PaymiumやLedger関係者も被害に フランスで急増する身代金型犯罪
フランス国内で2025年に入り、暗号資産(仮想通貨)業界の関係者やその家族を狙った誘拐事件が相次いで発生している。これを受けて、フランス内務省は5月16日、仮想通貨起業家らに対する安全対策を強化する方針を明らかにした。これは、米メディア「Politico Europe」や「Reuters」など複数の報道機関が伝えている。
今回の発表は、同日朝に行われたブリュノ・ルテイヨー内務相とフランスの仮想通貨業界関係者との会合を受けて行われたものだ。報道によれば、フランスでは2025年に入り、少なくとも7件の仮想通貨関係者を狙った誘拐事件が発生しており、そのうち一部は実行に至り、被害者が拘束されたケースもある。
最も最近の事件は5月13日に発生した。フランスの仮想通貨取引プラットフォーム「Paymium(ペイミウム)」のCEO、ピエール・ノワザ氏の娘と孫(息子の子ども)が、パリの路上で3人組の男に誘拐されそうになる未遂事件が起きた。通行人の介入により、犯行は未遂に終わり、大きな反響を呼んでいる。
それ以前には、仮想通貨ハードウェアウォレット企業「Ledger(レッジャー)」の共同創業者であるダヴィッド・バランド氏が誘拐された事件があり、さらに今月初めには別の仮想通貨起業家の父親も誘拐されていた。これらの一連の事件について、ルテイヨー内相は「つながりがある可能性が高い」との見解を示している。
こうした状況を受け、内務省は仮想通貨業界の関係者およびその家族に対する安全対策として、以下の措置を講じると発表した。
- 警察の緊急通報回線への優先アクセスの提供
- 自宅への警察官の訪問による安全上の助言
- 仮想通貨資産に関連したマネーロンダリング対策のための警察官向け訓練の実施
ルテイヨー内相は声明の中で、「仮想通貨業界の専門家を狙ったこれらの繰り返される誘拐事件には、直ちにかつ短期的な手段で対抗する。目的は、予防し、抑止し、妨害することだ」と述べ、業界関係者の保護に強い姿勢を示した。
なお、これらの事件の捜査は、フランスの組織犯罪担当検察が主導しており、すでに数名が逮捕されているという。
一方で、ペイミウムのCEOであるピエール・ノワザ氏は、会合の開催前にフランスの放送局BFMTVのインタビューに応じ、「今回の会合は一種の広報活動のように見える」と述べ、政府の対応に対して懐疑的な姿勢を示した。
仮想通貨業界を取り巻く環境が急速に変化する中で、こうした現実的な脅威に対する政府の具体的対応は、関係者の不安を軽減する一助となる。専門家の立場から見れば、公的機関と民間業界の協力体制が今後の犯罪抑止において重要な鍵を握るといえるだろう。
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