DeFiのLP(流動性提供)で得られる手数料収入は魅力的ですが、ETHのようなボラティリティの高いトークンを含むペアでは、IL(インパーマネントロス:価格変動によって生じる、HODLと比較した損益差)に悩まされた経験のある方も多いのではないでしょうか。
そんなLP運用の課題を緩和する戦略の一つが、Perp DEX「Hyperliquid(ハイパーリキッド)」を活用した「デルタニュートラル戦略」です。本記事では筆者自身が約$1,000の実資金を14日間運用し、APR約70%・IL影響ほぼゼロという結果を得た実体験をベースに、戦略の仕組みから始め方、見落としがちなリスクまでを「手動運用」ベースで解説していきます。
デルタニュートラル戦略とは|LP×Perpショートで生む価格中立な収益構造
デルタニュートラル戦略を理解するために、まず「デルタ」という言葉から押さえておきましょう。
デルタとは「価格変動に対する感応度」のことです。例えばETHを1枚保有していれば、ETHが値上がりすれば利益、値下がりすれば損失というように、価格にリニアに反応します。
LPでETH/USDCのようなペアを提供することは、実質的に「ETHのロングを部分的に持つ」のと近い性質を持ち、LPには「ETHのデルタ露出」が内包されています。
Perp DEX(永久先物:満期のない先物取引が可能な分散型取引所)でのショートポジションでこのロング露出を打ち消す——これがデルタニュートラル戦略の基本的な仕組みです。

ロング側はLP、ショート側はPerpという分業構造によって、価格変動の影響を抑えつつLP手数料を取りに行きます。
ただし、ここで一つ重要な前提を共有させてください。本記事で紹介する筆者の実例は「50%ヘッジ」、つまりLP内のETH量の半分だけをショートで打ち消す「部分ヘッジ戦略」です。完全なデルタゼロを目指すのではなく、ヘッジ比率を意図的に抑えた設計のため、上昇局面ではヘッジ損失が発生し得る非対称性を持ちます。詳細は記事末尾のリスク管理セクションで解説します。
なぜHyperliquidがこの戦略の中核になるのか
デルタニュートラル戦略のショート建てに使えるPerp DEXは複数ありますが、本戦略の中核装置として筆者がHyperliquidを選んだ理由は、以下の5つの特性にあります。
なおHyperliquid自体の基本的な使い方は別記事で詳しく解説していますので、初めての方はそちらも併せてご確認ください。
▶ 関連:Hyperliquid(ハイパーリキッド)の使い方完全版【2026年最新】
①オーダーブック型でヘッジ建てが正確
Hyperliquidは多くの分散型Perp取引所が採用するAMM(自動マーケットメイカー)型ではなく、CEX(中央集権型取引所)と同じ「オーダーブック型」を採用しています。注文板に実際の売買注文が並ぶ仕組みのため、スリッページ(注文価格と約定価格のずれ)が小さく、狙った価格でショートを建てやすいのが大きな利点です。
②手数料体系が低水準
Maker・Taker両方とも業界内で低水準(Taker 0.045%程度)。ヘッジ建てやリバランス時の摩擦コストが小さく、戦略全体の採算性を圧迫しません。
③APIウォレット(Agent Wallet)で安全性確保
Hyperliquidには「APIウォレット」と呼ばれる、メインウォレットの秘密鍵を露出させずに発注権限を委任できる仕組みがあります。後々、運用を自動化したくなったときの安全装置として機能します(本記事は手動運用ベースですが、知っておくと便利です)。
④ファンディングレート(FR)の受け取り構造
Perp取引には「FR(ファンディングレート)」という、ロング側とショート側の間で定期的に支払いが発生する仕組みがあります。ETHのFRは歴史的に「正」になりやすく、ショート保有でFR受取側に回れる頻度が高いのが特徴です。少額運用では誤差レベルですが、規模が大きくなると無視できない第3の収益源になります。
⑤Cross marginモードによる柔軟性
Cross marginモード(複数ポジション間で証拠金を共有する設定)を使うと、口座内の残額をリバランス時の追加証拠金として活用でき、運用設計の柔軟性が高まります。
これら5つの特性が揃っているからこそ、デルタニュートラル戦略がDeFiユーザーにとって現実的な選択肢として成立するのです。
筆者の実運用構造|Hyperliquid Perpショート × Aerodrome CLMM LP
ここからは、筆者が実際に運用している構造を具体的に紹介します。約$1,000の資金配分は次の通りです。

