【専修大学 小川健】暗号資産やブロックチェーンの将来性や投資について|取材

専修大学小川教授
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経済の流れや暗号資産(仮想通貨)に深く精通している専修大学 小川教授に、本サイトがメインで発信している暗号資産分野の将来性や投資の側面、そして教育についてご意見をいただきたく思い取材をさせていただきました。

取材にご協力頂いた方
専修大学小川教授
小川 健氏

小川 健(おがわ たけし)

1982(昭和57)年12月愛知県名古屋市生まれ,名古屋大学理学部(旧数学系)を2006(平成18)年3月に卒業後,経済系へ大学院から移籍。国際貿易論(理論)のゼミに所属し,2011(平成23)年3月名古屋大学大学院経済学研究科社会経済システム博士後期課程修了,博士(経済学,名古屋大学)。1年程研究科のOB会(同窓会)の支援を受けた研究員を経た後,2012(平成24)年4月より広島修道大学経済科学部現代経済学科に経済数学(やコンピュータ経済学)の任期付き助教として赴任。2015(平成27)年4月より現在の職場である専修大学経済学部国際経済学科に国際経済論(や資源・エネルギー論)の専任講師として赴任。2023(令和5)年度現在の職位は教授だが(2023[令和5]年4月~),職位によらない専任教員と名乗るようにしている。担当科目:国際経済論,資源・エネルギー論,数学補充科目,貿易論など。元々の専門は近経貿易理論(リカード型貿易理論による世界の特化・生産・輸出体制を決める技術的条件の解明,再生可能資源としての水産物貿易の貿易理論からの分析)だが,副専門として暗号資産教育と経済学教育におけるICTの活用があり,教育の工夫の一環として国際経済論の国際金融パートに暗号資産や外貨建て保険などを取り入れるようにしている。

目次

暗号資産(仮想通貨)分野は有効な投資先なのか

ー 政府が「貯蓄から投資へ」を積極的に進めている中で、暗号資産(仮想通貨)分野は有効な投資先になりえるでしょうか?

OGAWA先生: 一般には有効な「資産の短期・中期的保有手段」とはなる可能性が高い,という答えになろうかと存じます。これは「投資」という言葉の定義によるもので,投資が成立する理由によります。

一般には「投資」と「投機」の違いについて,期間の違いつまり長期的な保有では投資,短期的な保有では投機と呼ぶことに加え,(中長期的な)資産価値を重視するのが投資,(短期的な)価格変動を重視するのが投機とすることが多いです。
https://tickertalk.co.jp/knowledge/2833/ (2023-12-01アクセス)

加えて,投資と融資では,(主に社債や公債,銀行融資などをイメージしますが)返す義務とその返済額を明示して,一定額を超えることは無いものが融資,(主に株式投資をイメージしますが)返す義務は無いため失敗した場合にも責任は問えないがものの大きく儲かった場合にはその儲けに応じて(配当などの形で)上限を付けられずに還元される,というのが投資との違いとなります。ここでは「貯蓄」から「投資・融資」への流れに関する部分の対象範囲が大事になります。

では何故投資や融資へお金を動かすことが求められるのでしょうか。元々は個人で貯めておくことが多かった状況に対し1960年代には銀行へ預金することが推奨され,銀行で預かったお金を基に「銀行側で審査かけて」事業運営に必要な資産を銀行融資として回すことで新たな経済活動を進めていく,という部分がありました。しかし,銀行審査ではどうしても保守的・形式的な審査になりがちであり,ベンチャーをはじめどうしても新しい可能性を持った事業にお金が回り難い特性がありました。銀行融資では自分(自行)のお金ではなく預金者から預かったお金を融資に回すので,どうしてもリスクの高い項目へは(将来の日本や世界の経済には大事になる可能性があっても)お金は出せない部分が少なくありませんでした。その中には「私ならお金を出す」という場合が有っても,です。加えて,銀行融資ではどうしても融資に手間が掛かる分だけ銀行の取り分も必要であり,直接お金を回せた方が安く調達できる部分がありました。これは預金者側からしても大事であり,(審査の手間賃だけ)直接投資や融資に回すよりどうしても銀行預金の方が利子率・収益率は低くなります。そこで,(銀行預金などの)貯蓄から個々人でも投資・融資へとお金を動かすことが求められるようになってきた訳です。

そうすると,投資や融資はその先でお金が新たな経済活動などに有効に活用されてこそ意味があります。上場されている株や債券などは「いつでも売れる」ことを条件にお金を出している部分も有り,売却ができないならそれだけ参加者が減る可能性もあります。株や債券を買うとはその人たちに代わって経済活動の継続ができるようにするための方策な訳です。

この観点で暗号資産を捉えると,ホワイトペーパーで目的を示してその目的に共感した人から暗号資産のやり方を通じて価値を集めて目的を遂行するために使うICO(Initial Coin Offering)やその問題点を或る程度対処しているIEO(Initial Exchange Offering),STO(Security Token Offering)などにおいて言えば新たな目的を応援するのに役立っていると言えます。反面,現在色々な交換業者で取り扱われているビットコイン等の主要暗号資産の多くはそうではなく,例えビットコインを買ったとしてもそのお金がその先で他の事業などに使われる訳ではありません。その意味では,主要暗号資産を取引所や販売所で買っても新たな経済活動への応援に繋がるものではないのです。ビットコインはよく「デジタルな金(きん)」に例えられてきた訳ですが,金(きん)を買ったとしてもそのお金は新たな経済活動の応援に繋がるものでは必ずしもありません。

では投資や融資をそうした「お金の流れる先」の価値観だけで判断すべきなのでしょうか。投資や融資などの形で「お金を出す側」の観点も考える必要があります。

日本円で銀行預金やゆうちょ・JAバンクなどの貯金の形で持っておくだけでは「日本円の預貯金・現金として持つことのリスク」には耐えられません。少なくとも平成土地バブルが崩壊して以来長らく起きていなかったが2022(令和4)年から起き出してきたインフレ(物価高)が激しくなれば,価値は減じられます。日本円の価値が大きく下がる危険性も0とは言えません。日本国債が返せなくなる日本国破綻の危険性に関しては,日本国債を多く持つようになった日本銀行が政府出資55%以上であることを踏まえた連結決算で捉えると必ずしも高くは無いことが言えるのですが,昔ながらの日本国債単体での発行額とGDP(国内総生産)との関係での議論を使われる方からすれば心配をされる方もいるかもしれません。更に言えば諸外国通貨と比べて日本円の名目為替レートが価値として下がる危険性で言えばあります。US$1.-≒80円⇒US$1.-≒120円へと動いた2012(平成24)年末などの半年間,US$1.-≒115円⇒US$1.-≒150円へと動いた2022(令和4)年の9-10か月間などの時期には他の通貨との総合的な価値で見た名目実効為替レートでも20%以上1年以内に目減りしています。日本円以外の手段で保有していればこうした価値の棄損を免れた可能性もあるわけです。その意味では短期・中期的な「資産保有手段」としては色々な手段を許すことでの対処をできるようにすることに意味があります。主要暗号資産はこうした「資産の短期・中期的保有手段」としての存在意義はある訳です。

加えて,ビットコインやイーサ,XRP(旧リップル)等を初めとする(交換業者などで扱っている)主要暗号資産はテザーなどの(価値を安定させた)ステーブルコイン(正確には法定通貨担保型ステーブルコイン)と違い,価格が上下します。そうすると,ドルコスト平均法などの方法で長期的に「値下がり時にたくさん買った部分が値上がりすることでの恩恵」という形でゆっくりと資産を殖やしていくための手段に主要暗号資産はなり得ます(100%殖えるとは言いません。あくまで価格が上下を繰り返す限り長期的には,となります)。

あとは「支払い手段として」の保有意義,等は考えられます。例えばNFT(非代替性トークン)の利用に際しイーサリアム・ブロックチェーン等が使われることは有り,その各種支払いに際して暗号資産のイーサが使われることは有りえますから,支払う用途があって持つ意義はあります。他にも,(ステーブルコインを暗号資産に入れるべきかは議論の余地が有りますが)日本では銀行口座決済が普及していますし,電子マネー・コード決済が乱立な位に存在していますしクレジットカード決済なども大手では色々できる事を思えば,オンラインで支払うために暗号資産が必要という発想は持ち難い部分がありますが,そうした環境が整備されていない中での支払い手段としてテザーなどの価値を安定させたステーブルコインを持つ可能性は有ります。

実際にミャンマーでは軍事クーデターが2021(令和3)年に起きて旧民主派政権を追い出して以降,ネットを遮断しATMへの資金補充も控える等実際に経済活動に支障を来すだけの状況が起きていますが,その追い出された旧民主派政権の残党が結成した亡命政府「亡命国民統一政府(NUG)」は2021年にテザーを法定通貨に加える判断をしています。ちなみに2023(令和5)年には暗号資産ベースの金融機関が作られることが報じられていて,銀行等の金融機関や現預金などが十分に機能させられない場合に暗号資産が決済手段として活用される可能性があり,そのために保有することも考えられます。

決済手段としての仮想通貨について

ー 決済手段として暗号資産(仮想通貨)は普及する可能性があるでしょうか?また普及するとすればその為の条件はどのようなものが考えられますか?

