100兆ドル規模の資本を仮想通貨市場へ導く構想
世界で最も多くのビットコインを保有する上場企業として知られる「Strategy(ストラテジー、旧マイクロストラテジー)」社の創業者・現会長としてビットコイン戦略を率いるマイケル・セイラー氏は16日、投資家向けメディア「III Capital」のインタビューに応じ、同社が推進する独自のビットコイン戦略について、その核心を語った。
セイラー氏の戦略は、単にビットコインを「購入して保有する」だけではない。資本市場を駆使して戦略的に保有量を増やし、ビットコインを「デジタル時代の不動産」として捉え、企業価値を最大化するという、多角的かつ緻密なアプローチに基づいている。
以下では、セイラー氏が語ったビットコイン戦略の4つの要点を解説する。
1. 優先事項は「より多くのビットコインを、より安く」
セイラー氏が語る戦略の最優先事項は、「より多くのビットコインを、可能な限り低い資本コストで、株主のために獲得すること」である。
同氏は、ビットコインをインフレによって価値が希釈されていく法定通貨(フィアット)に対する、最も優れた価値の保存手段と位置付けている。そのため、企業の余剰資金をビットコインに換えるだけでなく、後述するさまざまな金融手法を用いて、積極的にビットコインを買い増していくことを基本方針としている。
2. 資本市場を駆使した「レバレッジ戦略」
ストラテジーの戦略を特徴づけるのが、資本市場を積極的に活用する点だ。同社は、転換社債や優先株といった金融商品を巧みに発行し、調達した資金でビットコインを購入し続けている。
セイラー氏によれば、これは「ビットコインの年平均成長率(CAGR)が、資金調達のコスト(金利)を大幅に上回る」という確信に基づいた戦略だという。例えば、年利数パーセントで資金を調達し、その資金で年率数十パーセントの成長が期待できるビットコインを購入できれば、その差分が株主の利益となる。
特に同社は最近、優先株の発行に力を入れている。これは、株式への転換オプションが付いた負債である転換社債よりも、返済義務のない純粋な資本(エクイティ)に近い形での資金調達が可能であり、財務の安定性を保ちながらビットコインを積み増す上で、より優れた手法だとセイラー氏は説明する。
3. ビットコインは「カウンターパーティリスクのないグローバル資産」
セイラー氏は、ビットコインを他の金融資産と比較し、その優位性を「カウンターパーティリスクがない点である」とした。
株式や債券、不動産といった伝統的な資産は、常に発行体や管理者、政府といった第三者(カウンターパーティ)の破綻や規制変更などのリスクに晒されている。一方で、分散型のネットワークで管理されるビットコインには、そのような単一障害点が存在しない。
セイラー氏はビットコインを「カウンターパーティリスクのない、世界で唯一のグローバルなインデックス」と表現する。この表現は、ビットコインを「特定の企業や国家の信用に依存せず、インターネットに接続できれば誰もがアクセスできる、真にグローバルな価値保存手段」と捉える、セイラー氏自身のビットコイン観を反映している。
4. 100兆ドルの「パッシブ・キャピタル」をビットコインへ
セイラー氏の戦略の最終目的は、ストラテジー社を単なるソフトウェア企業ではなく、投資家がビットコインへアクセスするための「資本の導管(conduit for capital)」にすることだ。
同氏は、世界にはインデックスファンドや年金基金などが運用する100兆ドル規模の「パッシブ・キャピタル」が存在すると指摘する。しかし、これらの巨大な資本は、規制や運用方針により、現物のビットコインを直接購入することができないという問題を抱えているとの見解を示している。
だからこそ、ストラテジーの株式(MSTR)やビットコイン現物ETFは、この100兆ドルの巨大資本が、法的に準拠した形でビットコイン市場に参入するための「ゲートウェイ」の役割を果たす。セイラー氏は、この「パッシブ・キャピタルの解放」こそが、ビットコインの価値を次のレベルへ押し上げる最大の触媒になると考えていると述べた。
同氏は、この巨大な資本の一部が流入するだけでも、ビットコインの価格が将来的に100万ドルを超える可能性があるとの見解を示唆している。セイラー氏自身が「ビットコイン時代の新たな企業金融論(a new theory of corporate finance for the Bitcoin era)」と呼ぶこの考えこそが、同氏の戦略の根幹をなしているという。
以上が、企業によるビットコイントレジャリー戦略で現在の市場をリードしているストラテジーの基本的な戦略である。同氏が語った戦略通りにことが進めばビットコイン価格にも大きな影響があるため、今後もビットコインに投資する企業の動向を注視しよう。
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