金融庁が資金調達を目的とする暗号資産(仮想通貨)発行事業者に対し、年1回の定期的な情報開示を求める新制度の導入を進めていると、日本経済新聞が16日報じた。
新制度では、発行事業者に対して事業の現況や今後の発行予定、調達資金の使途といった情報の公表を義務付ける。金融審議会の作業部会で制度設計を詰めた上で、2026年の通常国会に提出予定の金融商品取引法改正案に含める方針だ。投資家が十分な情報を得られない状態で損失を被る事態を防ぐ狙いがある。
IEOでの資金調達が拡大
日本国内では、暗号資産取引所を通じた資金調達「IEO(Initial Exchange Offering、新規交換業者公開)」を活用する企業が増加している。別荘兼ホテル事業を展開するNOT A HOTEL(ノットアホテル)は2024年12月、IEOで「NOT A HOTEL COIN(ノットアホテルコイン、NAC)」を発行し約20億円を調達、不動産取得や施設開発に活用した。NACは現在約998円で推移しており、健闘している事例の一つだ。
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新たな開示制度では、発行者が保有する暗号資産の数量、追加発行の計画、調達資金の具体的な使い道などの公表を求める。発行者や取扱交換業者のウェブサイトでの開示を想定する。技術面やリスクに関しても、一般投資家が理解しやすい表現での説明を要請する。
急激な価格下落への対応
一方で、資金調達を目的に発行された暗号資産の中には、上場直後から売り圧力が強まり大幅に値を下げる事例も目立つ。発行価格から大きく下落するケースが相次ぎ、中には当初価格の1割程度まで下落したものも確認されている。
直近では、コインチェックが11月11日にIEOで取り扱いを開始したFanpla(ファンプラ、FPL)が、公募価格1円から16日執筆時点で約0.49円まで下落し、約50%の下落率を記録した。
通常の年次開示に加え、投資判断に大きく影響する事象が発生した場合は、タイミングを問わず速やかな情報公開を求める方針だ。
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ビットコインなど発行者不在の暗号資産
ビットコインに代表される、特定の発行主体が存在しない暗号資産については、これまで業界団体による自主規制の枠組みで取扱業者に情報開示を促してきた。今回の法改正でこれを法的義務に格上げする。重大事象発生時の情報開示は義務化するものの、事業実態が存在しないため年次の定期開示までは求めず、自主規制の範囲にとどめる見通しである。
金融庁は今回の制度整備により、投資家が適切な情報に基づいて判断できる環境を構築し、暗号資産市場の健全な発展を促す考えだ。