OGAWA先生:「越境少額支払いとしての手段」を中心に普及する可能性はあると考えていますが,日常的な支払いについてはCBDC(中央銀行デジタル通貨)の小口(リテール型)を暗号資産から切り離して考える場合,暗号資産での決済が普及する国はかなり限られる一方で,暗号資産については多くの国で「決済の裏側で動く部分での活用」が大きくなると考えています。

決済手段としての暗号資産の重要性を考慮する際,大事な観点の中には価値保存性と価値尺度が有ります。通常,働いて得るお金・貨幣が(日本における日本円のように)その国・地域の現地通貨の場合,その現地通貨が(インフレ率があまり高くないことやその通貨の国際的な信用力などの観点で)安定的に望ましければ,その国・地域の人はその現地通貨を基準にお金の在り方を考えます(例えば「近年高くなった」と言われていても,世界的にはあまり高くない例として日本のインフレ率だと2023[令和5]年後半あたりで3%前後ですが[2023年10月時点での消費者物価指数の変化率は前年同月比3.3%,11月時点では2.8%,企業物価指数だともっと下がってきている],そうではない例としてアルゼンチンのインフレ率だと2023[令和5]年10月時点では142.7%でした[消費者物価指数での話])。実際に日本では(法律で定められている面があるから,という理由も有るのですが)給与支払いは原則日本円で行われますし,日本では色々な価格表示に関して日本円のみで表示がされていることが珍しくありません。
https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.html (2024-01-06アクセス)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN13CQZ0T11C23A1000000/ (2024-01-06アクセス)

そうすると,(日本における日本円のように)安定している現地通貨がある国・地域ではその現地通貨でどれだけ上下したか,という観点こそが重要であり,実際に日本では(200-300円レベルの)お野菜が5円安ければ少し遠いお店でも駆け付ける,などのことが実際に珍しくありません(行く機会費用などを考えたら勿体ない行動をしていると言える事例も少なくないのですが)。そうした価値観を持っている場合には「変動リスク」については極端に忌み嫌う事になるため,日本円と1対1対応していない通常の暗号資産(旧・仮想通貨)では考えようとしない側面があります。実際にビットコインが一部階層で普及したベネズエラは2018(平成30)年頃にハイパーインフレで現地通貨(ボリバル)が事実上崩壊したのとは大きな違いです。

そのため,(日本のように)現地通貨が比較的安定している国・地域では「その現地通貨で価値の変動を抑えた」ものが優先的な条件になる側面があります(これ以外にも利便性や使い易さ等様々な観点があります)。その場合,(CBDC[中央銀行デジタル通貨]を除いた)暗号資産(旧・仮想通貨)の多くは例えば電子マネー(・コード決済)やクレジットカード(・BNPL)と比べてこの点で劣る(その現地通貨での価値の変動が避けられない)ため,一般に普及するという形が取られ難いと言えます。

では「決済手段として」暗号資産が普及するにはどういう条件があるのか,という部分ですが,これは「現地で比較的安定した通貨・貨幣が使われているかどうか」で分ける必要があります。

これを考える上で非常に重要な国の1つに中米のエルサルバドルという国があります。エルサルバドルは2021(令和3)年に世界で初めてビットコインを法定通貨に「加えた」国であり,例えば(資金決済法で暗号資産を「お金では無い」としたが法的整備を進めた)日本に比べると法的には遥かにビットコインなどの暗号資産が使い易い国です。しかし,一般にはビットコインの利用が浸透しているとは言えないことが知られています。その理由を考える上で,エルサルバドルではその20年前の2001(平成13)年から現地通貨を廃し米ドル現金の直接流通を選択した,という視点は欠かせません。米ドル現金は1ドル紙幣を初めとして一般市民にはしっかり浸透したのですが,だからこそ米ドルが安定している限り,エルサルバドルでは市民が(米ドルを基準に考えるます。越境送金流入額がGDPの2割を超えるエルサルバドルは(越境)送金手数料の高さを考えると現金中心社会は決して望ましい選択とは言えない側面があるのですが,米ドルとの価値の変動が激しい)ビットコインを使うという選択を取る「必要性を感じない」という説明ができます(エルサルバドルでは他にも現金中心社会という観点等もビットコイン等の暗号資産が浸透しない理由の1つとして知られています)。仮に現地通貨コロンを現在まで残した場合,選択は大きく変わったことでしょう。
https://ampmedia.jp/2022/05/08/bitcoin-el-salvador/ (2024-01-06アクセス)
https://doi.org/10.34360/00012791 (2024-01-06アクセス) 

そのため,現地で使われている通貨の安定性はどの位か,という部分で分けての議論をします。

現地で使われている通貨が(インフレ率や国際信用力などの観点で)あまり安定的に信頼し難い場合には,暗号資産(旧・仮想通貨)が決済に使われる可能性は大きく高まる訳ですが,そのためにはネットの普及度合いや電力の供給度合い,スマホの普及度合いなど「暗号資産で決済するための技術的な条件が揃っているか」という観点は欠かせません。例えばDPRK(朝鮮民主主義人民共和国)での現地通貨である「北朝鮮ウォン(KPW)」が国際的に信用に足る通貨とは見做されていないことはよく知られていますが,夜の明かりの度合いで見た世界の様子などでDPRKは比較的暗い状況が続いていることなどを見ても,「電力の供給度合い」などの観点でこの条件を満たしていないと分かります。
https://jp.yna.co.kr/view/AJP20230403002800882 (2024-01-06アクセス)

暗号資産の普及度合いを示す指標の1つとして”Share of respondents who indicated they either owned or used cryptocurrencies in 56 countries and territories worldwide from 2019 to 2023”という指標(2019年から2023年にかけて、世界56の国と地域で暗号通貨を所有または使用していると回答した人の割合)を使うと,その上位国の1つにトルコ(テュルキエと国号変更)があり,2023(令和5)年時点ではナイジェリアと並ぶ同率1位の47%となっているのですが(日本は39位の6%),トルコ(テュルキエ)は2023(令和5)年5月まで「高インフレなのにその対策に反する低金利政策」という教科書的な失政を(イスラム教の教えで利子を取るのは禁止だから,という宗教的な観点から)続けたため(2023[令和5]年5月時点で消費者物価指数は前年比39.59%,12月時点で64.77%),高インフレで現地通貨(トルコ・リラ)に対する信頼が弱く,ビットコインでの決済は2021(令和3)年において禁止されたとしても利用されているという実態があります。こういう指標から見ても,現地で使われている通貨の安定性で分けての議論が必要と言えます。
https://www.statista.com/statistics/1202468/global-cryptocurrency-ownership/ (2024-01-06アクセス)
https://fx.minkabu.jp/indicators/TR-CPI (2024-01-06アクセス)
https://www.coindeskjapan.com/106082/ (2024-01-06アクセス)

その場合に「他の代替手段がどの程度あるか」という部分も重要な観点(条件)です。例えば2023(令和5)年現在でインフレ率の比較的高い国として先ほど取り上げたアルゼンチンが知られています。アルゼンチンの置かれた中南米では現地通貨を廃して米ドル直接流通を選択した国がパナマ,エクアドル,そして先のエルサルバドルを初め複数あり,現地通貨に代わる代替手段として「米ドル直接流通」が選択肢として真っ先に挙がってしまうことなども,暗号資産へと流れる率に影響しているものと思われます。現に,2023(令和5)年末にアルゼンチンの大統領に就任したミレイ(新)大統領の選挙公約の1つには「(米)ドル化」というものがあり,現地通貨が必ずしも信用されている訳では無いわけですが,先の普及度合いを表す指標では2023(令和5)年だと第7位の26%です。世界的には普及度合いの高い国の1つとは言えますが,インフレ率などを勘案しての現地通貨(アルゼンチン・ペソ)の信用度を見た場合,もっと高くても不思議はないわけですが。
https://toyokeizai.net/articles/-/721410 (2024-01-06アクセス)

議論を戻して,日本における日本円のように「現地で使われている通貨が(インフレ率や国際信用力などの観点で)」安定的に信頼されている場合には,価値を「その国・地域の現地通貨で」考える側面が強いため,まずは「その決済手段が価値がその国・地域の現地通貨で安定している」ことが求め,(CBDCを除く)暗号資産(旧・仮想通貨)はこの点で条件を満たし難いことを確認致しました。

但し,価値が現地通貨で安定していれば直ちに浸透するものではなく,現金などに比べてどの意味で利点が有るか,という部分が伝わらないと浸透しません。これは他のキャッシュレスの決済手段がどういう経路を辿ってきたかを確認すると分かり,現金中心社会とされる日本を例に説明します。

日本は現金中心社会とは言われますが,銀行口座を利用した振込・引き落としといった決済方法は給与支払いや(学費など)大口の支払い,公共料金の支払いなどで(反社会的勢力所属など銀行口座を持つのが困難な場合を除いて)比較的浸透していますが,これは支払い忘れなどの防止などの利便性や大量の現金を持ち歩かなくて済む安全性から使われている部分があります。また,Suicaや楽天Edy,waonなどの電子マネーは都市部での鉄道利用を初めとして「日本では」一部で使われている部分がありますが(日本はその場で銀行口座から決済するデビットカードより電子マネーの方が普及率が高い珍しい国です),全体的な利用率は高いとは言えないという指摘も有り,使われているのは都市部での鉄道利用を初めとして「改札・レジなどでスムーズに通れるから」という利便性の側面が強いと言えます。近年では半導体確保の問題からSuica, PASMOのプラスチックカード発行停止が2023[令和5]年には起きましたが,昔でいう「おサイフケータイ」の機能を活かしてスマホに電子マネーの機能を持たせた形(モバイルSuicaなどやGoogle Pay, Apple Payなどを経由した形)へと切り替わりつつあります。
https://shokosoken.or.jp/shokokinyuu/2019/03/201903_2.pdf (2023-01-06アクセス)

