数にとどまった事例もある。市民が制度を積極的に活用しなければ、単なる「技術デモ」で終わる。

また、タワーバンクのシステム信頼性、KYC/AML対応、エスクロー運用の透明性といった技術・運用上の課題もクリティカルである。仮想通貨の送金ミスや不正利用が発生すれば、制度への信頼は一気に崩壊する。行政の信頼は、もはや中央銀行ではなく、商業銀行が肩代わりする時代となった。

こうしたリスクを踏まえつつも、本施策は「仮想通貨立法のミニマムセット」として、他の都市に模倣される期待もある。コロンビアやメキシコ、フィリピンなど、中央政府が動きにくい国々の地方自治体が追随する展開も想定される。これは、地方分権とテクノロジーの融合による「自治体ドリブン」の仮想通貨導入競争の幕開けと言えるだろう。

パナマ市の取り組みは、中央政府の制約下にある国々における金融イノベーションの突破口だ。制度設計は慎重で実務的であり、国家制度を揺るがすほどの急進性はないが、逆にそれがグローバルな「横転」の可能性を秘めている。今回の議決は、中南米における仮想通貨ハブとしてのパナマの国家的プレゼンスを劇的に高める第一歩となるかもしれない。

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フリーエコノミスト。仮想通貨歴は9年。Liskで大損、BTCで爆益。タイの古都スコータイで、海外進出のための市場調査・戦略立案・翻訳の会社を経営。1973年生。東海中高、慶大商卒、NUCB-MBA修了。主著『マウンティングの経済学』。来タイ12年。
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