| 配分先 | 金額 | 役割 |
| LP(Aerodrome) | 約$712 | デルタ露出を作る場 |
| Hyperliquid Perp証拠金 | 約$181 | ヘッジ建ての元手 |
| Hyperliquid残equity | 約$99 | リバランス時の追加証拠金 |
ヘッジ側(Hyperliquid)
戦略の中核となるヘッジ側から見ていきましょう。Hyperliquid上でETHの永久先物をショートしています。
- 銘柄:ETH-USD Perp
- ショート量:LP内ETH量の約半分が目安(目標50%、価格変動でリバランス閾値±15%の範囲内で変動する)
- マージンモード:Cross margin
- レバレッジ:清算価格が現在価格の2.5倍以上を確保する水準に抑える
具体例として、後述のスクショ時点(運用2日目、ETH価格約$2,320)ではLP内に0.17553 WETHが含まれ、ショート量は0.0743 ETHでした。実効ヘッジ率は約42%(目安50%に対し価格変動でやや低めの局面)、清算価格は$6,312.9(現在価格の約2.7倍を確保)、ネットデルタは+0.10123 ETHです。
LP側(Aerodrome)
LP側は、Base chain上のDEX「Aerodrome」が提供するSlipstream(AerodromeのCLMM=集中流動性マーケットメイカー型プール)を利用しています。Base chainの低い手数料、TVL(Total Value Locked:プール内ロック総額)の厚さ、AEROトークンemissionによる追加収益という3点が選定の決め手でした。
- プール:CL100 WETH/USDC(手数料Tier 0.058%)
- レンジ:中心価格±6%
- 追加報酬:AERO(Aerodromeのガバナンストークン)emission受取
CLMM(集中流動性マーケットメイカー)とは、Uniswap V3で広く知られるようになった仕組みで、特定の価格レンジを指定して流動性を集中させることで、フィー効率を高めるLPの方式です。
Aerodromeの基本操作については別記事をご参照ください。
▶ 関連:【Base基盤DEX】Aerodrome(エアロドローム)の使い方


リバランスのトリガー
このポジションは、価格がレンジ内にとどまり続け、かつデルタずれが許容範囲内であれば、基本的に放置でOKです。リバランスが必要になるのは以下の2つのケースです。
- ネットデルタが±15%を超えたとき
- ETH価格がLPのレンジ外に出たとき
実際、筆者の14日運用ではどちらも発動せず、リバランス回数はゼロでした。手動運用でも毎日の確認で十分対応可能な頻度感です。
実践フロー|デルタニュートラル戦略の始め方
ここからは、実際にこの戦略を始めるための手順を5つのステップに分けて解説します。
STEP1:ウォレット準備
- メタマスク等のEVM対応ウォレットを用意します
Hyperliquid側はメインウォレットとは別に「APIウォレット」を発行することを推奨します。出金権限のない取引専用ウォレットとして機能するため、メインウォレットの秘密鍵を露出させずに発注でき、万が一APIウォレットの秘密鍵が漏洩しても資産の流出を防げます。
【APIウォレット発行手順】
- ① Hyperliquid公式サイト(https://app.hyperliquid.xyz/)にメインウォレットで接続します
- ② 画面右上のメニュー「More」をクリックし、ドロップダウンから「API」を選択します

- ③ APIページ上部の「The name for the API wallet」欄に、任意の識別名(例:my_api_wallet)を入力します
- ④ 「Generate」ボタンをクリックすると、新しいAPIウォレットのアドレスと秘密鍵が生成されます