コード決済はPayPayのように各種登場してはいますが,はじめは「還元率」を売りに登場するなど「スマホで決済できる」以上のメリットを日本ではあまり出せてはいない側面が有ります。なお,中国大陸でAliPay, WeChatPayなどのコード決済が浸透した際には店側がQRコードを提示することにより客側のスマホで決済できるため「店側に決済設備を置かなくてもよい」点が浸透のきっかけの1つとなりましたが,QRコードの貼り替えによる盗難などの弱点もあります。日本でも近年ではこの「店側に決済設備を置かなくてもよい」点は考慮され,旧来では現金専用だった所でも決済手段の選択肢に出つつは有りますが,それでも完全に浸透したとは言えない側面があります。あとは個人間送金もコード決済アプリではし易い訳ですが,日本では規格が乱立しているため,普段使っているコード決済のアプリが違っていると送れない事情があります。

クレジットカード決済は(クレジットカード社会の色の強い韓国に比べればまだまだですが)日本でも決済の選択肢の1つとして多くの所に登場してはいて,とりわけ通販・eコマースなどではクレジットカード決済が多く利用されています。その理由としてはポイントなどの還元率もありますが,後払いのため「その場に手持ちの現預金が無くても使える」ところに大きな特徴が有ります。決済記録を後から整理し易いという特徴も有ります。但し日本ではクレジットカードの手数料が諸外国に比べて高いという指摘はあり,これを理由に導入したがらないお店も少なくありません。

BNPL(Buy Now Pay Later)はPaidyやNP後払いなど日本でも登場しつつあり,「クレジットカードで求められる審査が要らない」のに「後払いで,その場に手持ちの現預金が無くても使える」ところに大きな特徴はありますが,日本では(諸外国に比べて)まだ普及しているとは(2023[令和5]年現在だと)言えません。これは使える所がまだ少ないから,という点に加えて,(審査が要らない分)最初は少額からで利用実績を重ねないと大きな支払いに使えないため,決め打ちして使って行かないと必要なときに必要な金額が使えないから,という点も有るかとは思われますが,決済方法があまりにたくさんあるので後から登場した関係で知られていないだけ,という可能性はあります。

日本を例にするとこのように「数多くの決済方法が登場して乱立し,各自バラバラに選択している」という状況があるため,その人の志向・嗜好や住む地域の事情,利用場面などに大きく左右される側面があります。そのため各店舗は数十の決済方法それぞれに対応しないと要求に応えきれなくなっているという側面があり,コンビニなどをはじめとして大手はその対応に追われています。小規模の店舗では全てに対応しきれない側面が強く,現金利用者を支えるATMも(銀行のものは減ってきたとはいえコンビニのものを含め)各地にまだあるので,現金のみという店舗も少なくありません。

暗号資産を決済方法に導入する際は日本だとこのように「数多くの決済方法が乱立している中で」勝負することになるため,暗号資産ならではの強みが説明・理解できないと伝わりません。暗号資産は(ただでさえ現地通貨たる日本円との価値が安定しないだけでなく)その送金時に(実際には少額とは言え)明示的に手数料を取っているため,消費者・利用者側には明示的な手数料が見えない各種の決済方法より見劣りします(利用者側が明示的に手数料を払っている決済方法と言えば銀行振り込み・銀行送金とATM手数料位でしょうか)。暗号資産を決済方法に使う場合には客側がスマホなどを操作する場合以外にもペーパーウォレットということで「紙のQRコードを出して」対応を求める事例が考えられますが,その対応が複数ある点も現状だと決済方法としてお店側が対応しにくい側面と言えるでしょう。

では(CBDC等を除いた)暗号資産特有の強みとは何なのでしょうか。それは「(1円より)細かく設定・支払いできる所」と「少額支払い」,そして「国とりわけ通貨圏を越えた支払い」の部分によります。1つずつ確認していきましょう。

今の日本の在り方では銭(1/100円)・厘(1/1000円)などのお金の単位は1953(昭和28)年の小額通貨整理法により廃止されたため,銭など1円より細かく支払うことは認められていなく,残っているのは「外国為替レート」におけるUS$1.-=141円83銭(2023[令和5]年末時点)などのような表示上だけのものとなっています。皆様は7 ELEVEnの価格表示方法が2019(令和元)年10月の消費税率変更と共に変わって,(イートインではなく)「持ち帰る」お茶1本(軽減税率により8%)が税抜93円(税込100.44円)などのように「表示上は」銭の単位が残っているものの,実際の支払いは「税抜き前で合計してから」消費税を計算するため,1本だけなら93×1.08=100.44だけれども「1円より細かく支払うことができないために」100円で済むところが,3本まとめて買うと93×3×1.08=301.32で「1円より細かく支払うことができないために」301円かかり,1本ずつ3回買う場合での100×3=300での300円とは違う,ということが話題になったことを覚えていますでしょうか。
https://www.sej.co.jp/info201909.html (2024-01-07アクセス)

これはひとえに「1円より細かく支払うことが出来ないから」起きる問題点な訳ですが,この影響が如実に出る場合があります。例えば昔の曲のダウンロードが1曲10円,昔の漫画1話のダウンロードが10円,とかの事例はある訳ですが,1円より細かく支払う事ができないため,価格改定と言うと9円や11円のように「10%以上という大きな変動をする形でしか」変えられません。そのため,こうした小額の商品は価格改定が難しいことが知られています。2022(令和4)年には「うまい棒」が10円から12円に価格改定されましたが,20%価格は動いている訳であり,価格改定は42年ぶりでした。本来なら3%くらい価格を動かしたいという場合には扱えません。現金では1円より細かい価格変動は扱えませんし,電子マネー・コード決済・デビットカード・クレジットカード・BNPLなど他の「日本円を想定した」支払い方法でも1円より細かい価格変動を含めた支払いはできません。

(CBDC等を除いた)通常の暗号資産(旧・仮想通貨)では「円」等の通常の法定通貨単位とは違うため,1円より細かい支払いを入れることが可能です。例えばビットコイン(BTC)では1BTC=5 964 074円(2023[令和5]年12/31終値)ですが(以降,約600万円と想定),1BTCの1億分の1という細かく刻んだ「サトシ」という単位が知られていて,この場合には1サトシ=0.05964074円となるので,1サトシずつで数えていくと1円より細かく支払うことができます。例えば200サトシ(このレートなら約12円)から194サトシ(このレートなら約11.64円)へと3%分の価格改定をすることもできるわけです。別にビットコインに限る必要は無い訳で,もっと細かく支払い易い暗号資産を使うこともできる訳です。

次に,少額支払いについて取り上げます。少額支払いと越境支払いは次の記載を参考にします。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200303/se1/00m/020/005000c (2024-01-07アクセス)


 先ほど,10円くらいの商品があることを確認しました。駄菓子屋のように対面で渡すなら10円玉を渡せば10円は支払えます。少額支払いを考える前に少額送金を取り上げますが,対面では無い場合はどうでしょうか。ぱっと浮かびそうなのはATM等を利用した銀行振り込みですが,国内では3桁,国外では4桁はかかるのが通例です。10円送るのに100円以上の手数料を支払うのは現実的ではありません。次に浮かぶのが郵便局の「現金書留」です。日本では通常の郵便やレターパックなどで現金を送るのは違法なため,現金を直接送るときには現金書留という特殊な郵便方法を使います。現金書留は2023(令和5)年10月から最低料金が480円ですから,10円送るのに現金書留を使うのは現実的ではありません。その次に考えられるのは郵便小為替です。現金と引き換えられる為替に変えて,その為替の証書を郵便などで送る,受け取った人は郵便局に持って行って現金と換える,という方法になりますが,普通郵便の最低料金は84円から2024(令和6)年秋には110円に上がることが予定されています。ということは10円を送るのに使い易い方法ではないですし,郵便局に交換に行くという手間もかかります。他に考えられる方法としてはPayPay等のコード決済の個人間送金があり,中には手数料がかからないものもありますが,使っているコード決済アプリが違っていると送れませんし,PayPayなど多くのコード決済では残高を現金や預金に戻すことはできません。中にはJ-Coin Payのようにみずほ銀行など一部の銀行口座に戻せるコード決済もありますが,全ての銀行口座で使える訳ではなく,例えばJ-Coin Payでは三井住友銀行など使えない銀行もあります(2023[令和5]年末時点)。
https://j-coin.jp/user/guide/ (2024-01-07アクセス)

また,こうした「銀行残高に戻せるコード決済」はクレジットカードによるチャージできない特性があります。総合的に見て,現金や預金等と違ってコード決済は使い勝手の問題があります。少額決済だとお店側が対応すればいいですが,PayPayが手数料を取り始めたときに解約したお見せがある程度には高めな手数料の問題がコード決済にはある問題があります。また,コード決済は基本的に通貨圏が限られる側面が強いと言えます。PayPayなどの日本のコード決済が日本国外で使えるとは期待できませんし,AliPayやWeChatPayなどの中国大陸でのコード決済が日本で対応している所は大手に限られます。

先ほど確認したように10円くらいの昔の曲(1曲)や昔の漫画(1話)などはある訳ですが,現実的には利用をカウントしていってまとめて支払うとか,先にまとめて支払ってポイント化してそのポイントを使っていくとかの方法が使われているのは,10円くらいのものを逐一クレジットカードなどで支払う,という形はクレジットカードの手数料の問題があり,あまり現実的ではない事になります。ちなみに日本ではクレジットカードの手数料は(抑えている国に比べると)高いことは知られています。

