ラザルス絡みの資金洗浄疑惑で方針転換
プライバシー保護を重視する暗号資産(仮想通貨)取引所「eXch」は17日、5月1日をもって同取引所の運営を停止する方針を発表した。eXchは今月に入って新たな経営陣との合併プロセスを開始。経営陣による緊急会議の結果、取引所の運営停止と撤退が決議された。
eXchの運営停止には、2月21日に発生した仮想通貨取引所「Bybit(バイビット)」の約14億ドル相当(執筆時点で約1,992億円)にも及ぶ大規模なハッキング事件が影響している。この事件の首謀者は北朝鮮のハッカー集団「Lazarus Group(ラザルスグループ)」とみられている。ラザルスグループに盗まれた資金のうち、約3,500万ドル(約49億円)がeXchを通じてマネーロンダリング(資金洗浄)された疑惑が浮上していた。
オンチェーン調査員のZachXBT氏は2月22日、自身のTelegram(テレグラム)上の投稿で「eXchが北朝鮮のために約3,500万ドルの盗難資金を処理したうえで、約9万6,000ドル相当(約1,365万円)のイーサリアム(ETH)を誤って他の取引所のホットウォレットへ送金した」と指摘した。
ZachXBT氏の投稿を受け、eXchは同日に仮想通貨のオンラインフォーラム「Bitcointalk(ビットコイントーク)」で声明を発表。ラザルスグループ絡みの資金洗浄への関与を否定し、同取引所が主導した取引ではない点を強調した。しかし、盗難資金のごく一部が偶発的にeXchへ流入した事実を認めている。
eXchは4月17日のBitcointalkの投稿内で、「私たちは資金洗浄やテロなどの疑いをもとに、閉鎖と起訴を目的とした国際的な調査の対象となっている」と主張。外部からの誤解と敵対的な環境下が続く中で、これまで通りの取引サービスを提供し続ける意味を見出せなくなったと明かしている。
なお、5月1日を境にeXchのインフラは新経営陣へ引き継がれる予定だという。同取引所の提携パートナーに対してはAPIへのアクセスが期間限定で提供するが、シームレスな運用のために独自の流動性プールの立ち上げを推奨。必要に応じてコンサルティングも継続する方針だ。
プライバシー保護を観点に置いた取引は、仮想通貨を悪用しようとする犯罪者にとって格好の隠れ蓑になり得る。eXchは同取引所が閉鎖しても、依然として資金洗浄の手段は存在すると強調している。今回のeXchの事例は、今後の規制のあり方やプライバシー技術と犯罪対策の両立に向けた議論をさらに加速させる要因となるだろう。
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