- ⑤ 画面に表示されたAPIウォレットの「秘密鍵(Private Key)」を、必ず安全な場所に保管します
⚠ 秘密鍵は一度しか表示されません。保存し忘れた場合は、APIウォレットを再発行する必要があります。
- ⑥ 最後に「Authorize API Wallet」ボタンをクリックすると、メタマスクが起動するので、表示される承認内容に署名します。これでAPIウォレットの登録が完了します
以降、このAPIウォレットの秘密鍵をbotやスクリプトで使用することで、メインウォレットの秘密鍵を一切露出させずに取引コマンドを実行できます。なお、APIウォレットは取引(注文・キャンセル)は可能ですが出金はできない仕様のため、誤操作や漏洩時の損失上限が抑えられる設計になっています。
STEP2:資金分配
運用資金を3つの用途に分けます。
- LP用:ETHとUSDCを50:50(金額ベース)で用意
- Hyperliquid Perp証拠金:USDCをLP資金の25〜30%程度
- Hyperliquid残equity(バッファ):LP資金の10%程度
BaseチェーンへのブリッジやUSDCの調達方法については関連記事をご確認ください。
STEP3:LPセットアップ(デルタ露出を作る)
AerodromeでCLMM LPを作成します。
- プール:CL100 WETH/USDC
- レンジ:中心価格の±6%(狭めるとフィー効率は上がりますがリバランス頻度も上がります)
LPに投入した直後の「ETH保有量」をメモしておきます。次のSTEP4で使う重要な数字です。
STEP4:Hyperliquidでヘッジ建て(戦略の核)
- USDCをHyperliquidの口座に証拠金として入金します
- STEP3で確認したLP内ETH量の50%相当を「成行ショート」(例:LP内に0.17553 WETHあれば、その50%相当の約0.088 ETHを目安にショート)
- 証拠金率は200%以上を維持(清算価格が現在価格の2倍以上が望ましい)
- Cross marginモードを推奨
STEP5:監視とリバランス(手動運用ベース)
日々のチェック項目は次の3つです。
- LPがレンジ内に収まっているか
- ネットデルタが±15%以内か
- Hyperliquidの証拠金率に異常がないか
DEX画面とHyperliquid画面を見るだけで、所要時間は1日5分以内です。リバランス頻度は意外と低く、筆者の14日運用では一度も発動しませんでした。手動運用でも十分回せる戦略です。
なお、さらに頻繁なリバランスや夜間対応をしたい場合はBOT(プログラムによる自動化)化も選択肢になりますが、必須ではありません。
14日間の実運用結果と気づき
ここからは、約$1,000を14日間運用した実際の結果を共有します。
| 項目 | 実測値 |
| 運用期間 | 14日間 |
| 初期資金 | 約$1,000 |
| 累計利益 | +$22.84 |
| 実質APR | 約70% |
| 内訳:LP手数料 | +$19.76 |
| 内訳:Hyperliquid PNL(ヘッジ) | +$3.08 |
| インパーマネントロス影響 | ほぼ0%(期間中の価格変動が小さくレンジ内継続) |
| リバランス発動回数 | 0回(14日連続でIN RANGE) |
| 期間中のETH価格レンジ | 約±3%以内で推移 |
気づき①:下落局面でヘッジが機能した
過去にノーヘッジで$20,000のLPを組み、-$2,300のILを被った経験があります。今回は同様にETHが下落する場面でも、ショート利益でLP側の損失を相殺できる構造をしっかり確認できました(ただし上昇局面では逆の結果になり得る点は次セクションで詳述します)。
気づき②:3重取りが時々発生
「LP手数料」「ショート側のPNL」「ファンディングレート受取」の3つが同時にプラスになる局面が、運用期間中に何度か発生しました(ETHが緩やかに下落かつFRが正のとき)。$1,000規模ではFR部分は誤差レベルですが、構造として「3つの収益源が並走している」というのは面白い発見でした。
気づき③:手動運用でも実行可能な頻度感だった
14日間でリバランスは0回。毎日5分のチェックで十分対応できるレベルでした。BOT化は必須ではなく、「さらに楽にしたい人向けのオプション」という位置づけが現実的だと感じています。
注意点とリスク管理|失敗しないための鉄則
ここからが本記事で最も重要なセクションです。デルタニュートラル戦略には特有のリスクがあり、正しく理解せずに始めると、思わぬ損失を被る可能性があります。
【最重要】ヘッジの非対称性リスク
本戦略は「完全なIL消去」ではなく、LPの含み損益とPerpショートの逆向きPnLを組み合わせる「部分ヘッジ戦略」です。50%ヘッジ設定では、相場局面によって挙動が大きく異なります。
- ETH下落時:ショート利益がLPの損失(IL含む)を大きく相殺し、LP単独運用より下落の痛みが緩和されます(ヘッジが機能)
- ETH上昇時:ショートの含み損がLPの含み益を相殺してしまい、LP単独運用より利益が大きく削られます(強気相場では実損化の可能性もあります)
つまりこの戦略は「レンジ相場〜緩やかな下落相場」で最も力を発揮し、「急騰相場」では不利になる構造です。
なお、ヘッジ比率は「下落保護」と「上昇耐性」が真逆のトレードオフ関係にあります。比率を上げる(例:50%→80〜100%)ほど下落時の保護は強化されますが、その分ショート量が増えるため上昇時の損失も比例して拡大します。逆に比率を下げれば上昇時の痛みは緩和されますが、下落時のヘッジ効果も薄まります。相場観に応じた比率調整が、運用者の判断ポイントです。
その他のリスク
- 【清算リスク】Hyperliquid側の証拠金率は常に200%以上を維持しましょう。残equityはリバランス時の追加証拠金として温存しておきます。
- 【スマートコントラクトリスク】Aerodromeを含むDeFiプロトコルにはバグや脆弱性のリスクが存在します。Audit実績の確認と、TVLの大きいプールを選ぶのが基本です。
- 【カウンターパーティリスク】Hyperliquid自体が中央集権的な要素を含むため、資産の過度な集中は避けましょう。
- 【操作リスク】LP作成・ヘッジ建ての各操作時には、トランザクション内容・スリッページ・残高変動を必ず確認してください。慣れるまでは$50〜$100の少額で操作練習することを推奨します。
- 【始め方の鉄則】最初は$100〜$500の少額で2週間以上テスト運用し、挙動を観察してからスケールアップするのが安全です。
まとめ
Hyperliquidの「オーダーブック型」「低手数料」「APIウォレット」「FR受取」という4つの特性を活かすことで、LP運用の下落リスクを抑えながら安定的なフィー収入を狙える戦略が実現できます。
筆者の14日間検証ではAPR約70%・IL影響ほぼゼロ・リバランス発動0回という結果が出ましたが、これはレンジが安定していた相場局面での結果であり、強気相場ではヘッジが裏目に出る非対称性がある点には注意が必要です。
下落リスクを抑えながらLP運用したい方には有力な選択肢、強気相場でロング露出を取りたい方には不向きです。まずはHyperliquidのアカウント開設と$100規模の少額検証から、相場局面を観察しながら段階的にスケールアップしていきましょう。