暗号資産(旧・仮想通貨)の場合にはものによっては細かく分けられ,少額でも送れる事に加えて,送金手数料もものによってはかなり抑えられます。また,レートは変動するものの売ることで現金・預金に戻せます。

そして,越境送金という観点を押さえておく必要があります。皆様は外国のものを通販などで直接買う場合には通常,恐らくクレジットカードやデビットカードなどで支払うかと思われますが,都度その国・地域の料金を日本円に「換算して」支払う事になります。そうすると,外国為替レートは日々動くので,5分待ったら少し安くなるかも,という事が有り得ることになります。それでは支払うことをためらってしまうことも有り得ます。使う相手先の通貨圏が1つだけならその通貨に換えておけば済む訳ですが,色々な国・通貨圏での販売を考えるとそれでは回りません。

皆様は竹内まりやさんの「Plastic Love」という曲をご存じでしょうか。1984(昭和59)年にアルバム内に収録された後,1985(昭和60)年にシングルカットされた曲です。この昔の曲が2017(平成29)年頃に日本ブームを外国で巻き起こすきっかけとなった曲なのですが,YouTubeはおろかインターネットが出回る前に登場した曲のため,YouTubeに違法アップロードされたものを通じて外国では広まった,という事がありました。その違法アップロード映像が禁止(Ban)されるまで当時2400万回以上(一説には6500万回以上)の再生回数を叩き出し,本家が公式のMusic Video(MV)を出す2019(令和元)年頃にはそのブームの美味しい所が或る程度過ぎていた,という事がありました。とはいえ,全ての方がオンラインでのストリーミング再生が使い易い訳では無く,オフライン再生・ダウンロードして聞きたい人もいる筈です。仮にオフライン再生・ダウンロードするために1回10円かかるとして,1%がオフライン再生するとしても数百万円,10%なら数千万円以上の可能性があった訳です。しかし,日本にある所属事務所に日本円で支払う以外の手段は事実上ない訳で,外国から10円という日本円に両替して支払うとなれば現実的ではありません。

仮にこれが暗号資産(旧・仮想通貨)で支払えれば,基本的にはどの通貨圏にいる人でも同じ状況で扱えます。暗号資産に「換算して」の代金だと都度為替レートに左右される形になりますが,例えば「暗号資産での(その日の)価格」と支払い方法を出しておけば,その暗号資産と自分が使っている通貨との関係は分かります。仮に暗号資産による支払い方法が色々な所で普及すれば,その暗号資産を将来の交換手段として持っておく,ということが現実的になります。こうした「複数値札表示」は国際線の航空機内カタログなどで使われている方法です。ちなみに昔Facebook(現・Meta)などが中心となって提案されていた「リブラ構想」が提案されたとき,複数値札表示についてはリブラが成功する鍵の1つとして次の記事などで扱っています。(リブラ構想は潰えましたが。)
https://coinpost.jp/?post_type=column&p=102093 (2024-01-07アクセス)

こういうことが現実的なのか,という声は出るでしょうが,現実に我々は現金・クレジットカード・電子マネー・コード決済・銀行振り込みなど「複数の支払い方法の中から都度都合のいい方法を選択して」支払っていることを思うと,日本円と(何かしらの)暗号資産で支払いを都度都合のいい方法にて切り替える,ということは「慣れれば」あり得ると思われます。そのためには,日本市場だけに留まらず色々な通貨圏の市場を相手にする形を取ることが条件の1つとして考えられます。

こう見ると,暗号資産を決済手段とする世界は日本だと直ぐには訪れないが,「日本市場だけを相手にはしていられない」状況や「少額の商品が大事になる市場を育てる必要がある」状況などではあり得る,ということが分かります。日本に限らず,現地通貨が比較的安定している国・地域の場合には或る程度類似の状況が言えます。

ではこういう世界でも来ないと暗号資産による決済は普及しないのか,という部分について,複数の観点から確認する必要があります。

まずは決済の「裏側で」暗号資産が使われる世界になる側面です。実は現在の銀行口座を利用した決済については,時間もかかり手数料も高く,送金ミスの可能性をカバーできるような手数料が確保されている側面があります。深夜・早朝などでは銀行口座による送金・決済ができないときもあります。

日本だと100万円以上の送金は銀行を経由した送金法でなければならないことが資金決済法で決められているのですが,それでは手数料が掛かり過ぎるから,1円に「ほぼ」等しくなるように設計した1 coinを基に暗号資産の手段で銀行内などを送金できれば,というのが当時三菱UFJ銀行系のMUFGグループでMUFG coinとして構想されていたものです。

また銀行を利用した国際送金の場合にはSWIFTという仕組みを利用したコルレス勘定取引という手法を使うのですが,全ての銀行が直接つながっている訳では無い関係でどういう経路を利用するか分からないため,その分だけ時間も手数料もかかり,送金ミスの可能性も上がります。

こうしたことへの解決策の1つとして現在構想されているのが,全ての銀行を,もっと言えばあらゆる金融を1つのネットワークに繋いでしまおう,というのが「価値のインターネット」を標榜するリップル・ネットワークというものであり,XRP(旧・リップル)という暗号資産を利用して送金するので即座に送れて,手数料も送金ミスなども減らせます。リップル・ネットワークは銀行に限らずあらゆる金融を繋ごうとしているのですが,暗号資産の技術を使って銀行間だけでも繋ぐ類似の構想としては色々あります。三菱UFJ信託銀行から独立したprogmat構想もリップル・ネットワークなどに類似の構想の1つと言えます。このように裏側で活用する可能性があります。
https://progmat.co.jp/index.html (2024-01-07アクセス)

次に,何らかの意味で価値を安定させ,暗号資産の技術を使っているステーブルコインを利用した活用が考えられます。先ほど昔の構想とだけ紹介した旧MUFG coin構想もその1つであり,1 coinを「ほぼ」1円で固定し,(電子マネーや通常のコード決済などと違い)厳密な1円ではないので暗号資産の持つ「1円より細かく分けて支払える」性質も活かせます。とはいえ,こうした特有の性質を活かさない分野においては「コード決済に似た支払い手段が1つ増えるだけ」となるので,決済手段として浸透することは難しいと考えられます。

但し,ステーブルコインではどの方法で安定させるのか,というのはかなり大きな課題です。担保を取らない無担保プログラム型ではそのプログラムのバグにより急に価値が崩れる,というのはかつてテラUSDという米ドルに固定しようとした事例で知られています。バグの全くないプログラムなど複雑なものでは有り得なく,その意味では非常に懸念される所です。実際にステーブルコインに対する法制化の中でも無担保プログラム型については価値が安定しているとは見做さない,という事になっています。

法定通貨担保型ステーブルコインというものもあり,世界で最も有名なステーブルコインであるテザーやUSDコインなどはこちらに当たります。日本ではJPYCなどがあります。色々な方法が有りますが,発行する度に担保として米ドルや日本円などの法定通貨を積んでおく,香港ドルのカレンシーボードに近い方法を取るのが有名です。しかし,それぞれの機関で確保するという場合には,実は裏で使い込むなどの危険性もあり,実際にテザーは1度裏付け資産の一部がビットコインに変わっていたことが発覚して値崩れを起こしたことがあります。当時は米ドルのCP(コマーシャルペーパー)という短期債務を確保し直して価値の安定は戻りました。

なお,そうした使い込みを防ぐために「裏付け資産を他に委託する」ことで価値の安定を崩さないようにした民間デジタル通貨というやり方もあり,日本のDCJPYや先ほど触れた旧リブラ構想などはこの民間デジタル通貨と言えます(「通貨」と付いていますが,強制通用力を持っている訳では無いことには注意が必要です)。

また,USDコインのように「発行元に非は無くても」裏付け資産としていた銀行預金がその銀行の破綻により揺らいだ場合,一時的に値崩れを起こす事例も有ります。2023(平成5)年春のシリコンバレー銀行に始まるUSA(アメリカ合衆国)での相次ぐ銀行破綻ではこのような一時的値崩れが起き,銀行預金が再度保証されるようになってからUSDコインの価値は再度安定するようになりました。

これらの事からステーブルコインの形で暗号資産独自の特性を活かして決済手段に使われる可能性はあり得ても,ステーブルコインたる価値の安定を「完全に」保ち続けることは難しいと言えます。

投資についての教育や考え方、法整備について

ー 現在、高校の家庭科で「資産形成教育」が開始されたこともあり、今後、資産形成方法として投資が徐々に浸透してくると思われます。しかし、すでに成人している方などは投資についてまだ学ぶ機会が限定的なために「危険」「リスクがある」と考える方が多くいると思います。また、情報弱者を狙った詐欺も横行している状態です。仮想通貨分野などはなおさらです。
このような中で若者と接することの多い教授は、どのような教育や社会の考え方、法整備に進んでほしいと考えられていますでしょうか?

OGAWA先生:決済手段は「日本円だけではない」という所をしっかり認識させ,日本在住における日常的な決済は日本円関連で行うにしても,資産運用をはじめとして日本円以外の手段が存在し自分で選べることを理解した上でリスク分散の1手段として日本円以外の保有手段を入れることを取り入れていけば,暗号資産も外貨の1種として理解できるようになるのではないかと思います。

資産形成という分野は確実に間違っていることは有っても,確実に正しいことのないのに結果主義な所がある分野です。そのため,これはすべきでない,あれはすべきでない,ということは伝えられても,それだけでは面白くはありません。かといってこうすると良いという説明をしてそれが100%結果を出せるわけではないため,その方法を基にしてはじめに試して失敗した場合には「先生の嘘つき」という状況になりかねない,という部分があります。とりわけ資産形成はお金がかかるため,単に良い結果が出なかったではすみません。この点を踏まえて説明をする必要があります。

1例として資産運用の基本的な方法の1つである,同じときに同じものを(日本円で)同じ額だけ買う「ドルコスト平均法」を取り上げましょう。2024(令和6)年に新NISAが旧来の「つみたてNISA」を基に設計されていることを踏まえても,ドルコスト平均法の重要性は論を待たない訳ですし,実際に私も講義で取り上げることは有ります。しかし,そのときにはまず「この方法は最善の方法でも最良の方法でもない」ということは伝えます。考えてみればそれはそうです。(有り得ませんが仮に分かるとして)極小値(周辺の時期で見た最安値)に近い所でたくさん買い,極大値(周辺の時期で見た最高値)でたくさん売る方が,同じときに同じものを(日本円で)同じ額だけ買うより儲かるに決まっています。それがいつなのか(違法のインサイダー情報でも使わない限り本質的には)分からないからそうしないだけです。これを伝えておかないと,「もっと儲かる方法あったじゃん」という事になって信頼を失ってしまいます。でもそれだけでは何でこんな方法を学ぶのか分からなくなるため,ドルコスト平均法を伝える意義として「やり方が分かり易い」ことと「値動きを常に見続けていなくてもできる方法である」ことを伝えます。

値動きを常に見続けていなくてもできることは重要です。学生の多くは(具体的にどうしているのかは知らなくても)株や債券を初めとする証券などの売り買いを繰り返してお仕事とするデイトレーダーという方々がいることは知っていますし,デイトレーダーのイメージとして値動きを示すチャートなどをいつも見ているという様子があることは知っています(本来はデイトレーダーにも基本的な情報を利用したファンダメンタル分析をする方も,値動きを重視したテクニカル分析をする方もいる訳ですが,ここではテクニカル分析をイメージとして説明をします)。しかしそのためには平日の9:00 a.m.-11:30 a.m.と昼12:30-15:00(3:00 p.m.)という証券市場の空いている時間帯は「確実に」売り買いの注文を指示できる状態にしておくことは欠かせませんし,他の国での市場や時間外市場なども考えれば寝ている間も常に注意を払い,急なる値動きが起きれば(いつもなら寝ている状況が無理やり起きてでも)いついかなるときにも注文を出せるようにすることは欠かせません。これは昔の火消し(今の消防士)が火事のときにすぐに起きて仕事場に駆け付けられるように1本の丸太を共同で枕にしていた状況と本質的には同じです。平日の9:00 a.m.-17:00(5:00 p.m.)は少なくともお仕事をする人を含めて(それに加えて残業などがある場合も含みます),学生の多くは将来就職をする際には証券市場が空いている時間に常に動ける訳ではありません。本来はテクニカル分析をできる人の方がドルコスト平均法を使う方より儲けられる訳ですが,そのためには値動きのチャートをずっと見続ける必要があり,一般の学生にはそれはデイトレーダーでもない限り難しいということを踏まえて教える内容を選ぶ必要があります。

また「100%儲かるわけではない」ことをしっかり踏まえる事も大事です。ドルコスト平均法を説明するときに一般的に使う設定は下がった後に上がるような値動きを含む想定をしているのであり,破産した後の会社の株価のようにほぼ単調に下がり続ける場合には「同じときに同じものを(日本円で)同じ額だけ買う」ドルコスト平均法では儲かることは有りません。しかし,学生がドルコスト平均法を知った後で試しに手を出してみる株などの会社が「明日破綻する」可能性が0とは言えません。破綻はしなくても,スキャンダルや不正会計などが発覚して或る程度の期間,単調に価格が落ち続けていくこともあります。そのため,100%ではないことを理解してもらうことは大事です。

しかし,そうした一部の極端な事例を除けば,長い間行い続ける場合において,ドルコスト平均法などは実際に使われる方法の1つです。そのため,私はドルコスト平均法に関して,将来あなたの目の前に現れる投資のアドバイザーがどれ位の基本的な説明能力を持っているのかの確認に使えるから知っておいた方が良い,と伝えます。投資を含めてお金の助言をしてくれる人は将来その学生の前に現れる可能性は高い訳ですが,詐欺師の可能性も無くはありません。しかし,ドルコスト平均法なんて投資のアドバイザーを名乗るなら99.9%知っていないとお話にならない基本的な知識の1つです。そのため,実際なら「ドルコスト平均法の基本くらいは知っている」というのを隠して,その投資のアドバイザーに「ドルコスト平均法とかいうものを聞いたことがあるけれども,どういうものか分かり易く教えてほしい」とか言えば,その投資のアドバイザーが本当は基本的な説明能力がどれ位なのか,という事が分かります。知らないことを教えて貰う場合には本当に基本的なことを理解していないのか,説明が下手なのか,自身が理解に足る状況でないのかは判断できませんが,知っていることを改めて教えて貰う場合にはこうしたことが判断できます。少なくともドルコスト平均法さえまともに説明できない人に投資のアドバイスをしてもらうことは避けた方が良いでしょう。

高校の家庭科でももちろん資産形成の基本は学ぶようになった訳で,ドルコスト平均法なども「遠くない将来の学生は」学んでいる可能性が高い訳ですから,旧来のように「あなたたちの後輩は高校で当たり前のように学んで来たが,あなたたちはその狭間期にあるので知っておいた方が良い」という良い方は使えなくなるでしょう。もっとも,こうした高校生向けのドルコスト平均法の説明映像等は色々ありますが,どれ位理解してから高校を卒業するのかは分かりません。
https://www.youtube.com/watch?v=PhMvIsGsL7M (2024-01-08アクセス)

私は資産形成専用の科目を持っている訳では無いので,触れることができるのは半期13-15回ある講義の中で1コマの一部分だけですが,そうした中で少額の投資に対して税金を避ける「NISA(少額非課税投資制度:2024[令和6]年から新制度に変更)」,少額でも分散して投資できプロに資産運用を任せられる「投資信託」,そして「ドルコスト平均法」の3つだけは押さえておくように話して大体終わらせます。

恐らくこうした事くらいは高校で教わった,という学生は近い将来に出てくることでしょう。しかし,学習指導要領で強化したらみんな知っていると仮定してよい,というのは違っています。少なくとも家庭科が受験の一般入試で試験科目になる事例はほぼありませんが,受験で使わなければ教え方を軽視することもあるでしょうし,受験に使わないなら真剣には聞かない,とする高校生も少なくありませんので,少なくとも(高校を卒業する以外の方法で大学受験資格を得るための)高認では家庭科は期待できません。知らない・理解していない場合も出て来ると考えられます。

これは,残念ながらどのような分野においても出て来ます。例えば2021(令和3)年度の頃に学習指導要領の変更で,数学において統計分野が強化され,投資分野でも出てくる可能性がある「箱ひげ図」は高校の数Iから中2へと移されることになりました(数学系の学科を学部では卒業していて中高の教員免許は持っている私はお恥ずかしながら箱ひげ図を知らなかった訳ですが:箱ひげ図が教科書に出てきたのは私が大学教員に初就職した2012[平成24]年頃らしいですから,私は今の職に就いてから知りました)。「箱ひげ図」が何かを知っていれば確実に解ける項目の1つに「箱ひげ図を見て四分位範囲を求める計算」とかについて(数値は8-3のような1桁の引き算で出せるようなものにしています),私の本務校での所属学科の新入生に出してみても正答率は30%を切り,学年の新入生を3クラスにレベル分けする問題で判断材料に使えなかった状況などもあります。そうしたことなども踏まえると,「ドルコスト平均法」などについても一度扱い直しておくことは重要です。教える立場や科目が違う場合には違う見方をしている可能性もありますし。

教育や社会の在り方において望ましい状況とはどういうものか,について答えるのは難しいものがありますが,教育において社会に出るまでに「最低限の使える武器とその使用範囲だけは確保しておかせる」というだけでも意味はあるように思います。もちろん色々な武器・道具が使いこなせればそれに越したことは無い訳ですが,例えばNISA・投資信託・ドルコスト平均法という3つを知っているだけでも,例えばNISAの口座を開いてその扱う中で日経225とか全世界株式などのような「有名な指標へのパッシブな」投資信託に,毎月給料日に1万円ずつ入れるとかは社会に出たら恐らくは出来るようになります(やるかはともかくとして)。それだけで全部とは思ってほしくはない訳ですしリスクも有りますし最善ではない訳ですが,それでも最低限のことは出来るようになります。他の方法,例えば暗号資産取引などの場合には雑所得で一定の範囲を超えると確定申告は必要になりますが(暗号資産にはそれはそれで別の魅力がありますが),NISAを使うと大概の場合には確定申告も避けられますので,その後のことはやっていく中で学んでいけば良いことになります。

またドルコスト平均法の基本を押さえておくだけで,例えばそのNISAの口座を開いた金融機関でそのときに担当者として付いた人が「ドルコスト平均法っていうのがあると聞いたから,その基本から教えてほしい」と話すだけでどれ位基本的な説明能力を持っているのか,他から勧誘された場合にその人がどれ位基本的な説明能力を持っているのか見極められる,というのは助かります。少し手の込んだ詐欺師ならドルコスト平均法位は当然説明できるようにしてきている訳ですが,素人を鴨にするだけで実際には本当に投資のイロハもまともに説明できないという素人詐欺師なら防げる訳です。

少し話はそれますが,私は自分の受け持っている国際経済の講義の国際金融の部分で,国際金融では普通は扱わないが投資などの分野でも触れることがある「外貨建て保険」について扱うようにしています。それは私が今の職場に来て1年目(2015[平成27]年)に外貨建て保険は勧誘を受けたことが背景にあるのですが,そのときにやってきたジブラルタ生命の人などに色々教えて貰って(講義用に)こういう原稿なども書いた訳ですが。
https://doi.org/10.34360/00012419 (2024-01-08アクセス)

この単元を入れるようにと考えた背景には,社会人1年目で外貨建て保険は勧誘される可能性があるという部分が大きいです。私は転勤1年目で勧誘を受けた訳ですから。

当時は今と違い,銀行が投資信託に代わって仲介商品として外貨建て保険に注目していた時代ですが,外貨建て保険には色々なあくどい勧誘も横行していた時代です。それらが色々問題視されて,外貨建て保険には生命保険協会による(自主的な)販売資格が2020(令和2)年には作られ,2022(令和4)年度には(取っていないと生保協会所属の保険会社の外貨建て保険は販売・仲介できないという意味で)義務化された訳ですが,その際に作られた販売資格の試験のテキスト等を譲ってもらって見せて貰った経験から法整備などのあるべき姿として言えることは有ります。
https://doi.org/10.34360/0000013598 (2024-01-08アクセス)

まずは販売・仲介する当事者もちゃんと最低限の知識を身に付けさせ,販売前に説明させる義務を(法的に)課す重要性は有ります。暗号資産にも言える事ではありますが,外貨建て保険では実はこの点は物凄く重要でした。私が「国際金融を扱う科目で」国際金融には通常ない外貨建て保険を扱う,とした背景には,外貨建て保険が国際金融に欠かせない「外国為替レート」とりわけ「名目為替レート」を扱う上で優れた特性があることがあります。旧来の日本円建ての保険の販売においては,外国為替レートの変動が与える影響は知らなくても商品内容を説明できます。そのため,外貨建て保険において必須な為替レートの変化が与える影響を理解していない保険販売員も(元々外貨建て保険を扱っていた保険会社の関係者でも無い限りは)少なくありませんでした。販売員も知らないから契約する人も理解しないまま契約し,それで悲しい行き違いとなります。試験を通ったから直ちに説明不足の事案が全部無くなる訳ではありませんが,知らないことを教えることはできない部分があります。例えばビットコインで使われるProof of Workとはどんなことなのか,全く説明できない人が暗号資産の販売をすることは流石に無いでしょうが,購入者が初めて手を出す前に殆ど説明などの講習をうける機会もないまま買えてしまうことはやはり問題なのではないかと思います。初めて手を出す前に何かしらの講習を受けられる機会を確実に提供する,というのは大事なように思います。

投資全般での法整備,という観点では,マイナンバー制度をせっかく入れている以上,NISAを使わない残りの部分でも確定申告で逐一計算しないといけない状況は改善してほしいように思います。証券投資,FX,暗号資産,不動産投資などをはじめ色々な投資・投機手段はありますが,その中には逐一確定申告で手計算をしないといけないものもあります。個人間取引や交換業者を介さない暗号資産取引など,把握しきれないものはあるでしょうから,それは残っても仕方ない部分があります。しかし,例えば暗号資産の確定申告などは逐一手計算するには結構複雑な方法が必要で,暗号資産が雑所得と扱われる形になった当初は税理士の多くも迷ったと言われているのですが,交換業者との取引で全部把握できる場合,交換業者には基本的にマイナンバーを出している訳ですから,その取引履歴から暗号資産での取引による収支を自動的に確定申告では把握してほしいと思います。こういう在り方は保険証がマイナンバーカードに変わる中で,医療機関や処方箋薬局にもマイナンバーカードでの受付をすることで確定申告時にマイナンバーカードでアクセスをすると自動的に反映されていることを思えばできる筈です。不動産取引ではなおのことです。不動産取引ではほぼ全て,取引は公的に把握可能なわけですが,定型的な作業であるにも関わらずほぼ確実に手計算をしないといけないようになっていて,税理士などにお仕事の集中する時期が出てくる原因となっています。例えば不動産の管理会社などで自動的にやっておいてくれるなら,面倒も減り計算ミスも無くなるように思います。この場合,管理会社側が税理士事務所に委託するなり税理士を雇うなりすれば良いので,税理士のお仕事が減る,という心配は減ります。それでは税額上問題,という場合だけ手動で切り替えればよいように思います。投資全般を活性化するには,投資に関する税務を利用者から解放することも大事だと思います。

次に,法整備という観点では暗号資産の税制をもう少し雑所得から切り替えて欲しいと思います。雑所得では余りにも税率的に望ましくありません。かつてなかった項目のため処理しきれなかったから雑所得に入れているわけで,もうそろそろ項目として独立させるべきでしょう。

ブロックチェーン技術の社会的浸透について

 暗号資産の技術・特にブロックチェーン技術は、これから私たちの生活にどのようにかかわってくる可能性があると思われますか?

OGAWA先生:ブロックチェーンおよびその周辺(例えばリップル・ネットワークに使われるXRP Ledgerなど)を含めた広義の「分散型台帳技術」で,という言い方にしますが,改ざんが困難な記録のための手段があると助かる分野への活用では様々出てくる一方,各地に保存を必要とするため社会全体では多くのリソース(保存場所)を使ってしまうことから「日夜情報が書き換わり過去を振り返らない分野」では活用可能性は低くなると考えています。他方で「オリジナルの」ブロックチェーン技術については,やがて「多くの人が上位互換と認識するものが登場した段階で」廃れていくのではないでしょうか。

分散型台帳技術は「改ざん意欲を削ぐ」というやり方で本来,一度証明したものは改ざん困難になるという技術です。完全ではないにせよ,「一度証明したものは改ざん困難」という特性には非常に強いものがあります。

例えばWikipediaが分散型台帳技術上に移されたとしたら,大事な情報が消えてしまって,ということも防げることでしょう。Wikipediaには誤りの情報もまだ少なくありませんが,それでも貧困国における教育の手段の1つとして重要な役割を持ちつつありますし,Wikipediaにしかネット上では整理されていない公開情報も少なくありません。この情報が現状では色々な人の手によって「消される」などの可能性があり,対立ががっつりしている場合には改変ストップが設定される訳ですが,そうでない場合には誰かが消してしまったとしても普段は気付かれないでしょう。ところがWikipediaが分散型台帳技術に移されれば,ここにこういう記載があった,ということの確認もし易くなるでしょう。現状のWikipediaも或る程度は履歴を確認することもできますが,初見で完全に確認することは難しいですし,そもそも整理された記載の改変は改変跡でも無い限りは気にしないでしょう。

例えば「自分の履歴を証明する」という場合にも分散型台帳技術の活用はできると思われます。大学教員のお仕事の中には就職応募の際に「それまでの教歴・研究歴の全項目において在籍証明できる項目を出すこと」が求められる事例があります。教歴とは専任教員・非常勤講師問わず学校の教員としていたことの経歴,研究歴とは研究員・研究生を含めて研究する・できる立場にいたことの経歴を指し,研究生とは大学院などで正規の院生以外の立場で(正規の院生よりは安い)学費を払って研究をでき大学院の施設設備の利用権を確保する立場を指します。私の場合だと大学院を出た後,1年間は(出身大学院独自の,奨学金はあっても収入は無い)研究員をしていた時期があり,他に近隣大学の非常勤講師を紹介して貰ったときや,或る独立行政法人の研究所のリサーチ・アシスタントをしていた時期があり,その証明書を全部その当時の機関に依頼して確保して出した形になります。実際には証明書を確保できない場合は「履歴書に書かない」ことで対処するのですが,そこで空欄になってしまうと困る場合も有ります。

こういうときに「普通はHPでも確認すれば大学や研究所などは分かる」という人には1つ紹介をしておく必要があります。皆様は「国際信州学院大学」というジョークサイトをご存じでしょうか。
https://kokushin-u.jp/ (2024-01-08アクセス)

「大学」を名乗っていてHPもあるのですが,このような大学は存在していなく,ジョークでHPが作られているサイトになります。結構手の込んだ作り方をしているので,実際にぱっと見ただけでは実在しないことは気付かないのではないでしょうか。こういう可能性だけでなく,条件を満たした在籍が怪しい事例なども考えられます。そのため,証明を求める事例が出て来ます。

一般のお仕事で先ほどの要求と似たような状況を想定すると「それまでの職歴を『パート含めて』全項目において証明できる項目を出すこと」というような要求なのですが,ここでその証明ができなかったらどうすればいいのか,という心配が出てくるかもしれません。吸収合併された会社とかなら残った会社が履歴を引き継いでいるでしょうし,大学等の場合も多くは吸収合併などを取るのですが,例えば10年前にどこにも引き継がれずに倒産した会社にて20年前から15年前まで勤めていた経歴というのはどうやって証明すれば良いのでしょうか。例えば当時の社員証や給与明細,採用辞令などを無くしていたら証明は難しいものがあります。会社によってはどういう経歴であろうが技術や知識・体力などがあれば問わない,という会社もあるでしょうが,お仕事によっては資格や経歴が必要になるものもあります。こういうときに分散型台帳技術にその情報が載せてあれば,在籍した証明ができたときがあり,一旦証明したものは改ざん困難なので,証明をすることができます。

一旦証明したものは改ざん困難という特性は,他にも製造物の製造履歴にも適用できると考えられます。トレースアビリティ(追跡可能性)はEU等に食品関係の輸出をする場合にも大事になる項目なのですが,追跡可能性が1番大事になるのは問題がおきた場合で,食品を例にします。例えば食中毒や異物混入などの事例があったとします。この場合,この会社は再発防止等の観点からどの工場のどのレーンでいつ作られたか,とか,どこから仕入れた原材料でどういう製造・補完方法をしていたか,ということが大事になります。しかし,こうしたことが起きて問い合わせられた段階,もっと言えば「報じられた」段階でその追跡履歴を基に物凄く責められる訳で,管理費用も供給側持ちであることなども考えると履歴を正確に保管するインセンティブは供給側などには持てない部分があります。

こういうときに分散型台帳技術を使えれば,管理費用を供給側が持つ必要は無くなります。IoT (Internet of Things)を使って入出荷に対して自動的に記録を入れる事で,日付等の改ざんも困難になります。こういうことを法的に義務化できれば,分散型台帳技術なら(匿名通貨で使われている方法などを除けば)製造記録などを正確に残せ,改ざん困難にでき,誰からも確認し易くなります。

また,環境・資源の分野などでよくある事なのですが,森林におけるFSC認証,天然漁獲におけるMSC認証,水産養殖におけるASC認証のように何かしらの意味で持続可能性に配慮した製品であることを「まともな」第3者機関からお墨付きを貰ったことを示す「認証」には必ず,その認証されたものについて輸送の最中でまがい物が紛れ込まないというCoC認証というものが必要になります。このCoC認証は本質的にトレースアビリティ(追跡可能性)なので,あまり認証機関からは認められてはいませんが分散型台帳技術を利用することで費用を抑えることは原理的には可能になります。現状ではブロックチェーンを含む分散型台帳技術を活用できる組織がまだ少なく,その利用にかかる費用が高いため使われていないのですが,それは技術を使える組織が少ないことによる技術の囲い込みの問題があるからであり,本質的には普及すれば解決する問題と考えられます。

イーサリアム・ブロックチェーン以降の分散型台帳技術にはスマート・コントラクトを多くでは取り入れています。スマート・コントラクトでは契約の自動執行の側面があり,文書ファイルや音声・画像・動画等のオンラインに置ける物とイーサ等の当該ブロックチェーンに対応する暗号資産が揃ったときに自動交換がなされ,その交換記録が残る形になります。Suicaなどで自販機の飲み物を買うような感じに思ってもらえれば構いません。

このスマート・コントラクトを活用することで,少なくともオンライン上のものに関しては片方が揃わないときには交換はなされないので,物だけが持っていかれる事も対応する暗号資産の形をした「お金・支払い手段」だけが持っていかれる事もありません。法的な整備と組み合わせて義務化することで,所有権を明確化して詐欺を防ぐことも出来ます。

ただ,ブロックチェーンを含む分散型台帳技術は記録を保存しておける反面,多くのコンピュータに同じ記録を残す必要がある分,例えばローカル保存やクラウドなどと比べて数多くの資源を使ってしまう部分があります。そのため,一時的な保存で済めば構わず,長期的に記録を残しておく必要のない記録には使う必要も無ければ使うべきでもありません。日夜情報が書き換わり過去を振り返らない分野には使われない,ということです。

そしてビットコインのオリジナルなブロックチェーンについては,より優れた上位互換となる分散型台帳技術が多くの人に認識されることで,何れ廃れるべきですし廃れるだろうと考えています。

ビットコインのオリジナル・ブロックチェーンは,2017(平成29)年に価格が約20倍になった段階でビットコインで支払われるブロックの接続費用も約20倍となるため,当時は接続処理されない取引履歴が色々登場して問題になったことが「チェーンに残さないまま取引をするための」ライトニング技術発展の鍵になった1つとなりました。ビットコインのオリジナル・ブロックチェーンはブロックチェーンのトリレンマつまり同時に成り立たない3つの項目を考えると,分散性(非中央集権性)と安全性を確保するために,1度に処理できる件数に強い上限が有ります。色々なその後に登場してきたものにはビットコインより知られたものが無いため,暗号資産の時価総額では未だにビットコインが大きく占めていますが,ライトニングが延命手段となったとはいえ処理件数の上限の問題はこの後に使い続けることを考えれば「上位互換のものが出てきたと多くの人が認識することで」置き換えるべきものである,と言えます。情報系の方にはあまりまともに取り合ってもらえない事が多い種類の,ビットコインへの批判の1つにマイニングでの電力消費総量の大きさがあるのですが,ビットコインが登場して10年以上経ち,その間にも色々な分散型台帳技術が登場しているのにオリジナルを使い続けることの問題点は大きいと言えます。

比較対象として大事になる1つにリップル・ネットワークで使われているXRP Ledgerという分散型台帳技術があります。XRP Ledgerでは鍵となる暗号資産にXRP(旧・リップル)があるのですがXRPは総量が決まっていて,その総量は全て発行されていて使われていく毎に少しずつ消えていくという特性が有ります。このためXRP Ledgerが永続的なシステムではない訳ですが,XRP Ledgerの後により良い仕組みが作られた場合,先に登場したものが有名でなかなか換えられない,という状況を防げます。ビットコインのオリジナル・ブロックチェーンにはこの視点が欠けています。

暗号資産の長期的投資について

ー 今暗号資産は「短期的な投機」がメインの投資方法だと考えますが、今後ブロックチェーンなどの技術面の将来性に着目した長期的な投資の側面も出てくる可能性はあるでしょうか?

OGAWA先生:もちろんあります。「1度証明してしまえば改ざん困難で」「保存コストを本質的には自分で負担しなくてもよい」保存場所という強みは強いものがあります。

例えば現状,NFT(非代替性トークン)についてはその保存場所としてイーサリアム・ブロックチェーンが使われることが多いのですが,その「ガス代」と言われる登録の費用が問題になっている部分がありました。当時イーサリアム・ブロックチェーンはProof of Work型を取っていたので,電力等の費用が掛かっていた部分がありました。この問題は登録費用が本質的に抑えられた分散型台帳技術でNFTに向くものが登場して来れば済む話です。NFT自体の一時的なブームは過ぎましたが,こういうものを管理できる組織を作り,その資金を集めるなどの観点では長期的な投資の1例となるものと思われます。

暗号資産を用いた分散型台帳技術を新規に設計するときや,既存の分散型台帳技術を活用した新規項目を設計するには,それだけの「目的」を持って設計します。日本ではあまり有名ではありませんが,例えばカルダノADAという暗号資産は公平な賭け事が出来るように,という下で設計されています。将来的には保険等にも活用できる側面があります。

他にもEnigmaの2key networkは「報酬の自動配付」を想定して設計しています。
https://www.2key.network/new-lang/japanece (2024-01-08アクセス)

インフルエンサーの業界にこの方法を活用した場合,実は2 key networkではこのようなことが可能になります。少し古いのですが次の記載を参考にします。
https://cue.moneyforward.com/onbit/news/142/ (2019-03-31アクセス)

多くの人たちに情報発信のできるインフルエンサーと呼ばれる人自体が自分で全ての情報を集めるには無理があり,色々な情報を集めてくる人と分業することが考えられます。いま,広告主Aは何かの商品を出したいとするが,インフルエンサーCに直接の連絡を取る手段が無く,広告主AがSNSやHPに出した情報を情報収集屋Bが見つけてインフルエンサーCに渡し,インフルエンサーCが紹介した結果,消費者Dがその商品を知って購入した,という様な場合を考えます。この消費者Dはこの情報をインフルエンサーCから知らされたからこそ買った訳ですが,この情報は情報収集屋Bが集めてきたからこそ出せた情報です。ところが,消費者Dは広告主Aには直接代金は払いますが,情報収集屋Bとは直接の接点が無いため,情報収集屋Bには何の報酬も支払われない事になります。ここで2key networkを活用して最初に設計しておくと,消費者Dが広告主Aに2key networkを活用した方法で代金をお支払いすると,自動的に情報収集屋BとインフルエンサーCにもその報酬の一部を一定割合で自動で分けてお支払いできるようになります。こうすると,インフルエンサーCは「探してくる」ことが必要なくなり,情報発信に集中することができますし,情報収集屋Bにも集めてくるインセンティブが働きます。広告主Aが直接インフルエンサーCに連絡を取る事例もあるでしょうが,全部直接受けていたら割に合いません。こういう仕組みが無いとしたら,BはCのマネージャー契約等をして囲い込むなどしない限りうまく回りませんが,そうするとときに重要な情報をくれる外部の人,という場合にはBの役割を果たすことは難しくなります。

こういったものの想定を思うと,目的によっては設計・管理をすることは長期的な投資対象となるのではないでしょうか。

ひょっとしたら2key networkは「利益もリスクもちゃんと両方とるように,という観点から,利子などは認めていないが営業などは認め,損益分担型を大事にする」イスラム金融などでも使える在り方になるかもしれません。その意味では西側諸国とは違う所で長期的な投資対象となる可能性もありえます。

暗号資産投資初心者が「まずやるべきこと」

ー 初心者が暗号資産へ投資する際に「最初にしなければいけない事」「学ぶべきこと」などがありましたらご教授いただきたいです。

OGAWA先生:恐らくは取引所・販売所などの交換業者から最初は手に入れるのではないかと思います。そうするとマイナンバー関連の情報の確保などを通した本人確認,及び翌年の確定申告での雑所得への反映(雑所得の合計が一定金額以上の場合)という「義務的な」最初にしなければならない事がある,ということは断っておくことにして,ありきたりですが最初にしなければならないことは「勇気を出して『少し』初めて持ってみること」に尽きます。事前の勉強は大事ですが,少し持ってみないと分からないことは色々ある一方で,いきなり高額をつぎ込むということは決してお勧めできません。ちゃんと「何をしているのか」理解してから自分の目的に応じて必要なら増やしてみる,という事になろうかと存じます。

しかし暗号資産を「持つ」に当たって「学ぶべきこと」は数多く有りますし,(単に持つのとは違って)暗号資産に「投資する」場合にはもっと「学ぶべきこと」が有ります。まずは「持つ」段階で,暗号資産の源流であるビットコインなどの記録場所であるブロックチェーンが「何故」改ざん「困難」となっているのか,改ざん「不可能」ではなく改ざん「困難」と説明しているのか,その「改ざんする意欲を削ぐための工夫」については仕組みとして知っておくべき所と言えます。オリジナルのブロックチェーン技術は,電子署名などの部分や分散に関わるP2P(Peer to Peer)技術については既存の技術を活用している部分が数多くございます。ブロックチェーン独自と言えるのは「皆で監視するための」手段であり,ビットコインのオリジナル・ブロックチェーンではProof of Work(仕事量による証明:PoW)と言われる部分になります。この部分が改ざん「困難」にするための「改ざん意欲を削ぐ」ための根幹であり,このPoWが電力利用批判などに繋がる場合も有れば,ビットコインの価格が大きく値崩れした後に中堅的なPoW型暗号資産が攻撃にさらされる原因になるとして,イーサリアム・ブロックチェーンなど賢明なブロックチェーンがPoWから切り替えていったきっかけになった部分です。

(単に持つだけでなく)暗号資産に最初に「投資する」場合には,他の暗号資産を基に新規に発行される暗号資産(トークンと呼ばれている筈です)に交換していく形になるのですが,トークンはあくまで「記念品」のようなもの,と捉える方が望ましく,その記念品が「価値を持つようになったら」交換できるようになる,というだけで,それまでは上場の見込みが無く交換もできない株以下の存在と思っても当面は差し障りありません。そのため,その新規の暗号資産(トークン)が何故発行されたのか設計書(ホワイト・ペーパー)をしっかり読み,その発行で集まった価値で行う事業や未来の姿に意味があるかどうか,(持ち逃げやねずみ講と変わらないような)何かおかしな構図になっていないか,などの確認は非常に大事になります。

あとは,その交換業者がどんな暗号資産を扱っていて,その暗号資産はどんな特性・目的があるのか読んでみる,ということは買う前にすべきことでしょう。例えばイーサリアム・ブロックチェーン上の暗号資産であるイーサは本来「お金」として設計されたものではない側面がありますが,そうしたことなどを知らないと単なるよく分からない値動きするもの,でしかありません。その意味では,最初は「自分の頭の中で処理できる種類数を扱っている」交換業者の方が良いでしょう。その意味では世界最大手と目されているバイナンスという交換業者を最初に手出すという選択はあまり望ましくはないものと思われます。バイナンスは物凄く多くの種類を扱っているので,全部読み切れない,という事になりかねないだけでなく,他の業者では扱いそうにないもの(草コインと言います)でも扱っている事例があるため,いきなりバイナンスだと少し問題があります。ちなみにバイナンスは一時期日本向けの本人確認の対応を嫌ったことがあり,日本では一時期正規の交換業者として扱われてこなかった時期がありました。

ちなみにUSA(アメリカ合衆国)でビットコインの現物ETF(上場投資信託)が認められるかどうかが2023(令和5)年第4四半期は結構この手の界隈で話題になったことの1つではありました。直接手を出すのは…という場合にはこうしたETF(上場投資信託)が登場するのを待つ方もいるかとは思いますが初めは仕組みを学ぶためにも自分の手で「少し直接」買ってみてから,の方が良いように思います。

暗号資産の将来性について

ー 最後に暗号資産の将来性について教授がどのように考えられているかをお教えいただけないでしょうか?

OGAWA先生:暗号資産にしかできない事がある,ということを理解し,しっかり活用していくことが何よりも大事と考えます。
 まず「暗号資産の将来性」と「ビットコインの将来性」は分けて扱う必要があります。

「ビットコイン自体の将来性」について,現状は(マイナーな通貨同士の交換には米ドルを間に噛ませるように)暗号資産同士の「媒介通貨」的な役割をビットコインが担っていることもあり,ビットコインの価格で暗号市産業界全体の将来性を見る,という発想を持つ人がいますが,先にも述べたようにビットコインは2009(平成21)年に登場して既に10年以上経っていて,その間に色々ビットコインを見て新たな暗号資産,新たな分散型台帳技術が登場してきている一方でビットコイン自体は(ブロックの承認にかかる時間の長さや1度に処理できる件数の上限,電力消費量の問題等)色々な問題点を抱えていることを思えば,ビットコイン自体に将来性を見出すというのは避けるべきと思われます。あくまでビットコインは分散型台帳技術の基となるブロックチェーンの最初の走りを生みだした「歴史的価値」があるだけであり,他に上位互換となる暗号資産・分散型台帳技術が登場して多くの人が認識すればとってかわられるべきものです。ビットコインの価格が短期的に上がるか下がるかは分かりませんが,上位互換の決定版と思われるものが登場し,皆に認識された段階で先細っていくように思われます。今すぐに来るとは思いませんが。

一方で,暗号資産の将来性は(一時のブームは過ぎ,FTXのサム・バンクマン=フリード容疑者のように詐欺まがいの事例もあった訳ですが)ちゃんと明るいと私は考えています。暗号資産にしかできない事が色々有り,社会をこういう形で変えたい等をアイディア次第で設計することができます。

私は,ビットコインの価格が上がることを狙って持つ,ということを期待することはあまり良いことだとは思いません。これは私個人がビットコインの先物ETFには賛成する一方でビットコインの現物ETFには心情的には反対の気持ちを持っているのと絡みます。株や債券などはその資金で企業を応援する側面があり,市場で株や債券を買う事でその役割を代わって担う側面があり,代われる形を取っておかないと最初に資金を出す人が出せなくなるから,ETFのような投資信託に組み込む意味はあります。変動する価格に対して自分でリスク・コントロールをする観点から,先物ETFはビットコインにも認められるべきとは思います。個人で先物市場に手を出すのは難しいと感じる人もいるでしょうから。しかし,国際送金などの可能性のように元々ビットコインが注目された理由については,いまビットコインが最も当てはまるとは言い難い面が有ります。もっと良い暗号資産はこの間に開発されています。ビットコインをいま買ったとしても,ICO(Initial Coin Offering)やIEO(Initial Exchange Offering)のように「何かの事業に繋がり,その事業を応援する」ことにはなる訳ではありません。あくまでビットコインの現物ETFは「営業の自由」の観点から売り方にも自由があってよいのでは,という論理から登場すると考えられます。もっとも,次のリンクのようにポートフォリオ上の観点から現物ETFを求める声はあります。
https://www.coindeskjapan.com/211451/ (2024-01-08アクセス)

暗号資産自体の将来は全体としては明るいと思いますが,交換業者に既に並んでいる特定の暗号資産を「将来の値上がりを狙って交換業者から手に入れて」数か月~数年持つ,という考え方(ガチホと言います。ガチ・ホールドの略です)に関しては,あくまで「その」暗号資産の目的に心底納得した場合だけにした方が良いでしょう。暗号資産それ自体は株のように配当金が出るものでもなければ債券のように期間満了まで持ては幾ら幾ら返ってくる金額が決まっているというものでもありません。もしそれをやりたいなら,持った後で自分なりに色々勉強して,「自分の責任で」そういうことを紹介するようにHP・ブログ・SNSにでも(HPやブログならその基リンクも貼って)投稿する方が余程良いように思います。そうして裾野を広げて行けば,将来の値上がりのきっかけになるかもしれませんし。とはいえ中にはZcashのように「プライバシーへの配慮」をしっかり設計し過ぎた結果(匿名通貨と言います),犯罪利用の際の追跡が難しくなるとして日本の交換業者からは追放となったものも有ります。あなたの目が曇っていたなら,必ず儲かるなど「おかしなことを書いていた場合は」一緒に叩かれますことは断っておきます。私も少額は何種類か暗号資産を持っていますが,講義で扱うときに勉強するきっかけとして持っている部分があり,あとはリスク分散などの観点だけです。

実はそういう「紹介の投稿をする」事例がその後に他の人に役立つ,という例を最後に紹介しておきます。私が講義でリップル・ネットワークのお話を取り上げるときに紹介するHPが有ります。
https://okanefuyasuzo.muragon.com/entry/18.html (2024-01-08アクセス)

このHPはリップル・ネットワークなどの意義をこの人なりに学んで理解した範囲で,分かり易く紹介しているため,私は講義では触れるようにしています。あなたがしっかり学び,そして「しっかり理解した範囲で」分かり易く紹介することは他の人のためになる可能性があります。もっとも,色々な記載の中にはポジショントークに近いものも有りますので,「しっかり学ぶ」ということは強調しておきますが。先の2key networkは当時のゼミ生に2019(平成31)年初頭の頃に教えてもらったものですが,例えば日本語での紹介記事というのは2024(令和6)年初頭現在でもなかなかネットで見かけることはありません。

ブームに乗るだけではなく,しっかり意味を理解して扱えば暗号資産は物凄く色々な可能性を秘めているものです。

ー 本日は貴重なご見解ありがとうございました。

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この記事を書いた人

JinaCoin編集部です。JinaCoinは、株式会社jaybeが運営する仮想通貨情報専門メディアです。
正確性・信頼性・独立性を担保するため編集ガイドラインに沿って、コンテンツ制作を行なっています。
一般社団法人 ブロックチェーン推進協会所属

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